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転変
第101話 手がかり①
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「では、ご協力ありがとうございました。」
対応してくれた騎士は、男の腕をガッチリと掴んだまま深々と頭を下げ、他の騎士数名とともに王城の地下牢へと向かっていった。
私達は、モロクの幹部の身柄を警備隊ではなく第2騎士団へと引き渡した。彼らはロバン伯爵が団長を務める騎士団である。
「さて、疲れたじゃろう。わしの屋敷で紅茶でもどうかな?」
「せっかくなので、お邪魔します。」
私達はエドガス様の屋敷へと向かう。
「警備隊に紛れていたモロクの関係者は、あやつだけだったかのう?」
「はい、恐らくは。ラクアが用意した派遣人員のリストと、警備隊にあったリストで矛盾があったのは彼だけです。」
「なら良かったわい。まあ、仮にまだ残っておったとしても、第2騎士団の再調査でボロが出るじゃろう。」
今回捕まえた男は、表向きは"警備隊に派遣された王城勤めの文官"だったが、その正体は"派遣された文官たちに紛れ警備隊に潜入したモロクの幹部"であった。
目的は、警備隊がモロクの存在に勘づいているかの確認と、勘づかれた場合の証人の排除だ。
このことに私が気がついた理由は、シンプルに初対面のとき、呪力視で彼を見たらオーラがだだ漏れだったためである。まあ、学院の生徒が呪力視を使えるとは夢にも思わなかったのだろう。
その翌日にはラクアに事情を説明し、男が王城勤めでも警備隊所属でもないことを確認してもらった。
さらにはエドガス様にお願いし、私の周辺を伝書バトを使って監視してもらっていた。その最中男の方から私へアプローチがあったため、危険を察知した伝書バトがエドガス様を呼びに行ってくれた、という訳だ。
あとの流れは先程の通りである。
「それにしても、幹部自ら警備隊に潜入するとは、随分大胆なことをするのう。しかも、お嬢さんを直々に始末しようとするとは。」
エドガス様は立派な白い髭を撫でながら呟く。
「彼の態度を見るに、基本的に私のことも警備隊のことも軽視していたのでしょう。一方はまともな人材が少なく、もう一方はまだ子どもですから。」
「気持ちは分からんことはないが、裏組織の行動にしては少々不用心じゃのう。」
「それに関しては、モロクの方針と言うより彼の性分の問題でしょう。ただいずれにせよ、モロク自体そんなに統制の取れた組織ではないのかもしれません。」
「なるほどのう。しかしそれなら、わしらが付け入る隙もあるかもしれん。」
「はい。まずはあの男から極力情報を聞き出すことが重要ですね。交渉か尋問か、あるいは拷問か……」
「まあ、そのあたりは騎士団がうまいことやるじゃろう。」
「そうですね、彼らに任せましょう。」
────────
「カナ様、度々すみません。例によってラクア様がお呼びですので、ご同行願えますでしょうか。」
数日後。放課後になると、早速ランドルトに呼び止められた。
「うん、分かった。ランドルトも毎回ありがとう。」
「いえいえとんでもありません。今回の件、カナ様と違って私ではあまりお力になれそうにありませんので……せめてこれくらいはいたしませんと。」
ランドルトは少し寂しげにメガネを触る。
「……」
私は横並びで一緒に廊下を歩くランドルトの顔をまじまじと見る。
「ど、どういたしましたか?」
「ああいや、ランドルトもそういうネガティブというか、悩みっぽいこと言うんだなって思って。」
「おや、私にだって悩みの1つや2つありますよ。ラクア様やカナ様のような優秀な方々が周りにいれば尚のこと。」
「あはは、学年主席が何を言いますか。」
「ふふ、表面だけ見ればそうなのですが……ラクア様のお役に立てる強みがないのですよ、私には。ラクア様はおひとりで何でもこなしてしまいますので、私が何かして差し上げる隙を見せてくださらないのです。」
「そう?結構ランドルトに対しては隙だらけだと思うけど。」
「え?」
「そもそも、ラクアが自分の思うように色々こなせてるのは、ランドルトがその地盤を作ってあげてるからでしょ。秘書的な意味でも、精神的にもね。」
「秘書はともかく、精神的にですか?」
「うん、あの人って普段はすごくしっかりしてるしできるけど、素はまだ結構年相応で子どもでしょ?ジークに突っかかってるときとか。だから王子様モードのときって案外心細いと思うんだよ。でもちゃんとやれてるのは、ランドルトのおかげだと思うよ。」
「そうでしょうか……」
ランドルトはうつむくが、その顔にはわずかに笑みが浮かぶ。
「それにそもそもランドルトが必要なかったら言うでしょ、ラクアなら。『俺に付き人は必要ない、付いてこなくていい』とかなんとか。」
私は腕組みをし、少し目を釣り上げてラクアの真似をする。
「フッ……」
