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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王
23.シャルンの決意(1)
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「本当にあなたは無茶をする」
二人に与えられた居室に戻って、レダンはしみじみと嘆息する。
「申し訳ありません…」
「こんなに大胆な女性だとは思わなかったな」
「申し訳…」
「はい、口開けて」
「あの…」
「抵抗しないで、大人しく口を開けなさい。アルシアの食べ物は旨いよ?」
「はい…」
「はい、あーん」
「あ、あーん……」
シャルンは隣に座ったレダンが差し出す銀のスプーンに盛られた野菜に、恥ずかしくなりながら口を開ける。ちょうど一匙、シャルンが食べ切れる分量で口に落とし込まれたのをもぐもぐ食べながら、レダンが小また小さく溜め息をつくのに、しょんぼりした。
「美味しい?」
「はい、とっても」
「じゃあ次は魚かな」
「あの陛下、私、自分で食べられます」
「無理だろ」
一言の元に切り捨てられる。
「着替えだってルッカに手伝ってもらったし、せめて食事ぐらい私に面倒を見させてくれないかな」
第一、その両手は上がらないのでは?
穏やかに確認されて顔が熱くなる。
『薔薇の大剣』は重かった。国を背負うと言う重責を示すものだから、重くて当然だとは思ったが、それでもミラルシアが軽々片手で引き取ったそれを掲げた両手は痺れ、肩は痛んで動かせなかった。
レダンは疲労したシャルンと共に今夜は居室に引き上げたいと申し出た。止める者はいなかったし、止めようとしてもレダンは応じなかっただろう。
ミラルシアは引き止めたそうだったが、レダンは振り向けたにこやかな笑顔にどす黒く見えるほどの怒りをちらつかせていて、ガストが間に入らなければ一戦交えかねない勢い、さすがにまずいと踏んだのだろう、戻ってきていたサリストアがそれとなくミラルシアを制して、二人は居室に引き上げた。
そうして今、運び込まれた豪勢な夜食を、レダンは嬉々としてシャルンに食べさせてくれている。
「はい、あーんして」
「…」
「あーん」
「…あ…あーん」
恥ずかしい。
幼子のように一匙ずつ食べ物をもらって、しかも一口ずついとしげに覗き込まれて、全身熱くてくらくらする。
「ん? 骨があったか?」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ次は肉だな、これはどうかな、柔らかく煮込まれている」
「はい、頂きます」
「あーん」
楽しげに口を開けと促すレダンにシャルンは訴えた。
「あ…あのっ」
「うん?」
「あの、陛下、せめて、あの、あーんなしでは」
「ダメだ」
レダンは真面目な顔で首を振った。
「これはお仕置きだからな」
「…はい?」
「俺に助けを求めず、自分一人であんな状況を何とかしようとしたあなたへの」
「でも、あれは…」
むくれた顔も拗ねた声も可愛らしくて、思わず笑いかけたシャルンは、ミラルシアのことだけを話しているのではないと気づいた。
「陛下…私は」
「聞かない」
「…まだ何も申し上げてません」
「話し出したら終わりだろ」
ぼそりと唸るレダンの表情は一転険しい。肉を掬った銀のスプーンを睨みつけつつ、
「くそっ」
「陛下…」
「俺がカースウェルの王なんかじゃなければ」
「陛下……」
驚いてシャルンは目を見開く。ちらりとこちらを見やった紺色の瞳は悔しそうで苦しそうに光っている。
「あなたにこんな思いをさせなかった」
「違います」
「国なんて背負ってなければ」
「違います」
「あなたがそんな決心をすることもなかった」
「…陛下」
ひやりとして思わず尋ねる。
「ルッカに何か聞かれたのですか」
「…あーん」
「………あーん…」
差し出された肉を口に入れてもらい、噛み締める。
二人に与えられた居室に戻って、レダンはしみじみと嘆息する。
「申し訳ありません…」
「こんなに大胆な女性だとは思わなかったな」
「申し訳…」
「はい、口開けて」
「あの…」
「抵抗しないで、大人しく口を開けなさい。アルシアの食べ物は旨いよ?」
「はい…」
「はい、あーん」
「あ、あーん……」
シャルンは隣に座ったレダンが差し出す銀のスプーンに盛られた野菜に、恥ずかしくなりながら口を開ける。ちょうど一匙、シャルンが食べ切れる分量で口に落とし込まれたのをもぐもぐ食べながら、レダンが小また小さく溜め息をつくのに、しょんぼりした。
「美味しい?」
「はい、とっても」
「じゃあ次は魚かな」
「あの陛下、私、自分で食べられます」
「無理だろ」
一言の元に切り捨てられる。
「着替えだってルッカに手伝ってもらったし、せめて食事ぐらい私に面倒を見させてくれないかな」
第一、その両手は上がらないのでは?
穏やかに確認されて顔が熱くなる。
『薔薇の大剣』は重かった。国を背負うと言う重責を示すものだから、重くて当然だとは思ったが、それでもミラルシアが軽々片手で引き取ったそれを掲げた両手は痺れ、肩は痛んで動かせなかった。
レダンは疲労したシャルンと共に今夜は居室に引き上げたいと申し出た。止める者はいなかったし、止めようとしてもレダンは応じなかっただろう。
ミラルシアは引き止めたそうだったが、レダンは振り向けたにこやかな笑顔にどす黒く見えるほどの怒りをちらつかせていて、ガストが間に入らなければ一戦交えかねない勢い、さすがにまずいと踏んだのだろう、戻ってきていたサリストアがそれとなくミラルシアを制して、二人は居室に引き上げた。
そうして今、運び込まれた豪勢な夜食を、レダンは嬉々としてシャルンに食べさせてくれている。
「はい、あーんして」
「…」
「あーん」
「…あ…あーん」
恥ずかしい。
幼子のように一匙ずつ食べ物をもらって、しかも一口ずついとしげに覗き込まれて、全身熱くてくらくらする。
「ん? 骨があったか?」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ次は肉だな、これはどうかな、柔らかく煮込まれている」
「はい、頂きます」
「あーん」
楽しげに口を開けと促すレダンにシャルンは訴えた。
「あ…あのっ」
「うん?」
「あの、陛下、せめて、あの、あーんなしでは」
「ダメだ」
レダンは真面目な顔で首を振った。
「これはお仕置きだからな」
「…はい?」
「俺に助けを求めず、自分一人であんな状況を何とかしようとしたあなたへの」
「でも、あれは…」
むくれた顔も拗ねた声も可愛らしくて、思わず笑いかけたシャルンは、ミラルシアのことだけを話しているのではないと気づいた。
「陛下…私は」
「聞かない」
「…まだ何も申し上げてません」
「話し出したら終わりだろ」
ぼそりと唸るレダンの表情は一転険しい。肉を掬った銀のスプーンを睨みつけつつ、
「くそっ」
「陛下…」
「俺がカースウェルの王なんかじゃなければ」
「陛下……」
驚いてシャルンは目を見開く。ちらりとこちらを見やった紺色の瞳は悔しそうで苦しそうに光っている。
「あなたにこんな思いをさせなかった」
「違います」
「国なんて背負ってなければ」
「違います」
「あなたがそんな決心をすることもなかった」
「…陛下」
ひやりとして思わず尋ねる。
「ルッカに何か聞かれたのですか」
「…あーん」
「………あーん…」
差し出された肉を口に入れてもらい、噛み締める。
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