101 / 118
転変
第101話 手がかり①
しおりを挟む
「では、ご協力ありがとうございました。」
対応してくれた騎士は、男の腕をガッチリと掴んだまま深々と頭を下げ、他の騎士数名とともに王城の地下牢へと向かっていった。
私達は、モロクの幹部の身柄を警備隊ではなく第2騎士団へと引き渡した。彼らはロバン伯爵が団長を務める騎士団である。
「さて、疲れたじゃろう。わしの屋敷で紅茶でもどうかな?」
「せっかくなので、お邪魔します。」
私達はエドガス様の屋敷へと向かう。
「警備隊に紛れていたモロクの関係者は、あやつだけだったかのう?」
「はい、恐らくは。ラクアが用意した派遣人員のリストと、警備隊にあったリストで矛盾があったのは彼だけです。」
「なら良かったわい。まあ、仮にまだ残っておったとしても、第2騎士団の再調査でボロが出るじゃろう。」
今回捕まえた男は、表向きは"警備隊に派遣された王城勤めの文官"だったが、その正体は"派遣された文官たちに紛れ警備隊に潜入したモロクの幹部"であった。
目的は、警備隊がモロクの存在に勘づいているかの確認と、勘づかれた場合の証人の排除だ。
このことに私が気がついた理由は、シンプルに初対面のとき、呪力視で彼を見たらオーラがだだ漏れだったためである。まあ、学院の生徒が呪力視を使えるとは夢にも思わなかったのだろう。
その翌日にはラクアに事情を説明し、男が王城勤めでも警備隊所属でもないことを確認してもらった。
さらにはエドガス様にお願いし、私の周辺を伝書バトを使って監視してもらっていた。その最中男の方から私へアプローチがあったため、危険を察知した伝書バトがエドガス様を呼びに行ってくれた、という訳だ。
あとの流れは先程の通りである。
「それにしても、幹部自ら警備隊に潜入するとは、随分大胆なことをするのう。しかも、お嬢さんを直々に始末しようとするとは。」
エドガス様は立派な白い髭を撫でながら呟く。
「彼の態度を見るに、基本的に私のことも警備隊のことも軽視していたのでしょう。一方はまともな人材が少なく、もう一方はまだ子どもですから。」
「気持ちは分からんことはないが、裏組織の行動にしては少々不用心じゃのう。」
「それに関しては、モロクの方針と言うより彼の性分の問題でしょう。ただいずれにせよ、モロク自体そんなに統制の取れた組織ではないのかもしれません。」
「なるほどのう。しかしそれなら、わしらが付け入る隙もあるかもしれん。」
「はい。まずはあの男から極力情報を聞き出すことが重要ですね。交渉か尋問か、あるいは拷問か……」
「まあ、そのあたりは騎士団がうまいことやるじゃろう。」
「そうですね、彼らに任せましょう。」
────────
「カナ様、度々すみません。例によってラクア様がお呼びですので、ご同行願えますでしょうか。」
数日後。放課後になると、早速ランドルトに呼び止められた。
「うん、分かった。ランドルトも毎回ありがとう。」
「いえいえとんでもありません。今回の件、カナ様と違って私ではあまりお力になれそうにありませんので……せめてこれくらいはいたしませんと。」
ランドルトは少し寂しげにメガネを触る。
「……」
私は横並びで一緒に廊下を歩くランドルトの顔をまじまじと見る。
「ど、どういたしましたか?」
「ああいや、ランドルトもそういうネガティブというか、悩みっぽいこと言うんだなって思って。」
「おや、私にだって悩みの1つや2つありますよ。ラクア様やカナ様のような優秀な方々が周りにいれば尚のこと。」
「あはは、学年主席が何を言いますか。」
「ふふ、表面だけ見ればそうなのですが……ラクア様のお役に立てる強みがないのですよ、私には。ラクア様はおひとりで何でもこなしてしまいますので、私が何かして差し上げる隙を見せてくださらないのです。」
「そう?結構ランドルトに対しては隙だらけだと思うけど。」
「え?」
「そもそも、ラクアが自分の思うように色々こなせてるのは、ランドルトがその地盤を作ってあげてるからでしょ。秘書的な意味でも、精神的にもね。」
「秘書はともかく、精神的にですか?」
「うん、あの人って普段はすごくしっかりしてるしできるけど、素はまだ結構年相応で子どもでしょ?ジークに突っかかってるときとか。だから王子様モードのときって案外心細いと思うんだよ。でもちゃんとやれてるのは、ランドルトのおかげだと思うよ。」
「そうでしょうか……」
ランドルトはうつむくが、その顔にはわずかに笑みが浮かぶ。
「それにそもそもランドルトが必要なかったら言うでしょ、ラクアなら。『俺に付き人は必要ない、付いてこなくていい』とかなんとか。」
私は腕組みをし、少し目を釣り上げてラクアの真似をする。
「フッ……」
ランドルトは吹き出しそうになるのをこらえる。
「……そうですね。」
そして、嬉しそうに微笑んだ。
対応してくれた騎士は、男の腕をガッチリと掴んだまま深々と頭を下げ、他の騎士数名とともに王城の地下牢へと向かっていった。
私達は、モロクの幹部の身柄を警備隊ではなく第2騎士団へと引き渡した。彼らはロバン伯爵が団長を務める騎士団である。
「さて、疲れたじゃろう。わしの屋敷で紅茶でもどうかな?」
「せっかくなので、お邪魔します。」
私達はエドガス様の屋敷へと向かう。
「警備隊に紛れていたモロクの関係者は、あやつだけだったかのう?」
「はい、恐らくは。ラクアが用意した派遣人員のリストと、警備隊にあったリストで矛盾があったのは彼だけです。」
「なら良かったわい。まあ、仮にまだ残っておったとしても、第2騎士団の再調査でボロが出るじゃろう。」
