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新学期
第93話 各々の成長④
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「うーん……魔力が増えること自体はいいことだけどさ……やっぱりカナには無理してほしくないよ……」
「大丈夫、最初以外は無理してないよ。」
「そうだけどそうじゃなくて!」
ジークは私の両肩を掴み、ブンブン揺らす。ちょっと頭の中身がユラユラする。
「あーーもう分かんなくなってきた!こういうときは……そうだ、空中散歩しよう、空中散歩!」
「え、どういう流れ??」
「いいからいいから!カナって高いところ大丈夫??」
「え、うん平気だけど……」
「わかった!よっと」
いまいち話が飲み込めない中、ジークが私を軽々と持ち上げる。魔術大会のときと同じくお姫様抱っこだ。
「よーしじゃあいくぞ!」
ビュン!!!
「!!」
私が返事をする間もなく、ジークは私を抱えたまま風魔法で空高く飛び上がった。
高さは魔術大会のときの限界だった3,4mを優に超え、学院の中央にある時計台と同じくらいの高さまで到達した。
変わったのは高度だけではない。安定感が段違いだ。大会のときは下から吹き上げる風にうまく乗る感じだったが、今は何もしなくても勝手に浮いている。まあ今の私はジークに抱えられているので、どのみち何もする必要はないのだが。
「どう、この景色!」
「わあ……」
眼下には、いつも生活している魔術学院の広大な土地が広がっていた。教室棟に部室棟、寮にコロシアム……日常的に使っているそれらだが、こうして俯瞰して見る機会は今までなかったのでとても新鮮な気分だ。というか、改めて見るとこの学校めちゃくちゃ広いな……下手な大学のキャンパスより広そうだ。
「僕ね、時々こうやって気分転換してるんだ!」
「へえ……あれ、もしかしてそれってここ2,3週間の話?夜もやってる?」
「え、なんで知ってるの?」
最近生徒間で話題に挙がっている、"夜の学院上空を漂う男子生徒の霊"の噂……いや、きっと気のせいだろう。そうに違いない。
「あーまあ、なんとなく……」
「……?」
ビューー!!
「わっ」
そのとき、風が突発的に強く吹いた。私はジークの袖を反射的に掴む。
「ふふ、大丈夫だよ、絶対落とさないからね!」
「う、うん」
私はあのときのことを少し思い出してしまった。しかしここは橋の上ではないし、ジークが落とさないというのなら、そうなのだろう。
「ね、大丈夫そうだったら自分で立ってみる?」
「うん、やってみようかな」
「わかった!」
私が承諾すると、ジークは私の足の方からそっと手を離し、私は肩だけ支えられた状態になる。
自分で空中に立ってみた感想としては、無重力というよりは空中にある地面に立っている感覚だった。だが、全体に体は軽い。
「やっぱり、魔術大会のときとは全然安定感が違うね。」
「ふふん、そうでしょ!」
ジークがわかりやすくドヤ顔をする。
「ほら、カナが前に色々教えてくれたでしょ?そこからちょっと考え方を変えてみたんだ!」
大会から少し経った頃、ジークに"水は小さな粒の集合体って言ってたけど、風は何でできてるの?"と質問され、私が分かる範囲で答えたのだ。
そもそも水と風というのはカテゴリーが違う。水は物質の名前だが、風はあくまで現象の名前である。
だから風という現象を理解するためには、まず空気という物質に関して理解する必要がある。
と言っておいてなんだが、”空気という物質"という表現には少々違和感がある。空気というのは地上を満たしている窒素や酸素などの複数の混合気体をまとめて指した名称だからである。
いずれにせよ、空気というのは気体であり、風はこの空気の移動によって起こる現象だ。
自然現象としての風は、風上と風下の2点間の気温差によって起こる。空気は温度によって膨張や収縮し圧力、つまり気圧が変化する。温度が高いと膨張し気圧が下がり、低いと収縮して気圧は上がる。
空気は、この気圧の差を│均《なら》すために気圧の高い方から低い方へ移動する。この空気の移動が風の正体である。
ジークには、ここまでの話に加え、1つ新たな視点を挙げた。
それは、"風魔法で操っているのは、風というより空気なのではないか"ということだ。
もっと色々私の方から意見を言おうか迷ったが、ここまで聞いたジークは"分かったやってみる!"と言って何やら納得していたようなので、それ以降は特に口出ししていなかった。
「具体的にどこを変えたの?」
私はジークに尋ねる。
「えっとね、前は"風を起こす"ってイメージだったんだけど、"空気を作って移動させたり、逆に止めたりする"ってイメージに変えてみたんだ~だから今は、僕達の周りの空気を固定してるってイメージ!あ、もちろん移動もできるよ!」
そう言うと、ジークは自身と私をゆっくり滑らかに平行移動させる。
「なるほど、じゃあこれって浮いてるというより、空気のクッションの上に乗ってるイメージってことか」
「そういうこと!」
水も空気も分子で構成されていることには変わりない。その違いは、あくまで魔法操作に関わる要素のみ考えれば、分子の種類と密度だけである。
つまりジークは私が行っていた水分子の相対位置の固定、"固体化"と呼んでいた手法を空気で行っていることになる。
今はまだ完全な固定はできておらずこの浮遊魔法にも揺れがあるが、もっと練習するか魔力量が増えるかすればもっと応用も効くだろう。
しかし、ジークは”イメージを変えた"と言っていたが、人間には固定概念というものがある。それを私が少し説明しただけですぐさま修正して新たなイメージを形成できるとは……さすがの天才ぶりである。
「じゃあ、もうちょっと遊んだら降りよっか!」
「うん」
その後、私達は優雅に空中浮遊を楽しんだ。
……その後数日間、学院内で"2つの人型の未確認飛行物体"の噂が流れたが、それはまた別の話。
「大丈夫、最初以外は無理してないよ。」
「そうだけどそうじゃなくて!」
ジークは私の両肩を掴み、ブンブン揺らす。ちょっと頭の中身がユラユラする。
「あーーもう分かんなくなってきた!こういうときは……そうだ、空中散歩しよう、空中散歩!」
「え、どういう流れ??」
「いいからいいから!カナって高いところ大丈夫??」
「え、うん平気だけど……」
「わかった!よっと」
いまいち話が飲み込めない中、ジークが私を軽々と持ち上げる。魔術大会のときと同じくお姫様抱っこだ。
「よーしじゃあいくぞ!」
ビュン!!!
