乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる

アミ100

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転変

第100話 謀略

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カランカラン~

「ごめんください」

「いらっしゃい……お嬢ちゃんかい。例のもんなら用意できてるよ。」

数日後。私は事前に仕入れるよう頼んであった品の受け取りのため、放課後にある魔導具店へと足を運んでいた。

ここは、魔術大会のときにブレスレットを買った露店の主であるリジーさんが普段経営している店である。

「助かります。お代はこれで。」

私は金貨数枚が入った袋を手渡す。

「ふむ……」

リジーさんは袋の紐を解いて金貨を手のひらに乗せ、片手で手際よく金貨を数える。

「ちょうどだね。さて、じゃあ持っておいき。」

リジーさんから注文した品を渡される。

「ありがとうございます。」

私は商品を受け取り、そのまま出口へと向かう。

「お嬢ちゃん。」

「はい、なんでしょう?」

リジーさんに呼び止められる。

「それを何に使うつもりかは分からんが、あんまり危ないことするんじゃないよ。」

「分かってますよ。……では失礼します。」

私は手をかけていた扉を押し開き、外へ出た。

─────────

「ベルナールさん」

「……?ああ、先日の」

カナが買い物を終え寮に戻ろうと王都の大通りを歩いていると、ノアに事情聴取していた若い警備隊員(厳密には一時派遣された文官)に声をかけられた。

「お買い物中、呼び止めてしまってすみません。実はあれからまた分かったことがありまして……お手数ですが、駐屯所の方までご足労願えますでしょうか。」

「本部ではなく駐屯所ですか?」

「はい。見ていただきたいものがありまして。」

「そうですか、分かりました。」

「では、付いてきてください。」

そう言うと、警備隊員はカナに背を向けスタスタと歩き始め、彼女は素直に彼についていった。

そのとき、近くの建物の屋根の上から1羽の白いハトが飛び立った。


──────────


「……あの」

「何でしょうか?」

「駐屯所ってこっちでしたっけ?」

「……」

あれから30分ほど移動し、カナと警備隊員はどこかもよくわからない暗い路地裏まで移動していた。移動中、一向に駐屯所に着く気配がないどころか、どんどん王都の中心部から遠ざかっている。

「ふう……ま、この辺ならいいか。」

そう言うと、警備隊員は後ろを振り返った。無造作に頭をバサバサと掻くと、綺麗にまとめられていた髪型が崩れていく。

「全く、あの野郎も面倒ごとを押し付けやがる……小娘の始末なんて自分でやりゃあいいだろうが……」

「……」

先程までの丁寧な態度からは一変し、苛立った様子で何やらブツブツとボヤいている。

「……あー、ビックリして声も出ねえってか?えーっとお、お前は俺が王城から派遣された文官かなんかだと思ってんだろ?だけど実は、派遣人員受け入れのときに紛れ込んだ極悪組織モロクの幹部でした!どーだびっくりだろ?」

目の前の警備隊員、改めモロク幹部は、先程までの整った顔立ちを思い切り歪ませ笑う。その表情はカナを完全に見下していることが見て取れる。

「はあ……やっぱりしてやられたね、ラクア。君も私も。」

「あ?声が小せえな!」

ゴォォォォ!!!!

言うが早いか、男は右手を大きく振り上げ、紫色の炎を繰り出す。その高さは人の背丈をゆうに超え、カナの全身を一瞬で飲み込んだ。

「ハハ、1歩も動けず消し炭とはあっけないねえ!あいつも"油断するな"なんてほざきやがっ……あ?」

男の視線の先には、薄い水の楕円体に守られ、消し炭どころか無傷で立つカナの姿があった。

「紫の炎……魔法と呪法って融合させて使えるんですね。知リませんでした。」

「てめえ……この炎が触れた魔法の水や土は消えるはずだぞ……!」

「水や土……なるほど」

カナはポツリと呟く。

「聞いてんのか!!」

「ああ、すみません。この水膜が消えないのは、単にこの水が魔法じゃなくて、元からある水を操作しているからですよ。」

「は?なわけねえだろ、この一瞬でどっかのバケツからでも引っ張ってきたってのか??」

「まあバケツがあるならそれでもいいんですけど……そんなのわざわざ持ってこなくても、あるじゃないですか、そこら中・・・・に。」

「クソッッさっきから何言って!もういい、とにかくぶっ潰すから覚悟しろ!!」

「受けて立ちます……と言いたいところですが、残念。時間切れです。」
「は?」

ドゴォォォォ!!!

「ガッッ!!!」

次の瞬間、路地の中央に立っていたはずの男は、轟音と共に近くの壁へと叩きつけられた。壁はその衝撃で所々ヒビが入っている。

「何がっっ」

ガガガガッッ!!ガチャッ

「……!!」

続けて、男は頭や四肢ギリギリの位置に衝撃を感じ、身動きが取れなくなった。いくつもの風の槍が男の衣服を貫き、壁へと縫いつけたのだ。さらに、男の腕には魔封石と呪封石が混ぜられた手錠が付けられていた。

男は状況が微塵も理解できず、風の槍に当たらないように気をつけつつ必死に目を動かす。すると、生意気な小娘の他に、ある老人が視界に入った。

この老人、面識はないはずだ。しかし、なぜこんなにも既視感と恐怖感を覚えるのか……

「ホッホッ、いいところに水を差してしまったかのう。」

すると、老人が小娘に話しかける。

「いえ、貴方が来るまでの場繋ぎをしていただけですよ、エドガス様。」

「……!」

瞬間、男は目の前の老人の正体を思い出した。大賢者エドガス……大陸でこの名を知らない者はいない。想定外の存在に、ただただ呆然とする。

「テメッ……なんでテメエがここに!!」

「ん?お嬢さんから聞いておらんのかな、警備隊員殿・・・・・。彼女の言う"協力者"の1人はワシじゃよ。」

「なんでそれを……まさか、はかりやがったな小娘!!」

「謀ったのはお互い様でしょう。今回はこちらが一枚上手だっただけですよ。……さて、では駐屯所ではなく本部へ参りましょうか、警備隊員殿・・・・・?」

「……クソッッッ!!!」

こうしてモロクの男は、カナとエドガスの手によってあっさりと捕まった。
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