89 / 115
新学期
第89話 決意
しおりを挟む
週明け。剣術指南会は無事終了し、マリーからシャーロットについての情報をいろいろと教えてもらうことが出来た。それでやっとわかったのだが、マリーの"ラクア殿下達と仲良くしておいて"という指示は、シャーロットの嫉妬を引き出し、ボロを出させるためだったようだ。
しかし結果として、シャーロットはボロを出すどころか、想像以上に謙虚な人物であることがわかった。そして、マリーの主観的判断によれば、嘘やごまかしはしていないとみて間違いないらしい。
また、シャーロットの話によれば、私とラクアをお茶会に招待したのは彼女ではなく、ソルード侯爵だったようだ。これはソルード侯爵から聞いていた話と矛盾する。
これらから総合するに、シャーロット自身は白であり、シャーロットが私とラクアに会いたがっていたことをソルード侯爵に利用されたものと考えられる。
全く、年端もいかない娘を己の利益、ましてや犯罪に利用しようとは、ソルード侯爵はとんでもない人間だ。
これらの話はラクアにも伝えたところ、ラクア自身が調査した結果も加味して、いよいよソルード侯爵逮捕へ向け本格的に動くようだった。そんなわけで、お茶会での事件はひとまず一件落着だろう。
しかし、未だに解決すべき問題は多い。
1番は、実行犯が持っていた魔法銃から見つかった、モロク教団の紋章である。
調べて分かったのだが、モロク教団が元々拠点としていた小国トートは、現在の共和国の位置にあったらしい。これと魔法銃と一緒に押収した呪法具が共和国から持ってこられたものである可能性が高いことが偶然であるとは考えづらい。となれば、モロク教団の魔法銃がソルード侯爵の手に渡ったのは偶然ではなく、教団から支給されたものであると考えるべきだろう。
これより、お茶会の一件はモロク教団の意思により起こったものと言える。
であれば、モロク教団の目的は何か?
1つ可能性としてあるのは、以前エドガス様との話合いでも出た通り、ラクアか私の暗殺である。しかし、それだけが目的にしては違和感も多い。
まず第一に、暗殺が目的ならあんなに白昼堂々と、ましてや自分の屋敷で実行させるかという問題である。
そして次に、何故あんなに様々な武器を持たせたのかということである。暗殺が目的なら呪法具があれば良いし、実行犯の持つ武器が1つ2つならたまたま拾った可能性なども考えられるが、3つも持っていたら黒幕の存在を疑われることは想像に難くないはずだ。
であれば、考えられることとして、"わざと黒幕の存在をちらつかせた"可能性が浮上する。
エドガス様によれば、呪法具の入手ルートは途中まで、共和国の検問を通ったらしいところまでしか分からなかった。だが、そこまでは案外すんなり調査できたと言う。
では、そこまではすんなり調査できたのは偶然なのか?
紋章を今までエドガス様が気が付かないくらい慎重に隠していた組織が、入手ルートを秘匿しなかったとは考えづらい。
つまり、これらを総合すると、"モロク教団は自らの存在は隠しつつも黒幕の存在自体はチラつかせ、その黒幕が共和国であると思わせようとした"と考えられる。
共和国が黒幕であり、その目的がラクア王子殿下の暗殺であったと王国が判断すれば、その行き着く先は……
国家間の戦争だ。
共和国と王国がぶつかれば、勝つのはまず間違いなく王国だ。王国は産業・技術面に比べ軍事は一歩遅れているが、それでも国の規模自体が共和国より圧倒的に大きいため、必然的に軍事力も強い。その上、いざとなれば帝国も王国に手を貸すはずだ。
それはモロク教団も分かっているだろう。であれば、目的は共和国の滅亡か、あるいは他の何かか。
いずれにせよ、やることは明確だ。
1つは、敵は共和国ではなくモロク教団の残党であると調査に協力している面々に周知すること。
そしてもう1つは、モロク教団の尻尾を掴み引きずり出すこと。
まずは、このことをラクアとロバン騎士団長に伝えるのが先決だろう。なんなら、彼らにあとのことは全て任せても良いくらいだ。私はちょっと魔力が多いだけの、しがない一般市民に過ぎないのだから。
……しかし、私は1つ確信に近い疑念を抱えている。
それは、モロク教団が、「Amour Tale」のゲーム画面で言及があった、"ジークを殺した裏組織"そのものではないか、ということだ。
もしゲーム通りにいけば、ジーク殺しは1ヶ月以内に起こる。そんなタイミングで、"宗教団体の過激派の残党"が出てきたのだ。これが偶然であるとは到底思えない。
それに、ジークと同じ魔術学院の生徒であるラクアが狙われたのはほぼ確実だ。王族だからというのはもちろん大きいだろうが、他の魔術学院の生徒だって国にとって重要な人物の子供ばかりだ。狙われたっておかしくない。
であれば、私個人としても、モロク教団を放置する訳にはいかない。
