乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる

アミ100

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第102話 手がかり②

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コンコンッ

「ラクア様、お連れしました。」
「入れ」

ガチャ

私とランドルトはラクアの休憩室まで移動してきた。

「……?どうしたエルマー、随分と機嫌が良さそうだが。」

ラクアは訝しげにランドルトの顔を見る。

「いえ、大したことではございませんよ。」

「……さて、お前を呼んだ理由は分かっているな。」

ラクアは納得仕切らない様子のままランドルトからソファに腰を下ろした私へと視線を移す。

「うん、警備隊に紛れ込んでたモロクの幹部のことだよね。」

ちなみに、エドガス様や大司教様から得たモロクに関する情報は、既に事細かく伝えてある。

「ああ。まず今回、奴を警備隊に引き入れてしまったのは俺の落ち度だ。謝罪する。」

ラクアは少し伏目がちに話す。

「………」
「……どうした」

「ああいや、何でもないよ。」

ラクアが失敗して落ち込んでるなんて珍しいとか全く思ってないです、はい。

「……結果的に幹部を1人捕まえられたんだから、むしろ良かったよ。意図的に同じようなことやっても勘付かれたかもしれないしね。」

実際、モロクの人間をうまく誘い込んで捕らえられないかとも考えていたので、こちらとしてはちょうど良かった。

「……助かる」

「ん?何が?」
「なんでもない。それよりその捕まえた男だが、第2騎士団が色々と聞き出せたようだ。」

「おお、さすが仕事が早いね。それで内容は?」

「大まかな組織の目的と、男と比較的関わりの多かった幹部の今後の動きについてだ。」

「それはまた……随分色々話してくれたね。」

「どうやら彼自身は、そこまでモロクに忠誠心を持っていたわけではないようです。それに王城には、聞き方・・・の上手な方々がいくらかいらっしゃるんですよ。」

ランドルトが横から補足を入れる。

聞き方・・・……どう聞いたのかは突っ込まない方が賢明だろう。

「……それで、具体的には?まずはモロクの目的が聞きたいな。」

「ああ。……エルマー、頼む。」

「はい、ラクア様」

恐らく、内容が長くて説明が面倒になったのだろう。

「彼らの目的は、子ども、特に魔力の高い者を生贄とし、神からの"お恵み"を頂くことです。」

「お恵み?」

「はい、少なくとも捕らえられた彼はそう表現していたそうです。そして、"お恵み"は何か特定のものを指すのではなく、生贄を捧げた一人一人が欲しているものを手に入れられるとのことでした。」

「つまり、モロクの面々は皆が同じものや状況を望んでるわけじゃなくて、各々の欲を満たしたくて協力してるだけってこと?」

「そういうことになります。まあ、宗教としてはある意味正しい姿かもしれませんね。」

一人一人願い事が違うって意味ではそう……か?

「ですが、生贄を必要としている点と、彼らの……特に、"ボス"と呼ばれている主犯格の目的は看過できません。」

ランドルトは、いつの間にか用意された地図の上に、チェスの駒をいくつか並べる。

「ボスの目的は、共和国の乗っ取りです。」

キングを含めた複数の黒いコマが、王国より北方の土地へと動かされる。

「共和国って、お茶会の件で押収された呪法具の出処と同じ国だよね。そういえば、この場所って……」

私は大司教様との会話を思い出す。

「ご想像の通り、共和国は小国トート滅亡後、その生き残りや周辺の部族等が集まってできた国です。」

「つまりモロクのボスは、かつてモロク過激派が実現できなかった国の乗っ取りを、共和国に対してやろうとしてるってことか。」

「そういうことになります。」

私は、ランドルトが並べた駒を眺め、少し違和感を覚える。

「でも、それなら魔術学院の生徒が狙われてるのはなんでだろう?共和国にも魔力の高い子どもはいるだろうから、全部共和国内で完結しそうな気がするけど……」

「当然の疑問ですね。……端的に言えば、モロクのボスは一石二鳥を狙っているのです。」

「一石二鳥?」

「はい。共和国の乗っ取りと簡単には言っても、実際はたかだか1つの寄せ集め集団の力で達成できるようなことではありません。ですから、ボスは外部の力を頼ることにしました。」

「外部……まさか、王国を?」

「ご名答です。」

ランドルトは黒いキングの駒で、王国の上に置かれている白いポーンとビショップをいくつか倒す。

「魔術学院の生徒の多くは、国にとって大事な王族や貴族のご子息・ご息女がほとんどです。ですから、もし彼らを他国のスパイにでも殺害されたとなっては……」

「その国に何らかの形で報復する。」

私は王国にある白いキングで、共和国にある黒いキングを倒す。

「王国は帝国に並ぶ大陸随一の大国です。報復されれば、大半の国はひとたまりもないでしょう。そしてそれは、共和国も例外ではありません。」

「つまり、ボスは魔術学院の生徒を生贄にするため襲撃し、その犯人が共和国であると仕立て上げ、王国を使って共和国の弱体化を図っていたと……この"生贄の入手"と"共和国の弱体化"で一石二鳥を狙ってたってことだね。」

「しかし、その思惑にこちらが気づいた今、共和国の弱体化と乗っ取りはほぼなくなったと言っていいでしょう。それに、幹部を捕らえた時点で向こうも勘付かれたことは察しているはずですから、作戦自体が取りやめとなるでしょう。」

ランドルトはそう言うと、チェス駒をテーブルの端に避け、地図を丁寧に畳みながら話を続ける。

「しかし問題は、ボスの策略が失敗に終わっても、他のモロクのメンバーは止まらないということです。」

「モロクのメンバーはそれぞれに思惑があるんだったよね。つまり、共和国の乗っ取りなんてはなからどうでもよくて、魔力の高い子どもが手に入れば何でもいい。」

「そうなると、むしろ敵の動きが読めません。もはや、組織としての行動を取るかも怪しいでしょう。」

「今回捕まえた男の行動は、どこまでが組織からの指示で、どこまでが本人の意思だったんだろう?」

「本人曰く、潜入自体はボスの指示だが、今回カナ様を襲撃したのは"ある幹部の男"に頼まれたから、だそうです。」

「ある幹部……それって特徴とかは言ってた?」

「あまり詳しいことは分かりませんが、喋り方が気に入らないだの、髭面が鬱陶しいだの言っていたそうです。」

……十中八九あいつだろう。

「わかった、ありがとう。」
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