乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる

アミ100

文字の大きさ
上 下
96 / 115
転変

第96話 あの野郎

しおりを挟む
「……で、なんであんな暴れてたんだ?」

 あれから数分後。医者の許しを貰い、ひとまず観念したらしいベークマンを鎖から解放し、ベッドの上に座らせた。ただし魔法を使われると怖いので、腕に巻かれていた鎖だけはそのままだ。

「俺をぶっ殺そうとした野郎が気に食わねえんだよ。」

「な……お前、人間1人にやられたのか?馬車3台に轢かれたとか、魔獣化した熊の群れに襲われたとかじゃなくて?」

「ああ、そうだよ。知ってたんじゃねえのか?でなきゃそいつがわざわざ来ねえだろ。」

 ベークマンは私を顎で指す。

「え、ああ、そういうことだったのか?」

 アランが私に訊ねる。

「うん。とはいえ知ってた訳じゃなくて、そう予想してきただけだけどね。私ちょっと今色々首突っ込んでて、そういう人の悪意が介入してそうな事件とか事故に敏感だから……しかもベークマンが瀕死になるような状況なんて、嫌な予感しかしないでしょ?馬車3台に轢かれたとか魔獣化した熊の群れに襲われたとかも考えたんだけど、どっちも偶発的に起こるようなことじゃないし。」

「馬車3台と魔獣化した熊は皆1回考えるんだ……」

 ルイが呆れ気味にツッコミをいれる。

「で、"あの野郎"ってのはどんな奴なんだ?」

 アランが聞き直す。

「……分からねえ。」

「え?」

「あの野郎、一度も姿を現しやがらなかった……!いや、というよりは、俺の視界に一度も入らなかったんだよ!」

「マジかよ、そんなん熊に一度も見つからずに攻撃するようなもんだろ」

「確かに」

「皆ブラムのことなんだと思ってんの?一応人間だよ?」

「てめぇが1番貶してんじゃねえか」

 ベークマンが自らツッコミを入れる。

「まあ冗談はさておき……あれ、ベークマン、さっき"あの野郎"って言ってたけど、何で姿が見えなかったのに性別がわかったの?」

「あー、そりゃあ声は聞こえたからだ。」

「声?何か喋ってたの?」

「"怖いねぇ"だの"終わりでさあ"だの、こっちの意識があるのも気づかずにほざいてやがった!ザマあ見やがれ!!」

 ベークマンは口を大きく開け高笑いする。

 あれ、というか……

「なんか変な話し方だなそいつ?」

「ん?あぁ、言われてみりゃそうだな。」

「……私、そいつのこと知ってるかも。」

「なんだと!?どこの誰だ!」

 ベークマンは身を乗り出し、吠えるように叫ぶ。

「ああいや、名前とかは分かんなくて……魔術大会のときに不審者というか、明らかにヤバそうな人と遭遇したんだけど、その人と口調が同じなんだよね。"〇〇でさあ"とか、"あっし"とか。」

「そいつだちげえねえ!!」

 再びベークマンが叫ぶ。

「ただ、たまたまこういう話し方の人って可能性も……」

「いやいや、流石にそんな変な口調の不審者何人も居てたまるかよ」

 アランがツッコむ。まあ確かに江戸っ子口調の人って現代に滅多にいないか……王国語に"江戸っ子"の概念があるはずもないので、王国語から日本語への翻訳の過程でどういうニュアンスを受け取った結果江戸っ子口調になったのかは分からないが。

