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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王

31.王の器(1)

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 ハイオルトの北の採石場からカースウェルに戻ってまもなく、シャルンは公式にレダンから離縁を申し渡された。
 諸国に向けて発表された理由は明瞭だ。
 ハイオルトはミディルン鉱石の枯渇を隠して、カースウェルを欺き、シャルンを王妃に据えようとした。
 信頼を裏切り、友好関係を破綻させた。
 カースウェルは非常な落胆を覚えている。
 よってシャルン妃を離縁し、ハイオルトとの国交を断絶する。

 諸国は驚き呆れ、次いで、各王が我こそがシャルン姫を娶りたいとこぞって求婚した。
 シャルンの深い傷を思いやり、婚儀を重ねなくても休養に来られたしと誘いもした。
 だが、シャルンはいずれの申し出にも同意しなかった。
 これまた理由は明瞭だった。
 ハイオルトは現在財政危機にあり、国としての存続が危ぶまれるほどである。
 しかしシャルンはハイオルトに戻り、父王を助け、諸国へ問題を広げないよう全身全霊で解決に務めるつもりである。
 そのため、今はハイオルトに留まり、ハイオルトのために働きたい。
 諸国の王には心苦しくあるが2つのことをお願いしたい。
 1つ、ハイオルトが国として立ち直るまでミディルン鉱石の売却を控えさせて頂きたい。
 1つ、ハイオルトが国として立ち直った暁には、再び親しく国交を重ねて頂きたい。
 つまり、ハイオルトはどの国にも容易く蹂躙されるほど弱々しい国と成り果てたと伝えることで、各国がお互いを牽制し合うような状態を作った。
 ハイオルトを手に入れた国はシャルンとミディルン鉱石の産出場所を手に入れる。もちろん、協力して攻め込むのも有りだ、だが、勝利した後の配分は何をどのように分けるつもりか?
 手放したとは言え、カースウェルも大人しくしていないだろう。どの国かが動き始めた矢先、レダン王が飛び込んでくることは十分に予想できる、何せ相手はシャルンを溺愛していたのだから。

 各国の睨み合いは2ヶ月に及んだ。
 その2ヶ月をシャルンはマイン伯、ユルク伯、ティルト伯の助けを受けて必死に働いた。
 人人攫いの体を装い人々を採石場へ送り込んで私腹を肥やしていたベーツ伯、放火犯を囲い込み目ぼしい家を焼き払っては財産を掠めていたシャルテ伯はもとより、薄々2人の悪事に気づいていながらも分け前を受け取って口を拭っていたトライステ伯、地位を笠に着て国が求めていない重税を課していたバーン伯をその任より下ろした。
 7伯の領地を検分し、残り3伯でどう治めるか、またどのような産業の開発が可能か話し合った。
 『水晶亭』のバラディオスに『7伯』の一となることを願ってみたが、市井の中でこそ自分の能力は生かされるとして、首を縦に振らなかった。代わりにシャルンはバラディオスに『辺境伯』の名を授け、ハイオルトの外周を回る商隊の管理と交易を任せた。
 レダンの元を離れた悲しみを巡視で紛らせ、夜の切なさを悩める民の陳情を聞くことでしのいだ。
 人にとって、誰にも譲れず掛け替えのない役割がどれほど大事なものなのか、孤独に苦しむ心にどれほど救いとなるのかを理解したシャルンは、父王にハイオルト王家史の編纂を委ねた。
『それはきっと、お父様以外、誰にも成し得ないことでしょう』
 シャルンに説かれた父王は深く納得し、城の奥深くに籠り、先人の歩みを学び続けている。
 どうにかこうにか、ハイオルトが落ち着き始めた頃、事件は起きた。
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