『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』

segakiyui

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第1話 出戻り姫と腹黒王

7.恋心の過ごし方(3)

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 少しずつは回復していると聞いたし、今日は比較的元気で食事もちゃんと摂ったらしいし、体調の心配はもうしなくていいのだが。
 もし本当に、キスが嫌だったの、なら。
 いやそれでも、レダンにだって諸事情がある。
「キスで泣くなら……その先はどうしたもんだか……仕事の方がよっぽど手軽だよなあ」
「いろいろ非常識な発言ですが、お忘れでなければ、公務中です。奥方を襲う算段は、きちんとお見舞いに行かれてからの方がいいのでは?」
「……決めた」
 突然立ち上がったレダンにガストは眉を寄せる。
「まだ終わっていませんが」
「帰ってから片付ける」
 思いついたことに舞い上がった気持ちのまま、いそいそと準備にかかるレダンを追って、ガストが訝しげな視線を向けてくる。
「では、お見舞いに」
「いや、ハイオルトを非公式訪問する」
「えっ」
 さすがにガストが凍りついた。
「ちょっと待ってください、準備も何も。ハイオルトへの通達も」
 慌てた口調で手にした書類を置き、レダンに詰め寄った。だが、そんなことで止まるものではない、止めるつもりもない。
「すぐに使者を走らせろ。ああ、その時、5人目の婿から是非にハイオルト王に確認したいことがあると伝えておけ。会わないとは言えないだろう」
 薄笑いすると、ガストが頭痛を堪えるような顔で唸った。
「せめて1日時間を下さい。ダフラムと全面戦争になりますから」
 意外な名前に戸惑う。
「どうしてダフラムが関わってくる?」
「…最初にお話ししたでしょう。ダフラムも動いています、と」
 そうだっただろうか、と首を傾げるレダンに、ちょっと落ち着いてください、とガストは溜め息をついた。
「輿入れまでには至らなかったようですが」
「……ミディルン鉱石が枯渇しだしたか」
「急激な工業発展の裏には無理があったのでしょう」
 ダフラム王国はダフラム1世、ラーダ・ダフラム・ガオロスの統治のもと、工業を発展させた。王妃メル・ダフラム・ラデンシアは美しい女性だとは聞いているが、一人息子のディスパ・ダフラム・スカルグには甘く、細身で赤い髪の緑の瞳の我が子を溺愛する母親だ。
 ディスパの好みから言って、シャルンは論外だとは思うが、この男は遮られると欲しがると言う面倒臭い性質も持っている。
「ならなおさらだ」
 レダンは笑った。するべきことがはっきりして気持ちが軽くなってきた。
「シャルンはカースウェルが貰う。彼女の破談には相手側だけじゃない、多分別の意図がある。その原因をはっきりさせてやる」 
「それって一般的には略奪、と言うんじゃないでしょうか」
「カースウェルの名誉がかかってくるだろうなあ、よろしく頼むぞ、ガスト」
「……ええ、はい、まあ、やりますよ、何とかね」
 ガストは深く深く溜め息をついた。
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