乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる

アミ100

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転変

第96話 あの野郎

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「……で、なんであんな暴れてたんだ?」

 あれから数分後。医者の許しを貰い、ひとまず観念したらしいベークマンを鎖から解放し、ベッドの上に座らせた。ただし魔法を使われると怖いので、腕に巻かれていた鎖だけはそのままだ。

「俺をぶっ殺そうとした野郎が気に食わねえんだよ。」

「な……お前、人間1人にやられたのか?馬車3台に轢かれたとか、魔獣化した熊の群れに襲われたとかじゃなくて?」

「ああ、そうだよ。知ってたんじゃねえのか?でなきゃそいつがわざわざ来ねえだろ。」

 ベークマンは私を顎で指す。

「え、ああ、そういうことだったのか?」

 アランが私に訊ねる。

「うん。とはいえ知ってた訳じゃなくて、そう予想してきただけだけどね。私ちょっと今色々首突っ込んでて、そういう人の悪意が介入してそうな事件とか事故に敏感だから……しかもベークマンが瀕死になるような状況なんて、嫌な予感しかしないでしょ?馬車3台に轢かれたとか魔獣化した熊の群れに襲われたとかも考えたんだけど、どっちも偶発的に起こるようなことじゃないし。」

「馬車3台と魔獣化した熊は皆1回考えるんだ……」

 ルイが呆れ気味にツッコミをいれる。

「で、"あの野郎"ってのはどんな奴なんだ?」

 アランが聞き直す。

「……分からねえ。」

「え?」

「あの野郎、一度も姿を現しやがらなかった……!いや、というよりは、俺の視界に一度も入らなかったんだよ!」

「マジかよ、そんなん熊に一度も見つからずに攻撃するようなもんだろ」

「確かに」

「皆ブラムのことなんだと思ってんの?一応人間だよ?」

「てめぇが1番貶してんじゃねえか」

 ベークマンが自らツッコミを入れる。

「まあ冗談はさておき……あれ、ベークマン、さっき"あの野郎"って言ってたけど、何で姿が見えなかったのに性別がわかったの?」

「あー、そりゃあ声は聞こえたからだ。」

「声?何か喋ってたの?」

「"怖いねぇ"だの"終わりでさあ"だの、こっちの意識があるのも気づかずにほざいてやがった!ザマあ見やがれ!!」

 ベークマンは口を大きく開け高笑いする。

 あれ、というか……

「なんか変な話し方だなそいつ?」

「ん?あぁ、言われてみりゃそうだな。」

「……私、そいつのこと知ってるかも。」

「なんだと!?どこの誰だ!」

 ベークマンは身を乗り出し、吠えるように叫ぶ。

「ああいや、名前とかは分かんなくて……魔術大会のときに不審者というか、明らかにヤバそうな人と遭遇したんだけど、その人と口調が同じなんだよね。"〇〇でさあ"とか、"あっし"とか。」

「そいつだちげえねえ!!」

 再びベークマンが叫ぶ。

「ただ、たまたまこういう話し方の人って可能性も……」

「いやいや、流石にそんな変な口調の不審者何人も居てたまるかよ」

 アランがツッコむ。まあ確かに江戸っ子口調の人って現代に滅多にいないか……王国語に"江戸っ子"の概念があるはずもないので、王国語から日本語への翻訳の過程でどういうニュアンスを受け取った結果江戸っ子口調になったのかは分からないが。

「で、なんか他に覚えてねえのか!」

 ベークマンは"あの野郎"の情報が欲しくてたまらないらしい。

「えーと、無精髭生えたおじさんってことと、魔力が一切無かったってことと、多分呪法師だってことと、相手の魔法を消せるってことくらいかな」

「呪法師……」

 ベークマンが珍しく考え込む。

「何か心当たりが?」

「いや、そういうんじゃねえ。ただ、言われてみりゃあ"魔力の気配"がしなかったと思ってな。だから不意を突かれたんだ」

「え、魔力に気配なんてあんの?」

 アランが尋ねる。

「ああ?あんだろ、こうモヤモヤ~としたのが。」

「ある……のか?」

 アランは私とルイに疑問を投げかける。私もルイも首を傾げる。

 そういえば、一部の動物は特殊な器官で魔素の流れを魔力視無しで感じ取ってるとかなんとか……

「まあでも、ベークマンの言ってる事自体は正しそうだね。……それにまだ残ってるよ、呪力の痕が。」

 私は呪力視でベークマンの身体を視る。呪力の痕跡は、首周りに1番濃く現れている。首締められたのか……本気でりにきてるな……

「それにしても、ベークマンが気が付かないくらいの魔力だなんて、相当魔力少ないんだね、その人。よく生きてるな……」

 ルイがボソッと呟く。

「あ、いや、魔力が少ないというか、完全にゼロだったよ、あの人。」

 話の流れ的にはスルーしても問題ないだろうが、私は念の為訂正を入れる。

「あ?そりゃ有り得ねえだろ。」

 すると、ベークマンが口を挟む。

「え、だって呪法師だよ?」

「何言ってんだ?呪法師だろうが何だろうが、生きてんだから魔力は持ってんだろうが。それともあの野郎、ゾンビだったのか?」

「え……?」

 ……そうだ。なぜ今まで気が付かなかったのか。この世界・・・・全ての生物・・・・・は、例外なく魔力を有しているのだ。

 にも関わらず、奴は確かに魔力を持たない状態で存在していた。私の魔法を打ち消し、ベークマンを一時瀕死の重体まで追いやったほどの者が幻覚や幽霊の類であるとは考えづらい。であれば可能性はそれしかない。

 しかし、この世界に来た当初から可能性は考えていたが、まさかこのような形で出会おうとは……

「……とにかく、その男についての情報を集めないとね。アラン、それとできればルイ、手伝ってもらえる?」

「おお、もちろんいいぜ!」

「俺もいいよ!」

「よし、じゃあ……」

「おい、俺もだろうが」

 ベークマンが口を挟む。

「いや、君は置いていくよ。」

「はあ!?ふざけんな!あの野郎は俺が」

「じゃあ聞くけど、その状態でどうやって戦うつもり?」

「……はあ!?いけるに決まってんだろ!!」

「じゃあ、さっきなんで自力で拘束解けなかったの?できるはずだよ、本来のベークマンなら。」

「……っ!!」

 ベークマンは歯をギリッと鳴らす。

「少なくとも今の状態じゃ勝てないってことは、自分が1番わかってるでしょ。それに、もし呪いの類をかけられてて、かつ後から症状がでた場合、病院なら対処できるけど外だとまず間に合わない。……とりあえず今は、私達に任せて。」

「……チッ」

 ベークマンは静かに舌打ちを打ち視線を逸らす。返事は無いが、反論もないので理解はしてくれたということだろう。

「じゃあアラン、ルイ、行こうか。」

 私達は病室を後にした。
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