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考えることが増えました

第92話 再びあの場所へ①

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ザワザワザワ…

「さて、着いたな。」
「はい。」

あれから1週間程経ち、今日は舞踏会の会場へと来ていた。ここへ来たのは、オスカル殿下に婚約破棄を言い渡されて以来だ。

「何か嫌なことでも思い出したか?」

エリオット様が私に聞く。恐らく婚約破棄の一件を踏まえての発言だ。

「まあ、確かに良い思い出とは言い難いでしょうね。」

自ら仕組んだことが原因とはいえ、大きな舞踏会の会場で晒し者にされて喜ぶ人はいないはず。

「俺にとっては思い入れのある場所だがな?」
「そうなんですか?」
「だって、シェリーと初めて出会った場所じゃねえか。」
「あ、そういえばそうですね。」

そう、エリオット様とは婚約破棄された後、お父様に魔法研究所に行っていいと言質を取…相談するために急いでいたところ彼にぶつかってしまったのが始まりだった。

そう考えると感慨深い…気がする。

「それにしても、普段と違って今日は着飾ってるな」
「はい、舞踏会ですし、ある程度ドレスコードに合わせておかないとかえって悪目立ちしてしまうので。」

私は普段着ているシンプルなワンピースではなく淡い水色のふわりとしたドレスを着て、色々とアクセサリーも身につけていた。

「……」

エリオット様は何故か黙っている。

「何か変ですか…?」
「いや、綺麗だよ。」

そう言いながらエリオット様は私の手を取り、慈愛に満ちたような表情を向けてくる。

「そ、それならいいですけど…」
「じゃ、食べもん取りに行こうぜ!」
「はい!」

それから私たちは、ビュッフェにあった食べ物を取りながら他の貴族達に挨拶したり、雑談したりしていた。

ちなみに婚約破棄以来初めて大規模な舞踏会に参加したけど、貴族達は特に態度を変えることなく話しかけてくる。まあそもそも表面的な付き合いが多かったし、オスカル殿下も私も大分変人なのは元から周知の事実だから、あんまり驚くことでもなかったんだろうな…

~~~~~♪♪

そうこうしていると、会場の前方から音楽が聞こえてきた。

「お、ダンスの時間みたいだな。」

エリオット様が言う。

「そうですね。」
「シェリーは踊れるのか?」
「上手では無いですが、最低限は。」
「そうか…」

エリオット様は1度言葉を区切ってからまた口を開く。

「…それではシェルシェーレ嬢、私と踊って頂けますか?」

エリオット様はかしこまり、貴族然とした動きで私に手を差し出す。

うーん…せっかくだからお誘いに乗ろうか。

「喜んで」

私がエリオット様の手に自分の手を乗せると、そのまま手を引かれ会場の中央まで移動する。そしてエリオット様は私の両手を持ちステップを踏み始めた。

私もそれに合わせて踊る。ややぎこちない私に反して、エリオット様は見事な動きだ。

「お前がなにかに苦戦してるなんて珍しいな?」  

エリオット様が踊りながら小声で話しかけてくる。

「殿下と婚約破棄して以来練習を疎かにしていたので…」
「ハハ、そうか。でも、これくらいの方がエスコートのしがいがあるってもんだ。」

エリオット様はニカッと笑う。

私もそれに答えるように笑い返した。
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