ランドルトは吹き出しそうになるのをこらえる。
「……そうですね。」
そして、嬉しそうに微笑んだ。
対応してくれた騎士は、男の腕をガッチリと掴んだまま深々と頭を下げ、他の騎士数名とともに王城の地下牢へと向かっていった。
私達は、モロクの幹部の身柄を警備隊ではなく第2騎士団へと引き渡した。彼らはロバン伯爵が団長を務める騎士団である。
「さて、疲れたじゃろう。わしの屋敷で紅茶でもどうかな?」
「せっかくなので、お邪魔します。」
私達はエドガス様の屋敷へと向かう。
「警備隊に紛れていたモロクの関係者は、あやつだけだったかのう?」
「はい、恐らくは。ラクアが用意した派遣人員のリストと、警備隊にあったリストで矛盾があったのは彼だけです。」
「なら良かったわい。まあ、仮にまだ残っておったとしても、第2騎士団の再調査でボロが出るじゃろう。」
今回捕まえた男は、表向きは"警備隊に派遣された王城勤めの文官"だったが、その正体は"派遣された文官たちに紛れ警備隊に潜入したモロクの幹部"であった。
目的は、警備隊がモロクの存在に勘づいているかの確認と、勘づかれた場合の証人の排除だ。
このことに私が気がついた理由は、シンプルに初対面のとき、呪力視で彼を見たらオーラがだだ漏れだったためである。まあ、学院の生徒が呪力視を使えるとは夢にも思わなかったのだろう。
その翌日にはラクアに事情を説明し、男が王城勤めでも警備隊所属でもないことを確認してもらった。
さらにはエドガス様にお願いし、私の周辺を伝書バトを使って監視してもらっていた。その最中男の方から私へアプローチがあったため、危険を察知した伝書バトがエドガス様を呼びに行ってくれた、という訳だ。
あとの流れは先程の通りである。
「それにしても、幹部自ら警備隊に潜入するとは、随分大胆なことをするのう。しかも、お嬢さんを直々に始末しようとするとは。」
エドガス様は立派な白い髭を撫でながら呟く。
「彼の態度を見るに、基本的に私のことも警備隊のことも軽視していたのでしょう。一方はまともな人材が少なく、もう一方はまだ子どもですから。」
「気持ちは分からんことはないが、裏組織の行動にしては少々不用心じゃのう。」
「それに関しては、モロクの方針と言うより彼の性分の問題でしょう。ただいずれにせよ、モロク自体そんなに統制の取れた組織ではないのかもしれません。」
「なるほどのう。しかしそれなら、わしらが付け入る隙もあるかもしれん。」
「はい。まずはあの男から極力情報を聞き出すことが重要ですね。交渉か尋問か、あるいは拷問か……」
「まあ、そのあたりは騎士団がうまいことやるじゃろう。」
「そうですね、彼らに任せましょう。」
────────
「カナ様、度々すみません。例によってラクア様がお呼びですので、ご同行願えますでしょうか。」
数日後。放課後になると、早速ランドルトに呼び止められた。
「うん、分かった。ランドルトも毎回ありがとう。」
「いえいえとんでもありません。今回の件、カナ様と違って私ではあまりお力になれそうにありませんので……せめてこれくらいはいたしませんと。」
ランドルトは少し寂しげにメガネを触る。
「……」
私は横並びで一緒に廊下を歩くランドルトの顔をまじまじと見る。
「ど、どういたしましたか?」
「ああいや、ランドルトもそういうネガティブというか、悩みっぽいこと言うんだなって思って。」
「おや、私にだって悩みの1つや2つありますよ。ラクア様やカナ様のような優秀な方々が周りにいれば尚のこと。」
「あはは、学年主席が何を言いますか。」
「ふふ、表面だけ見ればそうなのですが……ラクア様のお役に立てる強みがないのですよ、私には。ラクア様はおひとりで何でもこなしてしまいますので、私が何かして差し上げる隙を見せてくださらないのです。」
「そう?結構ランドルトに対しては隙だらけだと思うけど。」
「え?」
「そもそも、ラクアが自分の思うように色々こなせてるのは、ランドルトがその地盤を作ってあげてるからでしょ。秘書的な意味でも、精神的にもね。」
「秘書はともかく、精神的にですか?」
「うん、あの人って普段はすごくしっかりしてるしできるけど、素はまだ結構年相応で子どもでしょ?ジークに突っかかってるときとか。だから王子様モードのときって案外心細いと思うんだよ。でもちゃんとやれてるのは、ランドルトのおかげだと思うよ。」
「そうでしょうか……」
ランドルトはうつむくが、その顔にはわずかに笑みが浮かぶ。
「それにそもそもランドルトが必要なかったら言うでしょ、ラクアなら。『俺に付き人は必要ない、付いてこなくていい』とかなんとか。」
私は腕組みをし、少し目を釣り上げてラクアの真似をする。
「フッ……」
ランドルトは吹き出しそうになるのをこらえる。
「……そうですね。」
そして、嬉しそうに微笑んだ。
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