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決戦
第112話 襲撃① side ???
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「……」
その女は、キャンプ場から少し離れた草むらから、広場中央の大きな焚き火の火が消され、学院の生徒たちがぞろぞろと各々のテントへと移動していく姿を見守っていた。
(そろそろ就寝時間か……)
女は、手癖でその背に佩いた短剣に手をかける。
(騎士団の存在は想定外だった……捕まった同胞は3人か。とはいえ、私の部隊は全員無事のようだ。)
女の持つ呪力は、あの血の気の多い幹部たちに比べれば微々たるものだった。しかし、暗殺者としての高い素質を買われ、幹部お抱えの暗殺部隊の隊長を任されていた。今回も、主から"リストのガキを始末してこい"とのお達しを請けここまでやってきた。
主は元々暗殺稼業を生業とする犯罪組織のドンだったが、あるたった一人の男にシマを荒らされ、配下に入ることを余儀なくされた。
しかし、その組織ももはや崩壊寸前と聞く。我が主はそれをチャンスと捉え、手始めにコネクションを新たに得るための殺しの仕事を見繕ってきた。
(さて、リストにあるのは……)
手には、文字か記号か分からない線が大量に書き込まれた小さな紙切れが握られている。女はそれを引っかかることなくスラスラと読んでいく。
(アルトワ、オルレアン、ギーズ、シュミット。)
ターゲットは4人で、女の部隊は彼女を入れて5人。部下4人が就寝中のターゲットに対しそれぞれ暗殺を決行し、何かトラブルがあれば彼女が対処する手筈になっている。
「……!!」
(今、何か……)
突如として、彼女は猛獣に睨まれるような感覚を覚えた。しかし、その感覚はすぐに消えた。恐らく、気のせいだろう。同業者ならともかく、素人が隠れている自分を見つけられるはずがない。
(そろそろ時間だ……)
部隊間では、魔導具を使い数個の文字や記号で合図しあっている。その種類は細かく言えば数十にも及ぶが、ざっくり言えば暗殺の成功失敗、自身の安否等だ。
ピピッ
そのとき、彼女の元にある合図が届いた。
「これは……!」
───────────
グーーガーーー!!!
「……眠れるわけねえ……」
ベン・シュミットは、ルームメイト、もといテントメイトのあまりに大きないびきに辟易としていた。
「ちょっと外出るか……」
シュミットはボーッとした頭でなんとかテントのファスナーを開き、のそのそと外に這い出た。
「うわ、暗……」
四つん這いのまま目の前の地面を見たシュミットは、その暗さに驚いた。月明かりもないような暗さだが、今日は曇りだっただろうか。
「わっまぶしっ」
かと思えば、急に地面の一点が光った。シュミットは光源が気になり、ショボショボした目で確認しようと顔を上げた。
ガーー……グガッ!!!
ドゴォォォ!!!
「わあああ!!!」
「ぐっっ!」
すると突然自分の周りの地面が盛り上がり、大きな土柱ができた。それと人の呻き声のようなものが聞こえた気がした。
「ゲホッゲホッ……な、何!?」
「おい、何だそいつは?ダチって訳じゃなさそうだが。」
訳も分からず土ぼこりを手で払っていると、テントメイトがいつにも増してドスの効いた声で問いかけてくる。
「そいつって誰のこと!?てか、起きたかと思えば急に魔法ぶっ放してなんなんだよ!」
シュミットは驚きと状況の掴めなさと、先程までのいびきに対する怒りとで声を荒らげる。
「ああ?そいつだそいつ、今てめぇの首切り落とそうとしてたじゃねえか。」
いびきのうるさいテントメイト……もといベークマンは、シュミットの頭を掴んで半ば無理やり視線を横に向けさせる。
「うわっっ何だこいつ!!」
シュミットとベークマンの視線の先には、黒装束に身を包み、なんとか体勢を立て直して短剣を構える男の姿があった。
「で、知り合いかこいつ?」
「し、知らないよ!!」
「じゃ、手加減はいらねえな。」
ガガガッッ!!
言うがはやいか、ベークマンは大量の土柱で黒装束の男のいる場所を叩き潰した。
「やったか……?」
シュミットがつぶやく。
シュン!
ガシッ!!
「……!!」
「ったく、回りくどいことすんじゃねえよ!!」
ドン!!!
