上 下
110 / 122
考えることが増えました

第110話 急変②

しおりを挟む
捜査課の作業部屋のドアを勢いよく開けると、そこには苦悶の表情を浮かべて倒れているエリオット様と、エリオット様の横で名前を呼ぶジョセフさんの姿があった。

状況が上手く飲み込めない。明らかに心拍数が上がるのを感じる。何が、どうなって……

「そ、それが……!あの…!」

ジョセフさんはかなり焦っている様子で、中々伝えたい言葉が出てこないようだ。

……そうだ。私まで冷静さを欠いてどうする。

私は1度大きく深呼吸をする。

「大丈夫です、落ち着いてください。何があったか話せますか?」
「……っ!はい、すみません……それが、いつも通りエリオットさんの持参した魔道具の調査を行っていたところ、エリオットさんが脇腹の痛みを訴えた直後に倒れてしまって…!」
「なるほど……」

エリオット様の方に視線を移すと、確かに脇腹を押さえて苦しんでいるようだ。

「……ちょっと失礼します。」

私はジョセフさんにどいてもらい、エリオット様の横に跪く。

「ジョセフさん。魔法で治癒が行える方を連れてきてもらえますか?」
「は、はい!」

ジョセフさんは返事をすると、勢いよく作業部屋を後にした。

私はそれを確認したあと、エリオット様の肩と脇腹を押さえている手に、自分の手を添える。

「エリオット様、聞こえますか?」
「シェ…リ…か…?」

エリオット様が弱々しく返事をする。まだかろうじて意識はあるようだ。

…しかし、ただ見ただけでは倒れた原因が分からない。

「すみません、服脱がせますね」

私はエリオット様の手をどけたあと、騎士団の制服を少々乱暴に脱がせた。すると押さえていた脇腹が確認できた。

しかし、一見すると特に不審な点は見られない。どうすれば…

…状況からして、これは例の不審死を調査中、エリオット様も同じ状態になったと考えるのが自然だ。

被害者が被害を受けてから死亡するまでに時間差があったということは、毒の類である可能性が高い。とすれば、見ただけでは分からないのもうなずける。

ただ問題は、彼らは一度魔法でちゃんと治療を受けているということだ。

毒のような症状が出て、一般的な魔法による治療が効かないもの……

思い当たるのは1つしかない。

カチャッ

私は立ち上がり、作業部屋の棚にある眼鏡をかける。

すると、エリオット様の脇腹付近がぼんやりと赤色に光り、さらにその中心付近が強く赤黒く光っていることが確認できた。

その強く光っているものは、5センチメートル程の長さの針のようなものだった。

やっぱり。

ガサガサッ

私はそのまま道具箱を探り、ピンセット状の魔道具と医療用のナイフ、瓶に入った液状の麻酔薬ともう1つの薬を取り出す。

その間にも、赤い光はどんどん広がっている。

対処法はわかった。道具も最低限はある。うまくいけば完治も見込める。ただ、今私がやろうとしていることはエリオット様に多大な負荷がかかる。

「……」
「シェ…リ……」
「……!」

私が迷っていると、エリオット様がうっすらと目を開け、私の名前を呼ぶ。

「俺は、大丈夫だから……やってくれ、シェリー。」
「ですが…」
「大丈夫だ…俺はシェリーを信じる。だからシェリーも俺を信じてくれ。」
「……わかりました。」

そう言われたらやるしかない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

処理中です...