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新学期
第94話 天才共 Side ラクア
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「……」
カナとジークが演習場で遊んでいる頃、ラクアは休憩室のソファに倒れるように座り込み、無言のまま項垂れていた。
「ラクア様、1つ質問してもよろしいでしょうか?」
ソファの横で気配を消し、しばらく主の様子を伺っていたランドルトが口を開く。
「……なんだ」
「先程はいかがなされたのですか?いえ、なんとなく想像はついているのですが、お恥ずかしながら私は魔力視が使えませんので。」
「……」
「より具体的に言えば、"いくつ"だったのですか?」
「……400だ。おおよそだがな。」
「それは……想像以上ですね。」
「ああ。国内であれを越える者は片手で数えるほどしかいない。」
「平民出身であることと相まって、その特異性を顕著に感じますね。身分差別の意図はありませんが、事実として本来貴族のほうが魔力量は多いはずですから。」
基本的に魔力量は遺伝の影響を大きく受ける。貴族の祖は、主に魔力によって権力を得た者たちであるため、その血を引いた今の貴族たちも自然と魔力量は高い傾向にある。
しかし、極まれに突然変異的に平民から膨大な魔力を持って生まれる者もいる。
「さながら、大賢者エドガスの再誕ですね。いえまあ、ラウエンシュタイン伯はまだまだお元気そうですが。」
「……いや、あれは大賢者ともまた別だ。大賢者エドガスは神の啓示の時点で既に突出した魔力量を有していたと聞く。だが奴は啓示よりもあとに、鍛錬で意図的に、この短期間で魔力をあそこまで増やした。あれは特別……いや、"異質"だ。それに、異質なのは魔力量だけではない。」
「魔法の操作技術……いえ、それ以上に魔法の捉え方ですね。」
ランドルトが少し下にズレた自身の眼鏡を人差し指で直す。
「奴が得意としている"水魔法の固体化"……そもそも奴から聞いた"あらゆる物は極小の粒子の集合体だ"という話、他では全く聞き覚えがない。実際学者に尋ねても、首を傾げるか否定する者ばかりだった。」
ラクアはテーブルに置いてある花瓶内の水を操作し、ペン回しをするかのようにクルクルと円を描いた。
「ええ、そのことはとても奇妙ですし、何か複雑な事情が絡んでいるように思えます……しかし、それ以前に理解が及ばないのは、目に見えない粒子を並べて固定するという"イメージ"が正確にできている、ということです。実際、我々は話を聞いて意識した上でも再現できていませんから。」
ランドルトはラクアが操っていた花瓶の水を魔法を使って受け取り、約1cm径の水の球体を沢山作り、空中で並べてみせる。
「……俺はそもそもあの説明自体合点がいっていない。だがお前は違うだろう。ある程度納得できるなら、イメージもできるはずだ。」
ラクアはランドルトの方へ顔を向ける。
「いえ、いえ……理解できるできないはそこまで重要ではないのです。それよりも注目すべき点は、カナ様は"理解しただけでイメージができ、魔法で実現できる"という点です。彼女も、その極小の粒子が集まっている様子が見えている訳ではないはずです。なのに、見えない粒子をあるものとして認識して操作できています。」
ランドルトは水を花瓶の中へ戻す。
「……」
「あれは知識の蓄積だけでは到底実現不可能です。あの方の天才性はむしろ、その知識の使い方にあります。彼女の学院での成績や成果なども、その才能の副産物に過ぎません。」
「……全く、俺の同期生共は揃いも揃ってどうなっている。」
少し心が落ち着いてきたラクアは、ランドルトが予め淹れておいた紅茶を口に運ぶ。
「本当ですね。気に食わないですか?」
「まさか。元より、わざわざ魔法学園や貴宝学園を避けて魔術学院に入ったのは、ああいう変人を探すためだ。」
ラクアは紅茶カップを片手にニヤリと笑う。
「ふふ、そうでしたね。貴方様の学院生活が充実していて、私としても嬉しい限りですよ。良かったですね。」
「…………」
