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第3話 花咲姫と奔流王

2.ガーダスの糸(2)

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 リュハヤをどうするか。
 レダンは殺気立った頭で考えながら離宮に向かう。
 正直さっさと始末してしまえばいいと思わないでもない。レダンの『正しい妃』などと言うふざけたことばを口にした時点で、リュハヤの未来はないも同然だが、あれほど自信有り気に言い放つ裏に何があるのか気にかかる。
 ルシュカの谷は、確かにカースウェルとしては手をつけかねていて、国民の中には荒地のまま放っておかれたと感じているものも少なくないだろう。それなりに対処はしてきたはずだが、龍神教などと言う得体の知れないものが蔓延り、あまつさえエイリカ湖のほとりに『祈りの館』なるものまで建てていたと知ったのは最近、しかもその建物は掘っ立て小屋などではなく、結構大きな代物らしい。
 ハイオルト侵略も、レダンの評価を落とす程のいい理由になったのだろう。他国の女王に妄執を膨らませ、国力を戦いに注ぐ愚かな王には、『正しく清く』育てられた自国の姫を与えておくべし、そう言う発想が透けて見える。
 だが、その龍神教と言うのも眉唾で、エイリカ湖奥深くに棲まう水龍が、ある夜司祭の夢に現れ、カースウェルは滅ぶと予言したことから始まっている。
『アグレンシア様が王位を継がれれば、水龍は正当なる世継ぎを求めて怒り、カースウェルは旱魃に見舞われるでしょう。幼きレダン様には良き後見を選び、正しき即位を行うべきです』
 もちろん、旱魃は起こらなかったし、天変地異も発生しなかった。多少のごたごたはあったものの、国は次第に落ち着いて国力を蓄え、人々は不吉な予言など忘れている。
 それはそれで、龍神教の司祭の物言いはしたたかなもので、
『我が娘を水龍の巫女として捧げ、怒りを鎮めて頂きました。それがなければとっくの昔にエイリカ湖が溢れて氾濫し、水龍治める水底となっていたことでしょう』
 カースウェルの南は海だ。例え水が溢れようと、いずれは全て海に流れ込み、水底になるなどあり得ない。ましてや流れ出す川を持たないエイリカ湖がどうやって溢れ出すのか、そこのところも突っ込みたいが、想像すると、娘にはお前はカースウェルの妃となるのだと言い聞かせて巫女役を押し付けたのかも知れない。
 そう言うことなら、リュハヤも被害者、そうも言えるかも知れないが。
「まあ、同情する気はねえな」
 どんな事情があれ、生き様は自分が選ぶものだ。初めは騙されたとしても、成長すればおかしいとわかるだろう。それでも、レダンの妃と言い張るあたり、リュハヤの方にもそれなりに美味しい部分を期待しているのか。
「なんと言ったかな、あいつは」
 以前はちゃんと名前を名乗っていたはずだが、今は司祭としか呼ばれたがらないとも聞いた。
「…やれやれ」
 面倒臭いものだ。
 溜め息をついたあたりで、広間に着いた。
 今度もまたシャルンはドレス選びに困っているだろう。以前の数倍増やしたドレス、しかも彼女が気に入り、レダンも好ましいと思うドレスを中心にした。いっそ全部欲しいと言ってくれると、それはそれで楽しいかと考えながら、広間を覗き込む。
「……?」
 いない。
「…シャルン?」
 静まり返った広間の中に人が動く気配はない。
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