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第1話 出戻り姫と腹黒王
8.甘い拘束(4)
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「…っ」
驚きにびっくりして見張った目がうろたえる。みるみる真っ赤になってくる顔にレダンは苦笑いした。
「君はさ、俺を侮ってるよな」
「…え?」
「俺がどれだけ君が好きなのか、わかってないよな?」
「……え?」
「だから、どちらの願いも叶えない」
「………え、え…?」
あ、あのっ、あのっ。
どもりながらシャルンは慌ただしく肖像画とレダンを見比べる。顔だけではなくて、薄紅に染まってくる体の隅々まで堪能できるのはいつだろう、と切羽詰まってくる感覚に耐えながら、レダンは宣言する。
「あなたを欲する」
「…」
もう一度見上げてきたシャルンの口が、ぽあんと開いた。
ああもう、なんて顔をするのかな。
「カースウェルはあなたを望む」
「……」
「婚儀を正式に行い、あなたはカースウェルの、レダン王の妃となる」
「っ」
シャルンの顔が悲痛に歪む。
「だめです、そんなの、だめっ、アグレンシア様もお認めにならない…っ」
「ここでそれを出すのか」
うーん、なかなかやり手だねえ、と突っ込むと、詰まった顔になったシャルンが新たにぼろぼろ泣きだした。
「認めるさ、俺が何を望んでも何をしようとも、俺さえ幸せならいいって笑うさ」
「そ、それほど、豊かな愛情をお持ちなら、余計に…っ」
「昔っからそうなんだよ、母上は」
「……へ」
「へ?」
いきなり間抜けた声が応じて、レダンは瞬きした。見下ろしたシャルンの顔は驚きすぎて無防備すぎて、今なら何をしても許されそうで、つい、また唇を啄む。
「んっ」
「ああ、ごめんな。けれど今のはそっちが悪いから」
レダンは苦笑した。
「けどなあ、そうか、そんなことを考えていたのか」
「何…っ」
「あのねえ、アグランシア・カースウェル・パラスニアは俺の母親。前カースウェル女王、夫亡き後荒れかけた国を建て直した偉大なる女性で、俺の幸せを何より望んでくれた人」
もう一度、キスをする。
「だから、彼女のことを想ってくれるなら、俺のところでおさまってしまいな?」
「でっでもっ、ハイオルトはっ、国民はっ」
「はいはい、そっちも国王と話をつけて来たから」
「…………は、い……?」
シャルンは小首を傾げた。心底わからないという顔だ。
「あなたをハイオルトから奪う代わりに、ハイオルトの産業振興やミディルン鉱石の今後の管理なんかについて、協力することにしたんだよ。父上は渋っておられたけど………まあ」
レダンは少しシャルンから目をそらせる。
「国は大事だからねえ」
「…陛下?」
あの、父に何を話されたんですか。
「ああ、そこを突っ込んでくるんだ、鋭いなあ」
レダンはくすくす笑って、少し離れてしまったシャルンをくるりと回し、もう一度今度は正面から抱きしめる。
「俺は腹黒いそうだよ、ガストの評価によると」
シャルンが居心地悪そうにもじもじするのに気づいて、囁く。
「あのさ、俺のことを嫌ってないなら、あなたからも俺を抱いてくれると安心するんだけど」
「……は、い」
そろそろとシャルンが手を抜き出し、レダンの首にすがりつくように巻きつけてくれる。押し付けられる胸と温かな体、天然なお誘いに熱い息を逃しながら、レダンは苦笑いを重ねた。
「あなたのこれまでの婚儀をね」
「はい」
「意図的なものだと諸国に説明して回ることもできるとお話ししたんだ」
すぐに納得してくださったよ。
「…陛下……それは脅迫、と言うものでは」
「そう言う表現もあるなあ」
レダンは潤み始めた視界にもう一度息を吐いた。
「ところでシャルン、あなたは今獣の前に居るんだけど、無体なことをしたくないと頑張っている男に、ちょっとご褒美を頂けないかな」
キスを。
囁くとシャルンが頷く。
「この前よりも、もっと深いキスを」
何度も頷くシャルンの顔を上げさせる。
「あなたから、俺に」
「…っ」
