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転変
第97話 繋がる点と点①
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「おう、お前ら!どうだったよ、あいつ。」
我々が病室を出ると、ずっと待機していたらしいロペス先生が早速声をかけてきた。
「とりあえず元気?そうで良かったです。」
「先生がなんか変な空気出してたから、てっきりもっと死にかけてんのかと思いましたよ」
ルイとアランが答える。
「いやーすまんすまん、"あれ"を正確に説明する言葉が見つからなくてな!」
それは確かにそう思う。
「で、お前らこれからどうするつもりだ?」
「ベークマンの証言と状況証拠から、彼を襲ったのは私が魔術大会のときに接触したのと同じ呪法師である可能性が高いことが分かりました。私としても奴の動向は探っておきたいので、色々情報を集めるつもりです。」
「そうか、ならちょうどいい。実は、犯人らしき奴を見たって生徒がいてな、今警備隊の本部で事情聴取を受けてもらってるところだ。そいつに聞けば、何かわかるかもしれん。」
「なるほど……ありがとうございます。警備隊の本部って、私たちが行って入れてもらえるでしょうか?」
「さっき言ってた見立てが正しけれりゃ、ベルナールは犯人を見たことのある唯一の手掛かりだ。むしろ行って情報提供した方がいいだろう。それに、お前さんは巷でもちょっとした有名人だから顔パスで入れるだろ。」
「有名人?……とにかくわかりました。では行ってみます。」
自分がどこでどう有名人なのかはかなり気になるところだが、今考えるべきはそこではない。
「おう、頑張れよ!」
私はアランとルイ、それと護衛として警備隊員に街での簡単な聞き込み調査を頼み、自身は警備隊本部へと向かった。
ーーーーーーーーーーーー
「カナさん!」
「ノアさん?もしかして、目撃者の生徒って……」
ロペス先生の見立て通り、警備隊に事情を話したところ、とんとん拍子で本部内の取り調べ室まで招き入れてくれた。取り調べ室と言っても容疑者ではない目撃者や参考人と話すためのスペースなようで、その概観はオフィスの一角にある応接間のようなそれだった。
そして、その取り調べ室にいたのは、2人の警備隊員と、魔法研究部の同期であるノアさんだった。
「そう、私!いやあ、ほんと色々あって大変だったよ!」
ノアさんはそういうと私に抱きつく。私は対応に少し困って、とりあえずノアさんの頭を軽くなでる。
「では、ノア・カーターさん。お手数ですが、今までの話をもう一度おおまかに説明願えますか?ベルナールさんに聞いていただくことによってわかることがあるかもしれませんから。」
2人の警備隊員のうち、比較的若い方が発言する。完全に主観だが、他の警備隊員と異なり仕事ができそうな雰囲気を醸し出している。
ベークマンと城下町の治安について調査したあの一件のあと、私はラクアに警備隊の人手・人材不足を指摘した。それを受けたラクアは現状調査と警備隊員の教育のため、王城で働く文官と近衛騎士を数名ずつ一定期間派遣すると言っていた。彼はその派遣された人達のうちの1人だろう。
「はい!えっと……」
少し話が逸れてしまったが、ノアさんが話し始めたので意識を戻す。
「私、カナさんからもらったカメラで試し撮りしてみようと、城下町を回って色々撮ってたんです。それで夢中になって思ったより人気のない場所に行っちゃって、暗くなってきたからそろそろ帰ろうとしたら、路地裏でベークマン君と、ベークマン君の首を後ろから掴んで壁に押さえつけてる男の人がいて……」
「相手には見つからなかったの?」
「それが……私、びっくりしてカメラのシャッター押したから見つかっちゃって……その人、次の瞬間には私の方に掴みかかって来たんだ……」
「えっ」
「でもね、ベークマン君が魔法で助けてくれたの!一瞬のうちに私の前に土の壁を作って防いでくれて……そのときの音で人が集まってきたから、男の人はどっかに逃げて行っちゃった」
「無事でよかったよ」
ベークマン自身は特にそんな話はしていなかったが、自分も危ない状況で他の人間を助けるとは、やるじゃないか。
「それにしても、ターゲットだけじゃなくて通行人まで狙うなんて、随分血の気が多いね」
私が前に出くわしたときは、どちらかというとやる気がないイメージがあったが……
「それなんだけど、どちらかというと私自身よりカメラを狙ってた気がするんだよね……」
「カメラを?」
「うん、多分、記録に残るのが嫌だったんじゃないかな……」
……
「……そうだね。あと、その男がベークマンを殺そうとした理由に心あたりはある?」
「うーん……一瞬だったし、かなり暗くて顔とかちゃんと見られなかったから、それだけで判断は難しいかな……あ、でもね、そのときに写真撮れたの!まあ撮ったというより、シャッター押しちゃったときにたまたま撮れただけなんだけど……これ!」
そう言うと、ノアさんは1枚の写真を取り出す。
そこには、ベークマンと思われる大柄の制服姿の少年を掴む件の男の姿がしっかりと写っていた。そのとき辺りは暗かったようだが、カメラのフラッシュのおかげで写真自体は比較的明るく像を写していた。
「……!!これ……」
「そう、カナさんも気がついた?この人の腕、何か描いてある!」
写真に写る男の腕は、ベークマンの抵抗にあり袖が破けたのか肩から先は露出していた。