「で、なんか他に覚えてねえのか!」

 ベークマンは"あの野郎"の情報が欲しくてたまらないらしい。

「えーと、無精髭生えたおじさんってことと、魔力が一切無かったってことと、多分呪法師だってことと、相手の魔法を消せるってことくらいかな」

「呪法師……」

 ベークマンが珍しく考え込む。

「何か心当たりが?」

「いや、そういうんじゃねえ。ただ、言われてみりゃあ"魔力の気配"がしなかったと思ってな。だから不意を突かれたんだ」

「え、魔力に気配なんてあんの?」

 アランが尋ねる。

「ああ?あんだろ、こうモヤモヤ~としたのが。」

「ある……のか?」

 アランは私とルイに疑問を投げかける。私もルイも首を傾げる。

 そういえば、一部の動物は特殊な器官で魔素の流れを魔力視無しで感じ取ってるとかなんとか……

「まあでも、ベークマンの言ってる事自体は正しそうだね。……それにまだ残ってるよ、呪力の痕が。」

 私は呪力視でベークマンの身体を視る。呪力の痕跡は、首周りに1番濃く現れている。首締められたのか……本気でりにきてるな……

「それにしても、ベークマンが気が付かないくらいの魔力だなんて、相当魔力少ないんだね、その人。よく生きてるな……」

 ルイがボソッと呟く。

「あ、いや、魔力が少ないというか、完全にゼロだったよ、あの人。」

 話の流れ的にはスルーしても問題ないだろうが、私は念の為訂正を入れる。

「あ?そりゃ有り得ねえだろ。」

 すると、ベークマンが口を挟む。

「え、だって呪法師だよ?」

「何言ってんだ?呪法師だろうが何だろうが、生きてんだから魔力は持ってんだろうが。それともあの野郎、ゾンビだったのか?」

「え……?」

 ……そうだ。なぜ今まで気が付かなかったのか。この世界・・・・全ての生物・・・・・は、例外なく魔力を有しているのだ。

 にも関わらず、奴は確かに魔力を持たない状態で存在していた。私の魔法を打ち消し、ベークマンを一時瀕死の重体まで追いやったほどの者が幻覚や幽霊の類であるとは考えづらい。であれば可能性はそれしかない。

 しかし、この世界に来た当初から可能性は考えていたが、まさかこのような形で出会おうとは……

「……とにかく、その男についての情報を集めないとね。アラン、それとできればルイ、手伝ってもらえる?」

「おお、もちろんいいぜ!」

「俺もいいよ!」

「よし、じゃあ……」

「おい、俺もだろうが」

 ベークマンが口を挟む。

「いや、君は置いていくよ。」

「はあ!?ふざけんな!あの野郎は俺が」

「じゃあ聞くけど、その状態でどうやって戦うつもり?」

「……はあ!?いけるに決まってんだろ!!」

「じゃあ、さっきなんで自力で拘束解けなかったの?できるはずだよ、本来のベークマンなら。」

「……っ!!」

 ベークマンは歯をギリッと鳴らす。

「少なくとも今の状態じゃ勝てないってことは、自分が1番わかってるでしょ。それに、もし呪いの類をかけられてて、かつ後から症状がでた場合、病院なら対処できるけど外だとまず間に合わない。……とりあえず今は、私達に任せて。」

「……チッ」

 ベークマンは静かに舌打ちを打ち視線を逸らす。返事は無いが、反論もないので理解はしてくれたということだろう。

「じゃあアラン、ルイ、行こうか。」

 私達は病室を後にした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜

ネリムZ
ファンタジー
 唐突にギルドマスターから宣言される言葉。 「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」  理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。  様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。  そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。  モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。  行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。  俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。  そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。  新たな目標、新たな仲間と環境。  信念を持って行動する、一人の男の物語。

僕と精霊 〜魔法と科学と宝石の輝き〜

一般人
ファンタジー
 人類が魔法と科学の力を発見して数万年。それぞれの力を持つ者同士の思想の衝突で起きた長き時に渡る戦争、『発展戦争』。そんな戦争の休戦から早100年。魔法軍の国に住む高校生ジャン・バーンは精霊カーバンクルのパンプと出会いと共に両国の歪みに巻き込まれていく。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

元勇者、魔王の娘を育てる~血の繋がらない父と娘が過ごす日々~

雪野湯
ファンタジー
勇者ジルドランは少年勇者に称号を奪われ、一介の戦士となり辺境へと飛ばされた。 新たな勤務地へ向かう途中、赤子を守り戦う女性と遭遇。 助けに入るのだが、女性は命を落としてしまう。 彼女の死の間際に、彼は赤子を託されて事情を知る。 『魔王は殺され、新たな魔王となった者が魔王の血筋を粛清している』と。 女性が守ろうとしていた赤子は魔王の血筋――魔王の娘。 この赤子に頼れるものはなく、守ってやれるのは元勇者のジルドランのみ。 だから彼は、赤子を守ると決めて娘として迎え入れた。 ジルドランは赤子を守るために、人間と魔族が共存する村があるという噂を頼ってそこへ向かう。 噂は本当であり両種族が共存する村はあったのだが――その村は村でありながら軍事力は一国家並みと異様。 その資金源も目的もわからない。 不審に思いつつも、頼る場所のない彼はこの村の一員となった。 その村で彼は子育てに苦労しながらも、それに楽しさを重ねて毎日を過ごす。 だが、ジルドランは人間。娘は魔族。 血が繋がっていないことは明白。 いずれ真実を娘に伝えなければならない、王族の血を引く魔王の娘であることを。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

150年後の敵国に転生した大将軍

mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。 ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。 彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。 それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。 『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。 他サイトでも公開しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...