一気に赤くなったシャルンが涙目になりながら頷き、レダンは喉を鳴らして笑った。
驚きにびっくりして見張った目がうろたえる。みるみる真っ赤になってくる顔にレダンは苦笑いした。
「君はさ、俺を侮ってるよな」
「…え?」
「俺がどれだけ君が好きなのか、わかってないよな?」
「……え?」
「だから、どちらの願いも叶えない」
「………え、え…?」
あ、あのっ、あのっ。
どもりながらシャルンは慌ただしく肖像画とレダンを見比べる。顔だけではなくて、薄紅に染まってくる体の隅々まで堪能できるのはいつだろう、と切羽詰まってくる感覚に耐えながら、レダンは宣言する。
「あなたを欲する」
「…」
もう一度見上げてきたシャルンの口が、ぽあんと開いた。
ああもう、なんて顔をするのかな。
「カースウェルはあなたを望む」
「……」
「婚儀を正式に行い、あなたはカースウェルの、レダン王の妃となる」
「っ」
シャルンの顔が悲痛に歪む。
「だめです、そんなの、だめっ、アグレンシア様もお認めにならない…っ」
「ここでそれを出すのか」
うーん、なかなかやり手だねえ、と突っ込むと、詰まった顔になったシャルンが新たにぼろぼろ泣きだした。
「認めるさ、俺が何を望んでも何をしようとも、俺さえ幸せならいいって笑うさ」
「そ、それほど、豊かな愛情をお持ちなら、余計に…っ」
「昔っからそうなんだよ、母上は」
「……へ」
「へ?」
いきなり間抜けた声が応じて、レダンは瞬きした。見下ろしたシャルンの顔は驚きすぎて無防備すぎて、今なら何をしても許されそうで、つい、また唇を啄む。
「んっ」
「ああ、ごめんな。けれど今のはそっちが悪いから」
レダンは苦笑した。
「けどなあ、そうか、そんなことを考えていたのか」
「何…っ」
「あのねえ、アグランシア・カースウェル・パラスニアは俺の母親。前カースウェル女王、夫亡き後荒れかけた国を建て直した偉大なる女性で、俺の幸せを何より望んでくれた人」
もう一度、キスをする。
「だから、彼女のことを想ってくれるなら、俺のところでおさまってしまいな?」
「でっでもっ、ハイオルトはっ、国民はっ」
「はいはい、そっちも国王と話をつけて来たから」
「…………は、い……?」
シャルンは小首を傾げた。心底わからないという顔だ。
「あなたをハイオルトから奪う代わりに、ハイオルトの産業振興やミディルン鉱石の今後の管理なんかについて、協力することにしたんだよ。父上は渋っておられたけど………まあ」
レダンは少しシャルンから目をそらせる。
「国は大事だからねえ」
「…陛下?」
あの、父に何を話されたんですか。
「ああ、そこを突っ込んでくるんだ、鋭いなあ」
レダンはくすくす笑って、少し離れてしまったシャルンをくるりと回し、もう一度今度は正面から抱きしめる。
「俺は腹黒いそうだよ、ガストの評価によると」
シャルンが居心地悪そうにもじもじするのに気づいて、囁く。
「あのさ、俺のことを嫌ってないなら、あなたからも俺を抱いてくれると安心するんだけど」
「……は、い」
そろそろとシャルンが手を抜き出し、レダンの首にすがりつくように巻きつけてくれる。押し付けられる胸と温かな体、天然なお誘いに熱い息を逃しながら、レダンは苦笑いを重ねた。
「あなたのこれまでの婚儀をね」
「はい」
「意図的なものだと諸国に説明して回ることもできるとお話ししたんだ」
すぐに納得してくださったよ。
「…陛下……それは脅迫、と言うものでは」
「そう言う表現もあるなあ」
レダンは潤み始めた視界にもう一度息を吐いた。
「ところでシャルン、あなたは今獣の前に居るんだけど、無体なことをしたくないと頑張っている男に、ちょっとご褒美を頂けないかな」
キスを。
囁くとシャルンが頷く。
「この前よりも、もっと深いキスを」
何度も頷くシャルンの顔を上げさせる。
「あなたから、俺に」
「…っ」
一気に赤くなったシャルンが涙目になりながら頷き、レダンは喉を鳴らして笑った。
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