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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王
3.ドレスが憎い(2)
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シャルンの礼儀作法の教師とダンスの教師を欲しがっているとの望みはすぐに叶えた。
けれど、こんな事態に至るとは。
「過去の俺が憎い」
「…はい?」
ステップを数歩進んだシャルンが振り仰ぐ。
かつてドレスが並んでいた広間で二人、ダンス教師ラドクリフは何か恐ろしいものを見たように早々に辞し、ガストも好きなようにやってください私は忙しいと出て行った後、小さく口で数を数えながらレダンはシャルンとダンスを練習している。
いつもなら楽師を呼ぶところだ。音楽を奏でさせ、それを聴きながらステップを踏む。
けれど今はシャルンと二人で過ごしたかった。
「どうしてあなたに似合うドレスばかり買ってしまったのか」
「あの…それは…」
シャルンが不安そうに瞬き、そっと俯く。
前へ前へ、一度立ち止まって、再び前へ前へ前へ。
「…私…陛下を失望させてしまったのですね」
悲しげな口調にはっとする。
「違う、違うぞ、シャルン」
慌ててステップを止めようとしたが、シャルンが細い手で先へ導くものだから、前へ前へと繰り返す。
「…私…わがままになりました」
「?」
「…陛下をがっかりさせていても…この手を離したくないのです」
「……」
俯いて進むシャルンの足元にきらきら光る雫が落ちたのを見て、レダンは無理やり立ち止まる。先へ行こうとするシャルンを抱き寄せ、小さな顎を掬い上げれば、やっぱり薄水色の瞳は涙でいっぱいになっていて。
口づけた。
震える唇が塩辛くて甘くて、切なくなりながら何度か重ね、そっと離す。
「聞いてなかった?」
「?」
見開く瞳に微笑む。
「俺はあなたに踏んづけられたいんだが」
「…あれは」
慰めてくださったのでしょう?
シャルンが一所懸命に笑い返す。
「私、陛下のお役に立ちたいのです」
「うん」
「だから、礼儀作法とダンスをしっかり学んで」
「うん」
「どちらに出向いても、陛下にお辛い想いをして頂かなくても良いように頑張って」
「うん」
堪えきれなくて、また額にキスし、頬にキスする。柔らかな声を聞き続けたかったから、唇には触れられない、切ない苦しさを甘く味わう。
「けれど、こんなに覚えが悪くては、陛下のお側にいてもご迷惑をおかけするかもしれません」
ぽろりと新たな涙が溢れる。
「私はそれでもわがままですから、陛下が第二妃がいても良いとおっしゃって下さるなら、お側に侍りとうございます」
「はあ?」
レダンは思わず間抜けた声を上げた。
「第二妃? それはあなたが側妃になるということ?」
「はい」
「……あなたは、俺が他の女性を慈しんでもいいの?」
「……嫌です」
シャルンが苦しそうに唇を噛む。
「けれど、陛下がお困りになるのはもっと嫌です」
「…シャルン、ああもう、シャルンってば」
他の者が聞けば、例えばガストでも聞こうものなら、恐らく幻聴が聞こえたと寝込みかねないほどの甘さで嘆いて、レダンはシャルンの額にキスした。
「頼むから、訳のわからないことを言わないでくれ」
俺はあなたに振られたのかと思ったぞ。
「まさか、陛下!」
シャルンが抗議の声を上げる。
「陛下を慕わない女性などおりません!」
「…凄いな、それは」
レダンは泣いていいやら笑っていいやら、思わず顔を歪めた。
「どこからかおかしなことを聞いただろう」
「え?」
「俺が遊んでいたと聞かされた?」
「…え、あの」
「……ルッカ、かな?」
「いえ、あの」
「……もしかすると、今の先生様かな…?」
自分の声が一気に温度を下げるのがわかった。
けれど、こんな事態に至るとは。
「過去の俺が憎い」
「…はい?」
ステップを数歩進んだシャルンが振り仰ぐ。
かつてドレスが並んでいた広間で二人、ダンス教師ラドクリフは何か恐ろしいものを見たように早々に辞し、ガストも好きなようにやってください私は忙しいと出て行った後、小さく口で数を数えながらレダンはシャルンとダンスを練習している。
いつもなら楽師を呼ぶところだ。音楽を奏でさせ、それを聴きながらステップを踏む。
けれど今はシャルンと二人で過ごしたかった。
「どうしてあなたに似合うドレスばかり買ってしまったのか」
「あの…それは…」
シャルンが不安そうに瞬き、そっと俯く。
前へ前へ、一度立ち止まって、再び前へ前へ前へ。
「…私…陛下を失望させてしまったのですね」
悲しげな口調にはっとする。
「違う、違うぞ、シャルン」
慌ててステップを止めようとしたが、シャルンが細い手で先へ導くものだから、前へ前へと繰り返す。
「…私…わがままになりました」
「?」
「…陛下をがっかりさせていても…この手を離したくないのです」
「……」
俯いて進むシャルンの足元にきらきら光る雫が落ちたのを見て、レダンは無理やり立ち止まる。先へ行こうとするシャルンを抱き寄せ、小さな顎を掬い上げれば、やっぱり薄水色の瞳は涙でいっぱいになっていて。
口づけた。
震える唇が塩辛くて甘くて、切なくなりながら何度か重ね、そっと離す。
「聞いてなかった?」
「?」
見開く瞳に微笑む。
「俺はあなたに踏んづけられたいんだが」
「…あれは」
慰めてくださったのでしょう?
シャルンが一所懸命に笑い返す。
「私、陛下のお役に立ちたいのです」
「うん」
「だから、礼儀作法とダンスをしっかり学んで」
「うん」
「どちらに出向いても、陛下にお辛い想いをして頂かなくても良いように頑張って」
「うん」
堪えきれなくて、また額にキスし、頬にキスする。柔らかな声を聞き続けたかったから、唇には触れられない、切ない苦しさを甘く味わう。
「けれど、こんなに覚えが悪くては、陛下のお側にいてもご迷惑をおかけするかもしれません」
ぽろりと新たな涙が溢れる。
「私はそれでもわがままですから、陛下が第二妃がいても良いとおっしゃって下さるなら、お側に侍りとうございます」
「はあ?」
レダンは思わず間抜けた声を上げた。
「第二妃? それはあなたが側妃になるということ?」
「はい」
「……あなたは、俺が他の女性を慈しんでもいいの?」
「……嫌です」
シャルンが苦しそうに唇を噛む。
「けれど、陛下がお困りになるのはもっと嫌です」
「…シャルン、ああもう、シャルンってば」
他の者が聞けば、例えばガストでも聞こうものなら、恐らく幻聴が聞こえたと寝込みかねないほどの甘さで嘆いて、レダンはシャルンの額にキスした。
「頼むから、訳のわからないことを言わないでくれ」
俺はあなたに振られたのかと思ったぞ。
「まさか、陛下!」
シャルンが抗議の声を上げる。
「陛下を慕わない女性などおりません!」
「…凄いな、それは」
レダンは泣いていいやら笑っていいやら、思わず顔を歪めた。
「どこからかおかしなことを聞いただろう」
「え?」
「俺が遊んでいたと聞かされた?」
「…え、あの」
「……ルッカ、かな?」
「いえ、あの」
「……もしかすると、今の先生様かな…?」
自分の声が一気に温度を下げるのがわかった。
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