そしてその二の腕には、見覚えのある紋章が刻まれていた。
「……モロクだ」
我々が病室を出ると、ずっと待機していたらしいロペス先生が早速声をかけてきた。
「とりあえず元気?そうで良かったです。」
「先生がなんか変な空気出してたから、てっきりもっと死にかけてんのかと思いましたよ」
ルイとアランが答える。
「いやーすまんすまん、"あれ"を正確に説明する言葉が見つからなくてな!」
それは確かにそう思う。
「で、お前らこれからどうするつもりだ?」
「ベークマンの証言と状況証拠から、彼を襲ったのは私が魔術大会のときに接触したのと同じ呪法師である可能性が高いことが分かりました。私としても奴の動向は探っておきたいので、色々情報を集めるつもりです。」
「そうか、ならちょうどいい。実は、犯人らしき奴を見たって生徒がいてな、今警備隊の本部で事情聴取を受けてもらってるところだ。そいつに聞けば、何かわかるかもしれん。」
「なるほど……ありがとうございます。警備隊の本部って、私たちが行って入れてもらえるでしょうか?」
「さっき言ってた見立てが正しけれりゃ、ベルナールは犯人を見たことのある唯一の手掛かりだ。むしろ行って情報提供した方がいいだろう。それに、お前さんは巷でもちょっとした有名人だから顔パスで入れるだろ。」
「有名人?……とにかくわかりました。では行ってみます。」
自分がどこでどう有名人なのかはかなり気になるところだが、今考えるべきはそこではない。
「おう、頑張れよ!」
私はアランとルイ、それと護衛として警備隊員に街での簡単な聞き込み調査を頼み、自身は警備隊本部へと向かった。
ーーーーーーーーーーーー
「カナさん!」
「ノアさん?もしかして、目撃者の生徒って……」
ロペス先生の見立て通り、警備隊に事情を話したところ、とんとん拍子で本部内の取り調べ室まで招き入れてくれた。取り調べ室と言っても容疑者ではない目撃者や参考人と話すためのスペースなようで、その概観はオフィスの一角にある応接間のようなそれだった。
そして、その取り調べ室にいたのは、2人の警備隊員と、魔法研究部の同期であるノアさんだった。
「そう、私!いやあ、ほんと色々あって大変だったよ!」
ノアさんはそういうと私に抱きつく。私は対応に少し困って、とりあえずノアさんの頭を軽くなでる。
「では、ノア・カーターさん。お手数ですが、今までの話をもう一度おおまかに説明願えますか?ベルナールさんに聞いていただくことによってわかることがあるかもしれませんから。」
2人の警備隊員のうち、比較的若い方が発言する。完全に主観だが、他の警備隊員と異なり仕事ができそうな雰囲気を醸し出している。
ベークマンと城下町の治安について調査したあの一件のあと、私はラクアに警備隊の人手・人材不足を指摘した。それを受けたラクアは現状調査と警備隊員の教育のため、王城で働く文官と近衛騎士を数名ずつ一定期間派遣すると言っていた。彼はその派遣された人達のうちの1人だろう。
「はい!えっと……」
少し話が逸れてしまったが、ノアさんが話し始めたので意識を戻す。
「私、カナさんからもらったカメラで試し撮りしてみようと、城下町を回って色々撮ってたんです。それで夢中になって思ったより人気のない場所に行っちゃって、暗くなってきたからそろそろ帰ろうとしたら、路地裏でベークマン君と、ベークマン君の首を後ろから掴んで壁に押さえつけてる男の人がいて……」
「相手には見つからなかったの?」
「それが……私、びっくりしてカメラのシャッター押したから見つかっちゃって……その人、次の瞬間には私の方に掴みかかって来たんだ……」
「えっ」
「でもね、ベークマン君が魔法で助けてくれたの!一瞬のうちに私の前に土の壁を作って防いでくれて……そのときの音で人が集まってきたから、男の人はどっかに逃げて行っちゃった」
「無事でよかったよ」
ベークマン自身は特にそんな話はしていなかったが、自分も危ない状況で他の人間を助けるとは、やるじゃないか。
「それにしても、ターゲットだけじゃなくて通行人まで狙うなんて、随分血の気が多いね」
私が前に出くわしたときは、どちらかというとやる気がないイメージがあったが……
「それなんだけど、どちらかというと私自身よりカメラを狙ってた気がするんだよね……」
「カメラを?」
「うん、多分、記録に残るのが嫌だったんじゃないかな……」
……
「……そうだね。あと、その男がベークマンを殺そうとした理由に心あたりはある?」
「うーん……一瞬だったし、かなり暗くて顔とかちゃんと見られなかったから、それだけで判断は難しいかな……あ、でもね、そのときに写真撮れたの!まあ撮ったというより、シャッター押しちゃったときにたまたま撮れただけなんだけど……これ!」
そう言うと、ノアさんは1枚の写真を取り出す。
そこには、ベークマンと思われる大柄の制服姿の少年を掴む件の男の姿がしっかりと写っていた。そのとき辺りは暗かったようだが、カメラのフラッシュのおかげで写真自体は比較的明るく像を写していた。
「……!!これ……」
「そう、カナさんも気がついた?この人の腕、何か描いてある!」
写真に写る男の腕は、ベークマンの抵抗にあり袖が破けたのか肩から先は露出していた。
そしてその二の腕には、見覚えのある紋章が刻まれていた。
「……モロクだ」
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