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転変
第109話 王族と騎士 side ジーク
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「はーいみなさん!もうすぐキャンプファイヤーが始まります!参加希望者はキャンプ場の中央まで集まってくださいね~」
食事を終えてから1時間ほど経ち、キャンプファイヤーが始まろうとしていた。
「うーん……」
「ん、どうしたジーク?」
唸っているジークを見かね、アランが声をかける。
「カナとマリー、遅いなーって思って……」
「あ、ああ、そういやそうだな?……2人とも他クラスの方にでも顔出してるんじゃねえか?なんやかんや顔広そうだしな。」
「うーん、そうかな……」
ジークは依然として納得がいっていない様子である。
「……はどうなっている。」
「はい……は、順調……」
「……?」
すると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ジークは声のする方を向くと、そこには真剣な顔で颯爽と歩くラクアとランドルトの姿があった。
「ごめんアラン、僕もちょっと用事できちゃった!」
「あ、おいジーク!?」
ジークは、次の瞬間には2人の元へと駆け出していた。
───────
「ハア……ねえ、ラクア、ランドルト!」
ジークは2人のもとまで追いつくと、少し息を切らしながら呼び止めた。
「……何の用だ。」
ラクアは一瞬眉を顰めてから、落ち着いた口調で答える。
「ねえ、カナがどこにいるか知らない?食事が終わった辺りから姿が見えないんだ!」
「残念ながら、我々はお会いしていませんね。食事後というとせいぜい1時間ほどしか経っていませんし、他のご友人の元へと行かれているだけなのでは?」
続いてランドルトが答える。
「いや……うん、そう考えるのが普通なんだけど……ここ1, 2週間くらい、カナの様子がちょっとおかしいんだ……だから心配で……」
「……」
ジークの語気は弱まり、下を向く。
一方のランドルトは返答に困り、ラクアの顔色を伺う。
「人間、調子の悪くなることぐらいあるだろう。」
再びラクアが口を開く。
「そうなんだけど……ねえ、2人は何か知ってるんじゃない?何か隠してることはない?」
ジークはラクアとランドルトを真剣な眼差しで見つめる。
「はあ、全く……」
ラクアは大きくため息をつく。
「ラクア様、」
「問題ない。」
ランドルトはラクアを静止しようとしたが、ラクアはさらにそれを遮る。
「大元の約束を違えるつもりはない。」
「……わかりました。」
2人は小声でやり取りをする。
「……?」
ジークは2人の会話の内容が聞き取れなかったようで、少し訝しげに2人を伺う。
「カナ・ベルナールは、現在我々とある敵勢力を退けるための協力関係にある。」
「敵勢力……?」
「詳細を外部の人間に話すわけにはいかないが、結論から言えば、今夜その敵勢力から学院の生徒が襲撃される可能性がある。我々はこれを迎撃し、連中を捕らえる予定だ。」
「そんな危ないことを、3人だけで?」
「無論、協力者は他にもいる。……貴様の父親の部隊とかな。」
「それって、第二騎士団の人たちも来てるってこと?気が付かなかった……」
「混乱を避けるため、生徒には接触しないよう命令してある。」
「そっか……でも、それなら騎士団の人たちに全部任せればいいんじゃない?あの人たちならきっと……」
「残念ながら、それだけでは不十分であると考えています。」
ここで、ランドルトが発言する。
「騎士団は本来、国家間の戦争等、大規模な戦闘を想定して訓練されています。ですから今回のような、少数による奇襲にはかえって対応しきれない可能性が高いのです。」
「その抜けを補うためには、ターゲットとなっている我々自ら対処するのが確実だと判断した。」
「それは……分かったよ。じゃ、じゃあ、カナは何をしてるの?危ないことしてない?」
