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第1話 出戻り姫と腹黒王
9.白の婚礼(2)
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「花を撒け!」「花を撒け!」
シャルンは城への通りに立ち、じっと彼方を見上げる。
周囲には白装束のルッカを始め、これからシャルンの生活を支えてくれる厳選された侍女達が立ち並び、日差しを浴びて立ち続けるシャルンを時折案じて見守ってくれている。
「婚儀であるぞ、花を撒け!」
遠くから王の一行が近づいてくる。通りの両側にずらりと並んだ剣士達が、王の歩みに合わせて一人一人忠誠の証に剣を掲げる中、レダンはすぐにシャルンに目を合わせてきた。
花が次々踏みにじられる。
王の足元で。容赦なく、慈悲もなく。
花の香りが増していく。
やがてレダンはシャルンの前に辿り着いた。
歴代の花嫁同様、シャルンはただ一枚の白いドレスを身につけ、頭から被った白いレースの後ろからレダンに微笑みかける。
レダンが跪いた。
低く強い声が急に静まり返った通りに響く。
「どれほど芳しい花であろうと振り返らぬ。どれほど愛らしい姿であろうと踏みにじる。カースウェルの忠誠、我が存在は全て、あなたのものだ、シャルン姫」
身を伏せて、頭を深く下げるレダンに、教えられたようにシャルンはそっと近づく。裸足の足先が冷えている。通りを埋め尽くした花はシャルンの足を柔らかく受け止めてくれる。
「私の親愛も永遠にあなたのものでございます、陛下……っ」
あやうく叫びを上げるところだった。
身を伏せたレダンがレースとドレスに隠れたのをいいことに、シャルンの爪先に口付ける。咎める間もなく、体を引いたレダンは平然と立ち上がり、両腕を差し伸べてシャルンを軽々と抱き上げた。
歓声が上がる。剣士達が剣を突き上げ、翻して鞘に収める。
「へ、陛下っ」
「なあ、シャルン?」
抱き上げたシャルンを見上げながら、レダンがにやりと笑った。
「指から花の香りがした」
「っっ」
「今夜は床の上にも花がいっぱいだぞ、楽しみだな?」
「ーっ!」
振り上げたこぶしを落としかねて困るシャルンに、レダンはただただ嬉しそうに笑い続けた。
終わり
シャルンは城への通りに立ち、じっと彼方を見上げる。
周囲には白装束のルッカを始め、これからシャルンの生活を支えてくれる厳選された侍女達が立ち並び、日差しを浴びて立ち続けるシャルンを時折案じて見守ってくれている。
「婚儀であるぞ、花を撒け!」
遠くから王の一行が近づいてくる。通りの両側にずらりと並んだ剣士達が、王の歩みに合わせて一人一人忠誠の証に剣を掲げる中、レダンはすぐにシャルンに目を合わせてきた。
花が次々踏みにじられる。
王の足元で。容赦なく、慈悲もなく。
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やがてレダンはシャルンの前に辿り着いた。
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レダンが跪いた。
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身を伏せて、頭を深く下げるレダンに、教えられたようにシャルンはそっと近づく。裸足の足先が冷えている。通りを埋め尽くした花はシャルンの足を柔らかく受け止めてくれる。
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「へ、陛下っ」
「なあ、シャルン?」
抱き上げたシャルンを見上げながら、レダンがにやりと笑った。
「指から花の香りがした」
「っっ」
「今夜は床の上にも花がいっぱいだぞ、楽しみだな?」
「ーっ!」
振り上げたこぶしを落としかねて困るシャルンに、レダンはただただ嬉しそうに笑い続けた。
終わり
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