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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王
26.ハイオルトの真実(1)
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「悪い顔をしてますね」
茶を運んできたガストが冷ややかに指摘した。
「そうか?」
書類を確認しながらレダンは薄く笑う。
「いかにも悪そうです」
「懐かしいだろ」
「…ただでシャルン妃をハイオルトに戻すつもりじゃないですね?」
「もちろん」
カップを口元に寄せながら尋ねる。
「じゃあ復習だ。ハイオルトには『虹の7伯』と呼ばれる者が居る。名前は?」
「ユルク伯、ベーツ伯、マイン伯、シャルテ伯、ティルト伯、バーン伯、トライステ伯」
「その内、北の採石場に関わっているのは」
「ベーツ伯、マイン伯、シャルテ伯、バーン伯、トライステ伯」
「酷いもんだ」
レダンは溜め息をつく。寒々しい気分で短くなった髪をがしがし掻く。
「中核を仕切る7伯中、5伯が身中の虫と言うわけか」
「ただ」
新しい茶を注ぎ入れながら、ガストは静かに続ける。
「マイン伯はミディルン鉱石の管理を必死に正そうとしていて、周囲から迫害を受けつつも、なんとか流通を保っているようです」
「ハイオルト王はご存知ないのか」
「シャルテ伯やベーツ伯が巧みに立ち回って、ミディルン鉱石の産出がぎりぎりであると信じ込まされているばかりか、その少ない量を国力保存のためと5伯が仕切る貯蔵庫に一部割り振っているとか」
「娘一人を外国へ放り出しておきながら、だな」
「……今回、奥方様に手紙を送るように唆したのも、そのあたりの気配が伺えますね。ちなみに奥方様のお話から察するに、彼女を貧困が目立つ下町ばかりに導いたのはベーツ伯かと」
「一通り消しちまっていいな」
ぼそりと唸ったレダンに、ガストが吐息する。
「面倒ですよ? 富裕層が支配するのに慣れきっている民衆は、自分達の行く末も決められない」
「根こそぎ潰す気はないさ」
レダンはくつくつ嗤う。
「ハイオルト王には立派に君臨頂いて、働いてもらいやすい諸侯には残って頂ければいい」
「……レダン?」
「なんだ?」
「…万が一にもシャルン妃を手放す気はありませんね?」
じっと見つめるガストに苦笑を返す。
「ケダモノだからな?」
獲物を奪う相手は蹂躙するものだ。
「まずマイン伯から接触しろ。続けてユルク伯、ティルト伯に協力を求める」
「残りは」
「潰す」
言い捨てると、ガストは一礼して引き下がって行った。
茶を運んできたガストが冷ややかに指摘した。
「そうか?」
書類を確認しながらレダンは薄く笑う。
「いかにも悪そうです」
「懐かしいだろ」
「…ただでシャルン妃をハイオルトに戻すつもりじゃないですね?」
「もちろん」
カップを口元に寄せながら尋ねる。
「じゃあ復習だ。ハイオルトには『虹の7伯』と呼ばれる者が居る。名前は?」
「ユルク伯、ベーツ伯、マイン伯、シャルテ伯、ティルト伯、バーン伯、トライステ伯」
「その内、北の採石場に関わっているのは」
「ベーツ伯、マイン伯、シャルテ伯、バーン伯、トライステ伯」
「酷いもんだ」
レダンは溜め息をつく。寒々しい気分で短くなった髪をがしがし掻く。
「中核を仕切る7伯中、5伯が身中の虫と言うわけか」
「ただ」
新しい茶を注ぎ入れながら、ガストは静かに続ける。
「マイン伯はミディルン鉱石の管理を必死に正そうとしていて、周囲から迫害を受けつつも、なんとか流通を保っているようです」
「ハイオルト王はご存知ないのか」
「シャルテ伯やベーツ伯が巧みに立ち回って、ミディルン鉱石の産出がぎりぎりであると信じ込まされているばかりか、その少ない量を国力保存のためと5伯が仕切る貯蔵庫に一部割り振っているとか」
「娘一人を外国へ放り出しておきながら、だな」
「……今回、奥方様に手紙を送るように唆したのも、そのあたりの気配が伺えますね。ちなみに奥方様のお話から察するに、彼女を貧困が目立つ下町ばかりに導いたのはベーツ伯かと」
「一通り消しちまっていいな」
ぼそりと唸ったレダンに、ガストが吐息する。
「面倒ですよ? 富裕層が支配するのに慣れきっている民衆は、自分達の行く末も決められない」
「根こそぎ潰す気はないさ」
レダンはくつくつ嗤う。
「ハイオルト王には立派に君臨頂いて、働いてもらいやすい諸侯には残って頂ければいい」
「……レダン?」
「なんだ?」
「…万が一にもシャルン妃を手放す気はありませんね?」
じっと見つめるガストに苦笑を返す。
「ケダモノだからな?」
獲物を奪う相手は蹂躙するものだ。
「まずマイン伯から接触しろ。続けてユルク伯、ティルト伯に協力を求める」
「残りは」
「潰す」
言い捨てると、ガストは一礼して引き下がって行った。
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