50 / 216
第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王
8.茜色の要塞(2)
しおりを挟む
それから隙を見ては返そうとしていたのだが、シャルンもどうやら探しているらしく、小机周辺からなかなか離れてくれない。侍女に申しつけて戻すにも、薬まで使って非道な振る舞いでもするのかと勘ぐられそうで嫌だし、万が一シャルンに媚薬だと分かったと知られたら、それはそれで収集がつかなくなりそうで怖い。
ただでさえ、遊んでいるなどと余計な事を吹き込んでくれたのもいるのだし。
昼は公務があるから良いとして、夜は小瓶を目にするたびに落ち着かなくなる。
一体シャルンはなぜこんなものを持っているのか。
どこから手に入れたのか。
どう言うつもりで手に入れたのか。
そしてここが最大の問題だが、どうしてレダンに使ってくれるつもりがなかったのか。
「…他のやつ、とか…?」
ベッドに寝転びながら小瓶をくるくる回して眺める。
「例えば、あのクソ教師か?」
さすがに国外追放などしてはシャルンが驚くだろうから、それとなく理由をつけて、城から遠ざけ、地方に住む場所を変えさせたりしたのだが。
「…馬車もあるよなあ…」
会おうと思えば会えないこともない。
「……どうする気だったんだ、こんなの」
例えば小瓶を手にしたシャルンがあいつを待ち、やってきたあいつがにっこりとシャルンを誘い、ついでに二人で軽い酒などに垂らして。
「……畜生」
頭の中が靄で覆われて唸る。
「俺だって『まだ』なんだぞ」
それともあいつか、とレダンはギースの事を思い出す。
シャルンはギースをグラスタスと呼んだ。幼名で呼ぶなんて、よほど近しい関係だ。
けれど、そんな関係ではなかったはずだし、第一、ギースに傷つけられたのではなかったのか。
「……」
小瓶を眺める。
本当は気づいている。
シャルンはたまたま、あるいはみっともないから取り柄がないから、諸国の王に断られている訳ではない。意図的に、恣意的に、彼女は賢く立ち振る舞って破談を導いているのだ。
そんなシャルンがレダンには嫁いでくれた。
理由は簡単だ。
レダンがずる賢く逃げ道を塞ぎ、しかもハイオルトの安寧を餌に脅したからだ。
シャルンは頷くしかなかった、嫁ぐしかなかった、レダンの元に。
今までの王とどこが違う。
「………」
溜め息をついた。
ケダモノになれない理由だ。
レダンはシャルンに望まれていない。
小瓶を指先で回す。
望んでさえくれればいつだって応じるつもりがあるのに、こんなものを持っているのに使ってもくれない。
小瓶を返したくない。
返したら、シャルンが誰かに使ってしまう。
ただでさえ可愛いシャルンが、こんなものを使ってもっと愛らしくなってしまったら、堪えられる男など絶対いない、断言する、玉座をかけても良い。
「はあ…」
泣きたくなってきた。
シャルンの顔が見られない。
見たら最後、所構わず押し倒しかねない。
なのに今夜は、同じ部屋で同じベッドだ。
煮詰まっていたら、シャルンを追い詰めてしまった。
大人気ない。
男らしくない。
どうしようもない、ばかだ。
ただでさえ、遊んでいるなどと余計な事を吹き込んでくれたのもいるのだし。
昼は公務があるから良いとして、夜は小瓶を目にするたびに落ち着かなくなる。
一体シャルンはなぜこんなものを持っているのか。
どこから手に入れたのか。
どう言うつもりで手に入れたのか。
そしてここが最大の問題だが、どうしてレダンに使ってくれるつもりがなかったのか。
「…他のやつ、とか…?」
ベッドに寝転びながら小瓶をくるくる回して眺める。
「例えば、あのクソ教師か?」
さすがに国外追放などしてはシャルンが驚くだろうから、それとなく理由をつけて、城から遠ざけ、地方に住む場所を変えさせたりしたのだが。
「…馬車もあるよなあ…」
会おうと思えば会えないこともない。
「……どうする気だったんだ、こんなの」
例えば小瓶を手にしたシャルンがあいつを待ち、やってきたあいつがにっこりとシャルンを誘い、ついでに二人で軽い酒などに垂らして。
「……畜生」
頭の中が靄で覆われて唸る。
「俺だって『まだ』なんだぞ」
それともあいつか、とレダンはギースの事を思い出す。
シャルンはギースをグラスタスと呼んだ。幼名で呼ぶなんて、よほど近しい関係だ。
けれど、そんな関係ではなかったはずだし、第一、ギースに傷つけられたのではなかったのか。
「……」
小瓶を眺める。
本当は気づいている。
シャルンはたまたま、あるいはみっともないから取り柄がないから、諸国の王に断られている訳ではない。意図的に、恣意的に、彼女は賢く立ち振る舞って破談を導いているのだ。
そんなシャルンがレダンには嫁いでくれた。
理由は簡単だ。
レダンがずる賢く逃げ道を塞ぎ、しかもハイオルトの安寧を餌に脅したからだ。
シャルンは頷くしかなかった、嫁ぐしかなかった、レダンの元に。
今までの王とどこが違う。
「………」
溜め息をついた。
ケダモノになれない理由だ。
レダンはシャルンに望まれていない。
小瓶を指先で回す。
望んでさえくれればいつだって応じるつもりがあるのに、こんなものを持っているのに使ってもくれない。
小瓶を返したくない。
返したら、シャルンが誰かに使ってしまう。
ただでさえ可愛いシャルンが、こんなものを使ってもっと愛らしくなってしまったら、堪えられる男など絶対いない、断言する、玉座をかけても良い。
「はあ…」
泣きたくなってきた。
シャルンの顔が見られない。
見たら最後、所構わず押し倒しかねない。
なのに今夜は、同じ部屋で同じベッドだ。
煮詰まっていたら、シャルンを追い詰めてしまった。
大人気ない。
男らしくない。
どうしようもない、ばかだ。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる