『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』

segakiyui

文字の大きさ
上 下
97 / 216
第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王

23.シャルンの決意(1)

しおりを挟む
「本当にあなたは無茶をする」
 二人に与えられた居室に戻って、レダンはしみじみと嘆息する。
「申し訳ありません…」
「こんなに大胆な女性だとは思わなかったな」
「申し訳…」
「はい、口開けて」
「あの…」
「抵抗しないで、大人しく口を開けなさい。アルシアの食べ物は旨いよ?」
「はい…」
「はい、あーん」
「あ、あーん……」
 シャルンは隣に座ったレダンが差し出す銀のスプーンに盛られた野菜に、恥ずかしくなりながら口を開ける。ちょうど一匙、シャルンが食べ切れる分量で口に落とし込まれたのをもぐもぐ食べながら、レダンが小また小さく溜め息をつくのに、しょんぼりした。
「美味しい?」
「はい、とっても」
「じゃあ次は魚かな」
「あの陛下、私、自分で食べられます」
「無理だろ」
 一言の元に切り捨てられる。
「着替えだってルッカに手伝ってもらったし、せめて食事ぐらい私に面倒を見させてくれないかな」
 第一、その両手は上がらないのでは?
 穏やかに確認されて顔が熱くなる。
 『薔薇の大剣』は重かった。国を背負うと言う重責を示すものだから、重くて当然だとは思ったが、それでもミラルシアが軽々片手で引き取ったそれを掲げた両手は痺れ、肩は痛んで動かせなかった。
 レダンは疲労したシャルンと共に今夜は居室に引き上げたいと申し出た。止める者はいなかったし、止めようとしてもレダンは応じなかっただろう。
 ミラルシアは引き止めたそうだったが、レダンは振り向けたにこやかな笑顔にどす黒く見えるほどの怒りをちらつかせていて、ガストが間に入らなければ一戦交えかねない勢い、さすがにまずいと踏んだのだろう、戻ってきていたサリストアがそれとなくミラルシアを制して、二人は居室に引き上げた。
 そうして今、運び込まれた豪勢な夜食を、レダンは嬉々としてシャルンに食べさせてくれている。
「はい、あーんして」
「…」
「あーん」
「…あ…あーん」
 恥ずかしい。
 幼子のように一匙ずつ食べ物をもらって、しかも一口ずついとしげに覗き込まれて、全身熱くてくらくらする。
「ん? 骨があったか?」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ次は肉だな、これはどうかな、柔らかく煮込まれている」
「はい、頂きます」
「あーん」
 楽しげに口を開けと促すレダンにシャルンは訴えた。
「あ…あのっ」
「うん?」
「あの、陛下、せめて、あの、あーんなしでは」
「ダメだ」
 レダンは真面目な顔で首を振った。
「これはお仕置きだからな」
「…はい?」
「俺に助けを求めず、自分一人であんな状況を何とかしようとしたあなたへの」
「でも、あれは…」
 むくれた顔も拗ねた声も可愛らしくて、思わず笑いかけたシャルンは、ミラルシアのことだけを話しているのではないと気づいた。
「陛下…私は」
「聞かない」
「…まだ何も申し上げてません」
「話し出したら終わりだろ」
 ぼそりと唸るレダンの表情は一転険しい。肉を掬った銀のスプーンを睨みつけつつ、
「くそっ」
「陛下…」
「俺がカースウェルの王なんかじゃなければ」
「陛下……」
 驚いてシャルンは目を見開く。ちらりとこちらを見やった紺色の瞳は悔しそうで苦しそうに光っている。
「あなたにこんな思いをさせなかった」
「違います」
「国なんて背負ってなければ」
「違います」
「あなたがそんな決心をすることもなかった」
「…陛下」
 ひやりとして思わず尋ねる。
「ルッカに何か聞かれたのですか」
「…あーん」
「………あーん…」
 差し出された肉を口に入れてもらい、噛み締める。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】妃が毒を盛っている。

井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...