「……奴の主な役割は魔力視等を用いた索敵だ。よほど運が悪いか、自ら突っ込みにでも行かない限り、敵に接触することは無い。」
「……」
「そっか……なら良かった……」
ジークは胸を撫で下ろす。
「と言う訳で、気は済んだだろう。キャンプ場に戻れ。」
ラクアはそう言うと、キャンプ場とは反対方向に足を向け、歩き出す素振りを見せる。
「ま、待って!」
ジークは再び2人を呼び止める。
「……まだ何かあるというのか。」
ラクアはジークを睨みつける。
「……っ!」
ジークは一瞬怖気づくが、すぐに気を取り直す。
「ラクアにも役割があるんでしょ!だったら僕にもそれを手伝わせて!」
「却下だ。話にならん。」
ラクアは先程の比較的穏やかな態度とは一転、吐き捨てるように言う。
「なんでよ!学院の生徒が狙われててそれを阻止するっていうなら、僕だって」
「俺の役割は他とは訳が違う……!何も知らない貴様には関係の無いことだ!」
ラクアはさらに声を荒らげる。
「分かってるよ!王族だから、他の生徒とはさらに別の理由で狙われてるんでしょ!だからそれを逆手にとって、自ら囮になって脅威を減らすつもりでいる……違う?」
「……っ!」
ラクアは、ジークからの想定外に鋭い指摘に言葉を詰まらせる。
「だったら、僕だって無関係じゃないよ……だって、こう見えても騎士団長の息子だよ!確かに、今は全然騎士になるための勉強はできてないし、お父さんからも仕事について教えてもらえてないけど……でも、同い年の君達がこうして頑張ってるのに、黙って見てることなんてできないよ!」
ジークはじっとラクアの目を見る。
「……」
ギリッ
ラクアは歯ぎしりをする。
「ラクア様……」
ランドルトは心配そうにラクアを見つめる。
「……分かった。」
ラクアは肩の力を抜き、観念した様子で口を開く。
「ただし、条件が2つある。1つは、俺の命令は必ず従うこと。もう1つは、貴様自身の命を最優先にすることだ。我々に貴様の安否を100%保証する力は無い。だから自力で死んでも生き抜け。」
「……!うんありがとう、約束するよ!」
ジークはパーッと目を輝かせる。
「……では、先を急ぐぞ。時間が迫っている。」
こうして、ラクア、ランドルト、ジークの3人は、森の奥地へと消えていった。
食事を終えてから1時間ほど経ち、キャンプファイヤーが始まろうとしていた。
「うーん……」
「ん、どうしたジーク?」
唸っているジークを見かね、アランが声をかける。
「カナとマリー、遅いなーって思って……」
「あ、ああ、そういやそうだな?……2人とも他クラスの方にでも顔出してるんじゃねえか?なんやかんや顔広そうだしな。」
「うーん、そうかな……」
ジークは依然として納得がいっていない様子である。
「……はどうなっている。」
「はい……は、順調……」
「……?」
すると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ジークは声のする方を向くと、そこには真剣な顔で颯爽と歩くラクアとランドルトの姿があった。
「ごめんアラン、僕もちょっと用事できちゃった!」
「あ、おいジーク!?」
ジークは、次の瞬間には2人の元へと駆け出していた。
───────
「ハア……ねえ、ラクア、ランドルト!」
ジークは2人のもとまで追いつくと、少し息を切らしながら呼び止めた。
「……何の用だ。」
ラクアは一瞬眉を顰めてから、落ち着いた口調で答える。
「ねえ、カナがどこにいるか知らない?食事が終わった辺りから姿が見えないんだ!」
「残念ながら、我々はお会いしていませんね。食事後というとせいぜい1時間ほどしか経っていませんし、他のご友人の元へと行かれているだけなのでは?」
続いてランドルトが答える。
「いや……うん、そう考えるのが普通なんだけど……ここ1, 2週間くらい、カナの様子がちょっとおかしいんだ……だから心配で……」
「……」
ジークの語気は弱まり、下を向く。
一方のランドルトは返答に困り、ラクアの顔色を伺う。
「人間、調子の悪くなることぐらいあるだろう。」
再びラクアが口を開く。
「そうなんだけど……ねえ、2人は何か知ってるんじゃない?何か隠してることはない?」