今回捕まえた男は、表向きは"警備隊に派遣された王城勤めの文官"だったが、その正体は"派遣された文官たちに紛れ警備隊に潜入したモロクの幹部"であった。
目的は、警備隊がモロクの存在に勘づいているかの確認と、勘づかれた場合の証人の排除だ。
このことに私が気がついた理由は、シンプルに初対面のとき、呪力視で彼を見たらオーラがだだ漏れだったためである。まあ、学院の生徒が呪力視を使えるとは夢にも思わなかったのだろう。
その翌日にはラクアに事情を説明し、男が王城勤めでも警備隊所属でもないことを確認してもらった。
さらにはエドガス様にお願いし、私の周辺を伝書バトを使って監視してもらっていた。その最中男の方から私へアプローチがあったため、危険を察知した伝書バトがエドガス様を呼びに行ってくれた、という訳だ。
あとの流れは先程の通りである。
「それにしても、幹部自ら警備隊に潜入するとは、随分大胆なことをするのう。しかも、お嬢さんを直々に始末しようとするとは。」
エドガス様は立派な白い髭を撫でながら呟く。
「彼の態度を見るに、基本的に私のことも警備隊のことも軽視していたのでしょう。一方はまともな人材が少なく、もう一方はまだ子どもですから。」
「気持ちは分からんことはないが、裏組織の行動にしては少々不用心じゃのう。」
「それに関しては、モロクの方針と言うより彼の性分の問題でしょう。ただいずれにせよ、モロク自体そんなに統制の取れた組織ではないのかもしれません。」
「なるほどのう。しかしそれなら、わしらが付け入る隙もあるかもしれん。」
「はい。まずはあの男から極力情報を聞き出すことが重要ですね。交渉か尋問か、あるいは拷問か……」
「まあ、そのあたりは騎士団がうまいことやるじゃろう。」
「そうですね、彼らに任せましょう。」
────────
「カナ様、度々すみません。例によってラクア様がお呼びですので、ご同行願えますでしょうか。」
数日後。放課後になると、早速ランドルトに呼び止められた。
「うん、分かった。ランドルトも毎回ありがとう。」
「いえいえとんでもありません。今回の件、カナ様と違って私ではあまりお力になれそうにありませんので……せめてこれくらいはいたしませんと。」
ランドルトは少し寂しげにメガネを触る。
「……」
私は横並びで一緒に廊下を歩くランドルトの顔をまじまじと見る。
「ど、どういたしましたか?」
「ああいや、ランドルトもそういうネガティブというか、悩みっぽいこと言うんだなって思って。」
「おや、私にだって悩みの1つや2つありますよ。ラクア様やカナ様のような優秀な方々が周りにいれば尚のこと。」
「あはは、学年主席が何を言いますか。」
「ふふ、表面だけ見ればそうなのですが……ラクア様のお役に立てる強みがないのですよ、私には。ラクア様はおひとりで何でもこなしてしまいますので、私が何かして差し上げる隙を見せてくださらないのです。」
「そう?結構ランドルトに対しては隙だらけだと思うけど。」
「え?」
「そもそも、ラクアが自分の思うように色々こなせてるのは、ランドルトがその地盤を作ってあげてるからでしょ。秘書的な意味でも、精神的にもね。」
「秘書はともかく、精神的にですか?」
「うん、あの人って普段はすごくしっかりしてるしできるけど、素はまだ結構年相応で子どもでしょ?ジークに突っかかってるときとか。だから王子様モードのときって案外心細いと思うんだよ。でもちゃんとやれてるのは、ランドルトのおかげだと思うよ。」
「そうでしょうか……」
ランドルトはうつむくが、その顔にはわずかに笑みが浮かぶ。
「それにそもそもランドルトが必要なかったら言うでしょ、ラクアなら。『俺に付き人は必要ない、付いてこなくていい』とかなんとか。」
私は腕組みをし、少し目を釣り上げてラクアの真似をする。
「フッ……」
ランドルトは吹き出しそうになるのをこらえる。
「……そうですね。」
そして、嬉しそうに微笑んだ。
45
お気に入りに追加
692
あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜
ネリムZ
ファンタジー
唐突にギルドマスターから宣言される言葉。
「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」
理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。
様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。
そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。
モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。
行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。
俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。
そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。
新たな目標、新たな仲間と環境。
信念を持って行動する、一人の男の物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。


ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる