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転変
第104話 思惑
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コンコンッ!
時を同じくして、王都の外、かつては栄えていたが今はゴロツキのたまり場となったある街の、ある地下室を尋ねる者がいた。
「誰だ」
湿気に塗れた木製のドアの向こうから、男の声がする。
「あっしでさあ」
「……入れ」
ギィィィ……
尋ね人は部屋の中の男の了承を得ると、ゆっくりと扉を開け、部屋の中へと入った。
「いやあ、快く出迎えてくれてありがてえでさあ、ボス。だが名乗りもしない奴の入室を許可すんのは、少々不用心じゃねえですかい?」
「ふん、そんなふざけた喋り方をするのは貴様ぐらいだ。」
「ハハ、そりゃまちがいねえや。」
ふざけた喋り方の男は、ボスの許可もなく彼の向かいの椅子にドカッと座る。
「それで、何の用だ。」
ボスと呼ばれた男はおもむろに葉巻を咥え、中々火の付かないライターのレバーを何度も押し、ようやく葉巻に火を付けた。
「いやあ、手紙はよこしやしたが、改めて挨拶をと思いましてねえ。まあ、前の豪勢な屋敷からこんなショボい地下室に移動してる時点で、伝達はうまくいってるみたいですが。」
「挨拶?からかいに来たの間違いだろう。」
ボスは口に溜まった煙を強めに吐き出す。
「心外だねえ。あっしはそんなに悪趣味じゃねえでさあ。」
「……まあいい。で、言いたいことがあればさっさと話せ。」
「へいへい。それじゃあいきなり本題にいきやすが……今度の子供らの遠足への襲撃、アンタは参加するつもりですかい?」
男は頬杖をつき、ボスの顔を伺う。
「……当然だ。」
「アンタも百も承知だと思いやすが……幹部が騎士団に捕まった今、残念ながらアンタの思惑は失敗ですぜ。それに、組織の連中は一部のアホを除いて降りるって話でい。」
「もちろん理解している。だが、私にはもう1つカードがある。」
「……なるほど。共和国がだめなら王国を、ってことですかい。」
「ああ。戦争というのは、実に些細な理由で起こるものだ。例えば、王国の内乱を鎮めるため、共和国を共通の敵として一体化を図る、とかな。」
「争いを抑えるために争いをするってんだから、つくづく人間は救えないねえ。で、一応聞きやすが、それを実現するためにアンタは何をするつもりで?」
「決まっている。第二王子の暗殺だ。」
ボスは葉巻を咥えたまま、ニヤリと口角を上げる。
「確かに第二王子が死ねば、第二王子の派閥は第一王子の派閥を疑うなり犯人としてでっち上げるなり、自分たちの名誉が少しでも傷つかないよう動くだろうねえ。」
「どうも調べる限り、第二王子自身は王位継承にさほど興味がないようだが、貴族社会というものは当人たちの意思などそっちのけで好き勝手やるものだ。それに、私には貴族の駒もいくつかある。もっとも、うち一人は気取られてしまっているようだがね。」
「全くでい。しかし、ボス自ら暗殺を実行するつもりですかい?見込みはあるんですかねえ?」
「ふん、私が"ボス"になった経緯は説明したはずだが?」
「そうでやした。じゃ、頑張ってくだせえ。」
そう言うと、男は重い腰を上げ、視線を扉へと向ける。
「一応聞くが、貴様も行くつもりか?」
ボスが尋ねる。
「……もちろん、あっしも"アホ"のうちの1人でさあ。」
時を同じくして、王都の外、かつては栄えていたが今はゴロツキのたまり場となったある街の、ある地下室を尋ねる者がいた。
「誰だ」
湿気に塗れた木製のドアの向こうから、男の声がする。
「あっしでさあ」
「……入れ」
ギィィィ……
尋ね人は部屋の中の男の了承を得ると、ゆっくりと扉を開け、部屋の中へと入った。
「いやあ、快く出迎えてくれてありがてえでさあ、ボス。だが名乗りもしない奴の入室を許可すんのは、少々不用心じゃねえですかい?」
「ふん、そんなふざけた喋り方をするのは貴様ぐらいだ。」
「ハハ、そりゃまちがいねえや。」
ふざけた喋り方の男は、ボスの許可もなく彼の向かいの椅子にドカッと座る。
「それで、何の用だ。」
ボスと呼ばれた男はおもむろに葉巻を咥え、中々火の付かないライターのレバーを何度も押し、ようやく葉巻に火を付けた。
「いやあ、手紙はよこしやしたが、改めて挨拶をと思いましてねえ。まあ、前の豪勢な屋敷からこんなショボい地下室に移動してる時点で、伝達はうまくいってるみたいですが。」
「挨拶?からかいに来たの間違いだろう。」
ボスは口に溜まった煙を強めに吐き出す。
「心外だねえ。あっしはそんなに悪趣味じゃねえでさあ。」
「……まあいい。で、言いたいことがあればさっさと話せ。」
「へいへい。それじゃあいきなり本題にいきやすが……今度の子供らの遠足への襲撃、アンタは参加するつもりですかい?」
男は頬杖をつき、ボスの顔を伺う。
「……当然だ。」
「アンタも百も承知だと思いやすが……幹部が騎士団に捕まった今、残念ながらアンタの思惑は失敗ですぜ。それに、組織の連中は一部のアホを除いて降りるって話でい。」
「もちろん理解している。だが、私にはもう1つカードがある。」
「……なるほど。共和国がだめなら王国を、ってことですかい。」
「ああ。戦争というのは、実に些細な理由で起こるものだ。例えば、王国の内乱を鎮めるため、共和国を共通の敵として一体化を図る、とかな。」
「争いを抑えるために争いをするってんだから、つくづく人間は救えないねえ。で、一応聞きやすが、それを実現するためにアンタは何をするつもりで?」
「決まっている。第二王子の暗殺だ。」
ボスは葉巻を咥えたまま、ニヤリと口角を上げる。
「確かに第二王子が死ねば、第二王子の派閥は第一王子の派閥を疑うなり犯人としてでっち上げるなり、自分たちの名誉が少しでも傷つかないよう動くだろうねえ。」
「どうも調べる限り、第二王子自身は王位継承にさほど興味がないようだが、貴族社会というものは当人たちの意思などそっちのけで好き勝手やるものだ。それに、私には貴族の駒もいくつかある。もっとも、うち一人は気取られてしまっているようだがね。」
「全くでい。しかし、ボス自ら暗殺を実行するつもりですかい?見込みはあるんですかねえ?」
「ふん、私が"ボス"になった経緯は説明したはずだが?」
「そうでやした。じゃ、頑張ってくだせえ。」
そう言うと、男は重い腰を上げ、視線を扉へと向ける。
「一応聞くが、貴様も行くつもりか?」
ボスが尋ねる。
「……もちろん、あっしも"アホ"のうちの1人でさあ。」
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