『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』

segakiyui

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第3話 花咲姫と奔流王

16.2つ目の願い(1)

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 王城に戻ったレダン一行はルッカと再会した。
「まだ戻っていません」
 それこそ家出娘に舌打ちするような様子で、ルッカは吐息を漏らした。
「ただ」
「ただ?」
「街の方で眼帯を付けた赤い髪の娘を見たことがあると言う噂があります」
 レダンは眉を寄せた。
「サリスか?」
「可能性はありますね。もしそうだとしたら、話がややこしくなります」
「…だな」
 攫われたはずのサリストアが無事に街中を闊歩しているなら、それは地下通路で見事レダン達を始末したと思ったから、ではないのか。それとも、元々背後にミラルシアが企みの網を張り巡らせていたのか。
 シャルンは今湯浴みをし、傷を見てもらい、手当を受けている。一刻も早く休ませてやりたいが、集まって来る情報は全く安心できない。
「姫様も戻られ、あなたがおられるのなら、明日、もう少し街を歩いてこようと思います」
 レダンは思わず上目遣いになってしまった。
「私に彼女を任せても?」
「…姫様を無事に連れ戻して下さいましたので」
 ルッカはかすかに笑う。侍女らしからぬ不敵な笑みだった。
「今回はお仕置きは無しにいたしましょう」
「…助かる」
 ガストが見ていたら大笑いするところだが、転んでもタダで起きないガストは、地下通路でこっそりミディルン鉱石の含まれた岩の欠片と例の蓋の上の『ガーダスの糸』のような『あれ』を持ち帰っていた。今はシャルンの体力が回復するまでの数日、研究してみると言って、王城の一室に籠もっている。早馬を飛ばし、ルシュカの谷から『ガーダスの糸』を取り寄せるように命じもしている。『あれ』と『ガーダスの糸』を比較して見るつもりなのだろう。
「…王妃様は見つかるのでしょうか」
「……今のところ、望み薄だ、としか言えない」
 レダンは嘆息した。
 地下通路の一端しか入っていないが、エリクがあの中で迷っていたら外に出るのは僥倖だったろう。レダン達が戻ってこれたのは、ガストが注意深く印をつけていてくれたからだし、あの大蓋のような落石場所が他にもあるとしたら、ほとんど生きては戻れまい。もし、生きて出られたとしたら、苦痛のあまり記憶を失うこともあるかも知れない。ましてや、シャルンの話した、人の傷みを嘲笑う『白い猿』のようなものが居たとしたら、心身共に疲れ切ってしまっただろう。
「エリクが義母上かも知れないというのは可能性にしか過ぎないしな」
「…そうですか」
 ルッカは眉を寄せて俯いた。
「この際だからはっきり聞くが」
 レダンは心配に曇る相手の顔を眺めた。
「お前はシャルンの見張りだったのか? それとも守り手だったのか?」
「………」
 ルッカが唇を引き締める。しばらくの沈黙の後、
「…姫様が『かげ』をご覧になったのは、王妃様がお怪我をされた時が初めてではなかったようです」
「そうなのか」
「うんとお小さい時、それこそ王妃様が抱かれておられるような時から、時々何かを呼ばれるようにお話をされることがあったとお聞きしております」
「…ミディルン鉱石を見て、ではなく?」
「ミディルン鉱石は光って見えたそうです。北の坑道に入ると、どこにあるか指さされたと」
「……ああ、それで余計にハイオルト王は彼女を北に近づけなかったのか」
 今ほど掘り出してしまっていたのなら、深く入らなければわからないだろうが、他国へ嫁ぐことを繰り返した始めの方なら、石切り場に近づくだけでまだまだ埋蔵量があると気づいてしまったかも知れない。
「王は見えなかったのか?」
「…女性にだけ、顕現するものかも知れません」
 ルッカは小さく悲しそうに笑った。
「ああ……なるほどな」
 レダンも苦笑する。いつか考えたハイオルト王のシャルンへの嫉妬は、そんなところからも芽吹いたのかも知れない。
「王妃様は姫様のことを案じておられました。ミディルン鉱石に結び付けられたハイオルトの王族の運命も。ご自身よりはるかに強い力を見せられた姫様を、お守りになろうとされておられました」
「……シャルンにはミディルン鉱石は輝いて見える。だから、シャルンさえ伴えば、その者は容易くミディルン鉱石を発見できる。一国の王なら誰もが欲しがるだろうな」
 ひょっとして、諸国の王に、そのような噂も流したのか?
 レダンは冷ややかにルッカを見た。
「……」
 ルッカは無言になる。肯定と同じだ。誰がと聞く気もないが、聞かなくてもわかる。
「クソ親父が」
 舌打ちした。
「けれど、シャルンは自分のその力を知らないし、自覚もしていない。ミディルン鉱石が見つけられるかどうか証明する機会を、ねだることもなければ試すこともない………いや、王達はそれとなく試した、のか?」
 密かにミディルン鉱石を紛れ込ませておいて、シャルンがそれに気づくか試した者はいるのだろう、例えば砦や街や夜会などで。けれども、見分けていると自覚がないシャルンは、光るものが見えていても指摘することはない。密かに試されているから、何か見えたかと確認されることもない。むしろ、シャルンの中では母を傷つけた禁忌の技だ。無意識に封じるぐらいだろう。結果、シャルンにそんな能力はないと断じられたか。
「……さっきの答えがわかったぞ」
「はい?」
「お前はシャルンの守り手なんだな、王妃直々に依頼された」
「……はい。もし自分に万が一のことがあれば、侍女に志願するようにと」
 溜息をついたルッカは、少し体が縮んで見えた。
「同時に見張りでもあった、野心満々の王達にシャルンが利用されないように」
 そうして無敵の侍女が出来上がったわけだ。
「で、最初の質問だ」
 レダンは腕を組む。
「シャルンは何を見ていたんだろう」
「それは…いえ、それを聞き出すのこそ、あなた様のお役目でしょうに」
 ルッカはじろりとレダンを睨んだ。
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