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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王

10.伝説の祭(2)

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「神様達は2度目もいいのね?」
 思わずと言った口調でワクバの美味しさを語ったマーベルが突っ込む。
「だから人の2度目が駄目なのかもしれないわ」
 デコンを是非と話したイルラがまぜっ返す。
「神々の扮装をしたものはどうするのですか?」
 不安そうに一番年若いベルルが尋ねると、
「カルスの町では祭りを邪魔すると1年不作が続くので、その者は次の1年ひたすら他家の手伝いをすることになっていますよ」
 ヤワスを勧めたイラシアが応じた。
「『宵闇祭り』では、神々に扮した者が取り締まるというのですから、無粋な者の仮面を剥いでいくのかもしれませんね」
 ルッカが頷きながら答える。
「とても賑やかそうなお祭りね」
 シャルンは溜め息をついた。
 もちろん、ザーシャルのダンスもしっかり覚えているけれど、それだけ多数の人と踊るならば、間違えないように練習しておかなくてはならない。
「…陛下にお相手をお願いしても…いいのかしら」
 そこで思い出したのが今朝の食卓だ。
「…呆れてしまわれたかしら」
 ラルハイドの夜のこと、媚薬を一気飲みしたところは覚えている。
 次に気がついたのは、朝日差し込むベッドで、はだけられた胸元を包み込むように引き寄せられた、レダンの腕の中だ。
 レダンは衣服をつけたままだったし、シャルンの下着は脱がされていなかった。
 思い切って踏み込んだ一歩だったけれど、きっと薬が強すぎて、シャルンはすぐに眠り込んでしまったのだろう。だから夜じゅう吠えるという魔物の声にも気づかなかったのに違いない。
 胸元は多分、息苦しいとか熱いとか訴えたので、レダンが緩めてくれたのだろう。
 胸乳が溢れそうなぎりぎりだったけれど、そこまで開いてもレダンはシャルンを求めてくれなかったとなると、これはもう根本的に趣味嗜好の問題かもしれない。
 そうなると、ひょっとするとシャルンとの結婚は偽装なのではないか。
 確かにそれならば、ひどく優しく甘いのも、妻の自覚を詰られたのも説明がつく。
 あまり妻が他の男性と親しくするのを放置していては、実際の夫婦ではないことが疑われてしまうからではないのか。
 本当に、自分が鈍いのにもほどがある。
 ラルハイドから戻って季節が動くほど時間が立っているのに、どうしていつまでもレダンの気持ちを計りかねているのだろうか。
 そこから一所懸命に考えてのガストへの寵愛だったが、これは2人から毛を逆立てんばかりに否定され、青ざめた顔で詰られた。
 曰く。
 なぜそんな状況に『こんなの』と陥らなくてはならないのか、まず好みというものがあるだろう。
 そんなことを誰が思わせたのか、どういう経過から考えたのか。
 できれば、そういう考えは記憶から一切消し去り、後々まで絶対に考えないで欲しい。
 できることなら、今この瞬間から忘れて欲しい。
 もしそれができなければ。
『私はしばらく城内に立ち入ることを控えたいと存じます』
 深刻な顔でガストに訴えられては、さすがに違うと思わざるを得なかった。
 では、なぜ?
 なぜ、シャルンはレダンに求めてもらえない?
 もう妻になって数ヶ月は経ちつつあるのに、なぜ。
「…奥方様?」
「…あ、はい」
「お疲れになりましたか?」
 気がつくと、女官達が不安そうに覗き込んでいてくれた。
「いえ、まったく知らないお祭りなので……それに、無礼講というのが私、苦手で…」
 答えを返しつつ、ああそうだと気がついた。
 格式儀礼を重んじるなら、学べばいい、覚えればいい。
 だからステルン王国もラルハイド王国も、勉強を重ね訓練することで乗り越えた。
 けれど、今回のザーシャル王国では、おそらくシャルンも仮面をつけて楽しむことが望まれるのだろう。
 レダンは問題がない。ガストもその辺りはうまく振る舞えるだろう。
 けれどシャルンはどう振る舞えばいいのかがわからない。
「姫、いえ、奥方様、難しくお考えにならないで、お好きなようにされれば良いんですよ」
 ルッカが慰めてくれた。
 よほどシャルンが戸惑った顔をしていたのだろう、もう1つ焼き菓子を勧めてくれ、ありがたく受け取って口に運ぶ。
 さくりと唇で解れる菓子は甘くて香ばしい。
「ルッカ…」
「はい」
「私、どうしたら『好きなように』振る舞えるのかがわからないわ」
「姫様…」
 思わずと言った調子で溢れた声に顔を上げれば、ルッカが目を潤ませている。
「なんと、おいたわしい」
「奥方様、まあ、なんということでしょう」
 女官達も口々に痛ましげに声を合わせる。
「カースウェルの王妃ともあろう方が、お好きなように過ごされておられないとは」
「私共、力不足でございました」
 次々と頭を下げてくれる。
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