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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王

31.王の器(4)

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「戴冠式は行わなかったんだって?」
「国民と共に国を立て直すのが先決です」
「それじゃあ、誰もあなたを王だとは認めていないんじゃないの?」
「私は捨て石でいい」
 シャルンはお茶のお代わりを注ぎ足すルッカに微笑む。
「いずれ、より相応しい王を選んでくれるようにとマイン伯に頼んでいます」
「…欲がないことだ」
「私は」
 シャルンはカップを止めた。
 映る懐かしい顔1つ1つを思い出す。
「一度この国を捨てました」
「…」
 サリストアが促すように目をあげる。
「いえ、一度ならず、何度も」
 カップのお茶を静かに飲み干す。
「輿入れをするたびに、何かをした気になっていたけれど、その実、自国の実情さえ自分で確かめることなく、他国へ逃げたのです」
 短く切った髪の毛はリボンとピンで纏め、小花を散らせて飾り付けている。ドレスは豪華ではないが、華やかな薄紅のものだ。城下へ見回りに出る時、また民が何事かを訴えに来た時、必ずそれらの装いが国民の働きによるものであり、身に着けるもの全てに感謝していると伝える。必要ならばいつでも脱ぎ捨て、洗い晒しの一枚で働くつもりなので知らせて欲しいと願う。
 それは王として相応しい振る舞いではないのかもしれない。
 けれど国民は喜んでくれる、私達の働きがあなたを幸せにしているのですねと。
 あなたは私達の苦しみをすぐに背負うと走り寄って来てくれるのですねと。
『大丈夫です姫様、俺ら、まだまだ頑張れますって』
 あなたがそこに居るのなら。
「私は王の器ではありません。私にとって王にふさわしい方は陛下お一人です」
 シャルンはサリストアを見つめた。
「かつておっしゃったでしょう? 隣国に何をしでかすのかわからない最終兵器みたいなものが居るより、せっせと国を安定させてくれる王が居る方が安心だから、と」
 私はハイオルトを落ち着かせる捨て石となります。
「シャルン…」
「そうすれば、カースウェル王もご安心されるでしょう……ダフラムの動きがある時、ハイオルトは陛下の背中をお守りする唯一の盾となるのです」
「……あのさ」
 気づいてないのかもしれないけどさ。
「?」
「その言い方って実は…」
 サリストアが何事か言いかけた矢先、激しい物音が響き渡った。
「なんだ?」
「サリストア様、姫様をお願いいたします!」
 言い捨てたルッカがすぐに飛び出していく。
 サリストアがうっそりと面倒くさそうに立ち上がるが、既にその手に外していた剣を掴んでいる。
「サリストア様…」
「心配しなくていいよ、シャルン。あなたを傷つけさせたら、私があいつに首を奪られるからね」
 何を思い出したのか、くすりと楽しげに笑った。
「そうだよな、こんな落ち着き払った世界じゃ、アルシアが楽しめることなんて、あなたの盾になって諸王とやり合うぐらいだよね」
「え?」
 驚いてサリストアを見るシャルンの耳に、慌ただしく駆け寄ってくる音がした。
 サリストアが身構え、シャルンは邪魔にならないように背後に立つ。
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