「!!」
私が返事をする間もなく、ジークは私を抱えたまま風魔法で空高く飛び上がった。
高さは魔術大会のときの限界だった3,4mを優に超え、学院の中央にある時計台と同じくらいの高さまで到達した。
変わったのは高度だけではない。安定感が段違いだ。大会のときは下から吹き上げる風にうまく乗る感じだったが、今は何もしなくても勝手に浮いている。まあ今の私はジークに抱えられているので、どのみち何もする必要はないのだが。
「どう、この景色!」
「わあ……」
眼下には、いつも生活している魔術学院の広大な土地が広がっていた。教室棟に部室棟、寮にコロシアム……日常的に使っているそれらだが、こうして俯瞰して見る機会は今までなかったのでとても新鮮な気分だ。というか、改めて見るとこの学校めちゃくちゃ広いな……下手な大学のキャンパスより広そうだ。
「僕ね、時々こうやって気分転換してるんだ!」
「へえ……あれ、もしかしてそれってここ2,3週間の話?夜もやってる?」
「え、なんで知ってるの?」
最近生徒間で話題に挙がっている、"夜の学院上空を漂う男子生徒の霊"の噂……いや、きっと気のせいだろう。そうに違いない。
「あーまあ、なんとなく……」
「……?」
ビューー!!
「わっ」
そのとき、風が突発的に強く吹いた。私はジークの袖を反射的に掴む。
「ふふ、大丈夫だよ、絶対落とさないからね!」
「う、うん」
私はあのときのことを少し思い出してしまった。しかしここは橋の上ではないし、ジークが落とさないというのなら、そうなのだろう。
「ね、大丈夫そうだったら自分で立ってみる?」
「うん、やってみようかな」
「わかった!」
私が承諾すると、ジークは私の足の方からそっと手を離し、私は肩だけ支えられた状態になる。
自分で空中に立ってみた感想としては、無重力というよりは空中にある地面に立っている感覚だった。だが、全体に体は軽い。
「やっぱり、魔術大会のときとは全然安定感が違うね。」
「ふふん、そうでしょ!」
ジークがわかりやすくドヤ顔をする。
「ほら、カナが前に色々教えてくれたでしょ?そこからちょっと考え方を変えてみたんだ!」
大会から少し経った頃、ジークに"水は小さな粒の集合体って言ってたけど、風は何でできてるの?"と質問され、私が分かる範囲で答えたのだ。
そもそも水と風というのはカテゴリーが違う。水は物質の名前だが、風はあくまで現象の名前である。
だから風という現象を理解するためには、まず空気という物質に関して理解する必要がある。
と言っておいてなんだが、”空気という物質"という表現には少々違和感がある。空気というのは地上を満たしている窒素や酸素などの複数の混合気体をまとめて指した名称だからである。
いずれにせよ、空気というのは気体であり、風はこの空気の移動によって起こる現象だ。
自然現象としての風は、風上と風下の2点間の気温差によって起こる。空気は温度によって膨張や収縮し圧力、つまり気圧が変化する。温度が高いと膨張し気圧が下がり、低いと収縮して気圧は上がる。
空気は、この気圧の差を│均《なら》すために気圧の高い方から低い方へ移動する。この空気の移動が風の正体である。
ジークには、ここまでの話に加え、1つ新たな視点を挙げた。
それは、"風魔法で操っているのは、風というより空気なのではないか"ということだ。
もっと色々私の方から意見を言おうか迷ったが、ここまで聞いたジークは"分かったやってみる!"と言って何やら納得していたようなので、それ以降は特に口出ししていなかった。
「具体的にどこを変えたの?」
私はジークに尋ねる。
「えっとね、前は"風を起こす"ってイメージだったんだけど、"空気を作って移動させたり、逆に止めたりする"ってイメージに変えてみたんだ~だから今は、僕達の周りの空気を固定してるってイメージ!あ、もちろん移動もできるよ!」
そう言うと、ジークは自身と私をゆっくり滑らかに平行移動させる。
「なるほど、じゃあこれって浮いてるというより、空気のクッションの上に乗ってるイメージってことか」
「そういうこと!」
水も空気も分子で構成されていることには変わりない。その違いは、あくまで魔法操作に関わる要素のみ考えれば、分子の種類と密度だけである。
つまりジークは私が行っていた水分子の相対位置の固定、"固体化"と呼んでいた手法を空気で行っていることになる。
今はまだ完全な固定はできておらずこの浮遊魔法にも揺れがあるが、もっと練習するか魔力量が増えるかすればもっと応用も効くだろう。
しかし、ジークは”イメージを変えた"と言っていたが、人間には固定概念というものがある。それを私が少し説明しただけですぐさま修正して新たなイメージを形成できるとは……さすがの天才ぶりである。
「じゃあ、もうちょっと遊んだら降りよっか!」
「うん」
その後、私達は優雅に空中浮遊を楽しんだ。
……その後数日間、学院内で"2つの人型の未確認飛行物体"の噂が流れたが、それはまた別の話。
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