ジークはラクアとランドルトを真剣な眼差しで見つめる。
「はあ、全く……」
ラクアは大きくため息をつく。
「ラクア様、」
「問題ない。」
ランドルトはラクアを静止しようとしたが、ラクアはさらにそれを遮る。
「大元の約束を違えるつもりはない。」
「……わかりました。」
2人は小声でやり取りをする。
「……?」
ジークは2人の会話の内容が聞き取れなかったようで、少し訝しげに2人を伺う。
「カナ・ベルナールは、現在我々とある敵勢力を退けるための協力関係にある。」
「敵勢力……?」
「詳細を外部の人間に話すわけにはいかないが、結論から言えば、今夜その敵勢力から学院の生徒が襲撃される可能性がある。我々はこれを迎撃し、連中を捕らえる予定だ。」
「そんな危ないことを、3人だけで?」
「無論、協力者は他にもいる。……貴様の父親の部隊とかな。」
「それって、第二騎士団の人たちも来てるってこと?気が付かなかった……」
「混乱を避けるため、生徒には接触しないよう命令してある。」
「そっか……でも、それなら騎士団の人たちに全部任せればいいんじゃない?あの人たちならきっと……」
「残念ながら、それだけでは不十分であると考えています。」
ここで、ランドルトが発言する。
「騎士団は本来、国家間の戦争等、大規模な戦闘を想定して訓練されています。ですから今回のような、少数による奇襲にはかえって対応しきれない可能性が高いのです。」
「その抜けを補うためには、ターゲットとなっている我々自ら対処するのが確実だと判断した。」
「それは……分かったよ。じゃ、じゃあ、カナは何をしてるの?危ないことしてない?」
「……奴の主な役割は魔力視等を用いた索敵だ。よほど運が悪いか、自ら突っ込みにでも行かない限り、敵に接触することは無い。」
「……」
「そっか……なら良かった……」
ジークは胸を撫で下ろす。
「と言う訳で、気は済んだだろう。キャンプ場に戻れ。」
ラクアはそう言うと、キャンプ場とは反対方向に足を向け、歩き出す素振りを見せる。
「ま、待って!」
ジークは再び2人を呼び止める。
「……まだ何かあるというのか。」
ラクアはジークを睨みつける。
「……っ!」
ジークは一瞬怖気づくが、すぐに気を取り直す。
「ラクアにも役割があるんでしょ!だったら僕にもそれを手伝わせて!」
「却下だ。話にならん。」
ラクアは先程の比較的穏やかな態度とは一転、吐き捨てるように言う。
「なんでよ!学院の生徒が狙われててそれを阻止するっていうなら、僕だって」
「俺の役割は他とは訳が違う……!何も知らない貴様には関係の無いことだ!」
ラクアはさらに声を荒らげる。
「分かってるよ!王族だから、他の生徒とはさらに別の理由で狙われてるんでしょ!だからそれを逆手にとって、自ら囮になって脅威を減らすつもりでいる……違う?」
「……っ!」
ラクアは、ジークからの想定外に鋭い指摘に言葉を詰まらせる。
「だったら、僕だって無関係じゃないよ……だって、こう見えても騎士団長の息子だよ!確かに、今は全然騎士になるための勉強はできてないし、お父さんからも仕事について教えてもらえてないけど……でも、同い年の君達がこうして頑張ってるのに、黙って見てることなんてできないよ!」
ジークはじっとラクアの目を見る。
「……」
ギリッ
ラクアは歯ぎしりをする。
「ラクア様……」
ランドルトは心配そうにラクアを見つめる。
「……分かった。」
ラクアは肩の力を抜き、観念した様子で口を開く。
「ただし、条件が2つある。1つは、俺の命令は必ず従うこと。もう1つは、貴様自身の命を最優先にすることだ。我々に貴様の安否を100%保証する力は無い。だから自力で死んでも生き抜け。」
「……!うんありがとう、約束するよ!」
ジークはパーッと目を輝かせる。
「……では、先を急ぐぞ。時間が迫っている。」
こうして、ラクア、ランドルト、ジークの3人は、森の奥地へと消えていった。
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