”お前も生徒なのに保護者みたいなこと言うな"という従者へのツッコミを、紅茶と共に飲み込んだラクアであった。
カナとジークが演習場で遊んでいる頃、ラクアは休憩室のソファに倒れるように座り込み、無言のまま項垂れていた。
「ラクア様、1つ質問してもよろしいでしょうか?」
ソファの横で気配を消し、しばらく主の様子を伺っていたランドルトが口を開く。
「……なんだ」
「先程はいかがなされたのですか?いえ、なんとなく想像はついているのですが、お恥ずかしながら私は魔力視が使えませんので。」
「……」
「より具体的に言えば、"いくつ"だったのですか?」
「……400だ。おおよそだがな。」
「それは……想像以上ですね。」
「ああ。国内であれを越える者は片手で数えるほどしかいない。」
「平民出身であることと相まって、その特異性を顕著に感じますね。身分差別の意図はありませんが、事実として本来貴族のほうが魔力量は多いはずですから。」
基本的に魔力量は遺伝の影響を大きく受ける。貴族の祖は、主に魔力によって権力を得た者たちであるため、その血を引いた今の貴族たちも自然と魔力量は高い傾向にある。
しかし、極まれに突然変異的に平民から膨大な魔力を持って生まれる者もいる。
「さながら、大賢者エドガスの再誕ですね。いえまあ、ラウエンシュタイン伯はまだまだお元気そうですが。」
「……いや、あれは大賢者ともまた別だ。大賢者エドガスは神の啓示の時点で既に突出した魔力量を有していたと聞く。だが奴は啓示よりもあとに、鍛錬で意図的に、この短期間で魔力をあそこまで増やした。あれは特別……いや、"異質"だ。それに、異質なのは魔力量だけではない。」
「魔法の操作技術……いえ、それ以上に魔法の捉え方ですね。」
ランドルトが少し下にズレた自身の眼鏡を人差し指で直す。
「奴が得意としている"水魔法の固体化"……そもそも奴から聞いた"あらゆる物は極小の粒子の集合体だ"という話、他では全く聞き覚えがない。実際学者に尋ねても、首を傾げるか否定する者ばかりだった。」
ラクアはテーブルに置いてある花瓶内の水を操作し、ペン回しをするかのようにクルクルと円を描いた。
「ええ、そのことはとても奇妙ですし、何か複雑な事情が絡んでいるように思えます……しかし、それ以前に理解が及ばないのは、目に見えない粒子を並べて固定するという"イメージ"が正確にできている、ということです。実際、我々は話を聞いて意識した上でも再現できていませんから。」
ランドルトはラクアが操っていた花瓶の水を魔法を使って受け取り、約1cm径の水の球体を沢山作り、空中で並べてみせる。
「……俺はそもそもあの説明自体合点がいっていない。だがお前は違うだろう。ある程度納得できるなら、イメージもできるはずだ。」
ラクアはランドルトの方へ顔を向ける。
「いえ、いえ……理解できるできないはそこまで重要ではないのです。それよりも注目すべき点は、カナ様は"理解しただけでイメージができ、魔法で実現できる"という点です。彼女も、その極小の粒子が集まっている様子が見えている訳ではないはずです。なのに、見えない粒子をあるものとして認識して操作できています。」
ランドルトは水を花瓶の中へ戻す。
「……」
「あれは知識の蓄積だけでは到底実現不可能です。あの方の天才性はむしろ、その知識の使い方にあります。彼女の学院での成績や成果なども、その才能の副産物に過ぎません。」
「……全く、俺の同期生共は揃いも揃ってどうなっている。」
少し心が落ち着いてきたラクアは、ランドルトが予め淹れておいた紅茶を口に運ぶ。
「本当ですね。気に食わないですか?」
「まさか。元より、わざわざ魔法学園や貴宝学園を避けて魔術学院に入ったのは、ああいう変人を探すためだ。」
ラクアは紅茶カップを片手にニヤリと笑う。
「ふふ、そうでしたね。貴方様の学院生活が充実していて、私としても嬉しい限りですよ。良かったですね。」
「…………」
”お前も生徒なのに保護者みたいなこと言うな"という従者へのツッコミを、紅茶と共に飲み込んだラクアであった。
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