『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』

segakiyui

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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王

1.悪意ある招待状(1)

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「どうしましょう?」
 うんざりした顔でガストが首を傾げる。
「どうするかな」
 レダンも溜め息混じりに首を傾げ返す。
「ひょっとして面白がっていらっしゃることは?」
「そう見えるか?」
「残念ながら見えません」
「…正直な、シャルンを連れ出すのが気に食わん」
「はい」
「意図がスケスケで見え見えだ」
「ゲスな物言いはお控え下さい」
 ガストの容赦ない切り返しに噛み付くこともなく、レダンは机の上に積まれた招待状に眉を寄せ、一枚取り上げた。
 ステルン王国からの正式な舞踏会への招待状だ。御成婚を祝し、ご縁はあったが『事情により』実らなかったシャルン姫と再会を楽しみにしている、とある。
「ギースはシャルンを見世物にするつもりなんだろう?」
「自分が応じなかった姫を『拾った』カースウェルを嘲笑ってやるつもりなのでしょう」
「相変わらず腐った奴だ」
「しかし、交流を断つわけには参りません」
 次の一枚を摘まみ上げる。
 ラルハイド王国は軍事パレードの謁見に招待してきている。シャルン姫にも、『意見に応じて整えた』軍備をご覧頂きたい、とこれは遠回しな圧力絡みだ。
「バックルは今頃になって惜しくなったのか」
「自分の手の内にあったかもしれない賢妃ですからね。ダフラムの動きで不安が出たのかもしれません」
「手放してしまったんだから諦めろよ」
 レダンは唸りながら、別の一枚を引っ張り出す。
 ザーシャル王国では古い祭りを復興させたので見物にこないかとの誘いだ。
「シャルン姫に『導かれた通り』古文書をあたり、ってのは何だろう?」
「彼の国にいた間に、床は共にしなくとも、何かしらのやりとりはあったのかも知れませんね」
 ガストがさらりと流し、レダンはなおも眉を寄せた。
「不愉快だな」
「お尋ねになられては?」
「…シャルンにか? ザグワットがカツラだと知っているか、と?」
「ご存知かもしれませんね」
「………畜生」
 俺は知らなかったぞ、と吐き捨てるレダンの代わりに、ガストが一枚を差し出す。
「これはどうされますか?」
「…マムールか」
 ダスカス王国は古い遺跡を再開発し、温泉を見つけたので、離れた場所ながら『国交を温めるため』訪ねてきてほしい、と伝えてきている。
「確かにカースウェルには温泉はないぞ、けれどシャルンが不満を言った覚えはない」
「正直に仰った方が良いのでは」
 ガストが冷ややかに応じた。
「シャルン姫が温泉を気に入ったらどうしよう、と」
「ルシュカの谷の奥地に見つからないかな」
「火山ではありませんしね」
「港の方はどうだろう」
「聞いておりませんね」
「いっそ、船で他国へ温泉旅行に行くと言うのは」
「本題に戻ってください」
 現実逃避はみっともないですよ。
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