ベークマンは、いつの間にか背後に回って首を狙ってきた男の短剣を素手で掴み、男諸共地面に叩きつけた。
「な、何だったんだ……」
シュミットは完全に気を失った男を見ながら呟いた。
ザワザワ……
すると、一連の騒音で起きた他の生徒たちが、ぞろぞろとテントから出てくる。
「おい、誰か縄持ってきてこいつ縛れ!」
寝ぼけたままベークマンの指示に応じた生徒により、暗殺者の一人は捕縛された。
その女は、キャンプ場から少し離れた草むらから、広場中央の大きな焚き火の火が消され、学院の生徒たちがぞろぞろと各々のテントへと移動していく姿を見守っていた。
(そろそろ就寝時間か……)
女は、手癖でその背に佩いた短剣に手をかける。
(騎士団の存在は想定外だった……捕まった同胞は3人か。とはいえ、私の部隊は全員無事のようだ。)
女の持つ呪力は、あの血の気の多い幹部たちに比べれば微々たるものだった。しかし、暗殺者としての高い素質を買われ、幹部お抱えの暗殺部隊の隊長を任されていた。今回も、主から"リストのガキを始末してこい"とのお達しを請けここまでやってきた。
主は元々暗殺稼業を生業とする犯罪組織のドンだったが、あるたった一人の男にシマを荒らされ、配下に入ることを余儀なくされた。
しかし、その組織ももはや崩壊寸前と聞く。我が主はそれをチャンスと捉え、手始めにコネクションを新たに得るための殺しの仕事を見繕ってきた。
(さて、リストにあるのは……)
手には、文字か記号か分からない線が大量に書き込まれた小さな紙切れが握られている。女はそれを引っかかることなくスラスラと読んでいく。
(アルトワ、オルレアン、ギーズ、シュミット。)
ターゲットは4人で、女の部隊は彼女を入れて5人。部下4人が就寝中のターゲットに対しそれぞれ暗殺を決行し、何かトラブルがあれば彼女が対処する手筈になっている。
「……!!」
(今、何か……)
突如として、彼女は猛獣に睨まれるような感覚を覚えた。しかし、その感覚はすぐに消えた。恐らく、気のせいだろう。同業者ならともかく、素人が隠れている自分を見つけられるはずがない。
(そろそろ時間だ……)
部隊間では、魔導具を使い数個の文字や記号で合図しあっている。その種類は細かく言えば数十にも及ぶが、ざっくり言えば暗殺の成功失敗、自身の安否等だ。
ピピッ
そのとき、彼女の元にある合図が届いた。
「これは……!」
───────────
グーーガーーー!!!
「……眠れるわけねえ……」
ベン・シュミットは、ルームメイト、もといテントメイトのあまりに大きないびきに辟易としていた。
「ちょっと外出るか……」
シュミットはボーッとした頭でなんとかテントのファスナーを開き、のそのそと外に這い出た。
「うわ、暗……」
四つん這いのまま目の前の地面を見たシュミットは、その暗さに驚いた。月明かりもないような暗さだが、今日は曇りだっただろうか。
「わっまぶしっ」
かと思えば、急に地面の一点が光った。シュミットは光源が気になり、ショボショボした目で確認しようと顔を上げた。
ガーー……グガッ!!!
ドゴォォォ!!!
「わあああ!!!」
「ぐっっ!」
すると突然自分の周りの地面が盛り上がり、大きな土柱ができた。それと人の呻き声のようなものが聞こえた気がした。
「ゲホッゲホッ……な、何!?」
「おい、何だそいつは?ダチって訳じゃなさそうだが。」
訳も分からず土ぼこりを手で払っていると、テントメイトがいつにも増してドスの効いた声で問いかけてくる。
「そいつって誰のこと!?てか、起きたかと思えば急に魔法ぶっ放してなんなんだよ!」
シュミットは驚きと状況の掴めなさと、先程までのいびきに対する怒りとで声を荒らげる。
「ああ?そいつだそいつ、今てめぇの首切り落とそうとしてたじゃねえか。」
いびきのうるさいテントメイト……もといベークマンは、シュミットの頭を掴んで半ば無理やり視線を横に向けさせる。
「うわっっ何だこいつ!!」
シュミットとベークマンの視線の先には、黒装束に身を包み、なんとか体勢を立て直して短剣を構える男の姿があった。
「で、知り合いかこいつ?」
「し、知らないよ!!」
「じゃ、手加減はいらねえな。」
ガガガッッ!!
言うがはやいか、ベークマンは大量の土柱で黒装束の男のいる場所を叩き潰した。
「やったか……?」
シュミットがつぶやく。
シュン!
ガシッ!!
「……!!」
「ったく、回りくどいことすんじゃねえよ!!」
ドン!!!
ベークマンは、いつの間にか背後に回って首を狙ってきた男の短剣を素手で掴み、男諸共地面に叩きつけた。
「な、何だったんだ……」
シュミットは完全に気を失った男を見ながら呟いた。
ザワザワ……
すると、一連の騒音で起きた他の生徒たちが、ぞろぞろとテントから出てくる。
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