ジークはこの世界に来て3人目に話した人物で、この世界で初めてできた友達だ。
それに、魔術学院ではクラスメイトになり、魔術大会でも、それ以降もずっと一緒に過ごしてきた大事な仲間だ。そんな彼を死なせる訳にはいかない。
……これは私のわがままだ。正義でもなんでもない。
だって、この世界を巨視的に見れば、たかが1人の生き死になど微々たる違いに過ぎないのだから。ただ、ゲームのシナリオを私の都合で曲げようとしているだけだ。
だとしても、この意志を曲げるつもりは無い。この世界に来たときに、自分の思うように生きようと決めたのだ。
だから、私はジークを全力で助ける。
……たとえそれが、"ヒロイン"にとっての悲劇であろうとも。
しかし結果として、シャーロットはボロを出すどころか、想像以上に謙虚な人物であることがわかった。そして、マリーの主観的判断によれば、嘘やごまかしはしていないとみて間違いないらしい。
また、シャーロットの話によれば、私とラクアをお茶会に招待したのは彼女ではなく、ソルード侯爵だったようだ。これはソルード侯爵から聞いていた話と矛盾する。
これらから総合するに、シャーロット自身は白であり、シャーロットが私とラクアに会いたがっていたことをソルード侯爵に利用されたものと考えられる。
全く、年端もいかない娘を己の利益、ましてや犯罪に利用しようとは、ソルード侯爵はとんでもない人間だ。
これらの話はラクアにも伝えたところ、ラクア自身が調査した結果も加味して、いよいよソルード侯爵逮捕へ向け本格的に動くようだった。そんなわけで、お茶会での事件はひとまず一件落着だろう。
しかし、未だに解決すべき問題は多い。
1番は、実行犯が持っていた魔法銃から見つかった、モロク教団の紋章である。
調べて分かったのだが、モロク教団が元々拠点としていた小国トートは、現在の共和国の位置にあったらしい。これと魔法銃と一緒に押収した呪法具が共和国から持ってこられたものである可能性が高いことが偶然であるとは考えづらい。となれば、モロク教団の魔法銃がソルード侯爵の手に渡ったのは偶然ではなく、教団から支給されたものであると考えるべきだろう。
これより、お茶会の一件はモロク教団の意思により起こったものと言える。
であれば、モロク教団の目的は何か?
1つ可能性としてあるのは、以前エドガス様との話合いでも出た通り、ラクアか私の暗殺である。しかし、それだけが目的にしては違和感も多い。
まず第一に、暗殺が目的ならあんなに白昼堂々と、ましてや自分の屋敷で実行させるかという問題である。
そして次に、何故あんなに様々な武器を持たせたのかということである。暗殺が目的なら呪法具があれば良いし、実行犯の持つ武器が1つ2つならたまたま拾った可能性なども考えられるが、3つも持っていたら黒幕の存在を疑われることは想像に難くないはずだ。
であれば、考えられることとして、"わざと黒幕の存在をちらつかせた"可能性が浮上する。
エドガス様によれば、呪法具の入手ルートは途中まで、共和国の検問を通ったらしいところまでしか分からなかった。だが、そこまでは案外すんなり調査できたと言う。
では、そこまではすんなり調査できたのは偶然なのか?
紋章を今までエドガス様が気が付かないくらい慎重に隠していた組織が、入手ルートを秘匿しなかったとは考えづらい。
つまり、これらを総合すると、"モロク教団は自らの存在は隠しつつも黒幕の存在自体はチラつかせ、その黒幕が共和国であると思わせようとした"と考えられる。
共和国が黒幕であり、その目的がラクア王子殿下の暗殺であったと王国が判断すれば、その行き着く先は……
国家間の戦争だ。
共和国と王国がぶつかれば、勝つのはまず間違いなく王国だ。王国は産業・技術面に比べ軍事は一歩遅れているが、それでも国の規模自体が共和国より圧倒的に大きいため、必然的に軍事力も強い。その上、いざとなれば帝国も王国に手を貸すはずだ。
それはモロク教団も分かっているだろう。であれば、目的は共和国の滅亡か、あるいは他の何かか。
いずれにせよ、やることは明確だ。
1つは、敵は共和国ではなくモロク教団の残党であると調査に協力している面々に周知すること。
そしてもう1つは、モロク教団の尻尾を掴み引きずり出すこと。
まずは、このことをラクアとロバン騎士団長に伝えるのが先決だろう。なんなら、彼らにあとのことは全て任せても良いくらいだ。私はちょっと魔力が多いだけの、しがない一般市民に過ぎないのだから。
……しかし、私は1つ確信に近い疑念を抱えている。
それは、モロク教団が、「Amour Tale」のゲーム画面で言及があった、"ジークを殺した裏組織"そのものではないか、ということだ。
もしゲーム通りにいけば、ジーク殺しは1ヶ月以内に起こる。そんなタイミングで、"宗教団体の過激派の残党"が出てきたのだ。これが偶然であるとは到底思えない。
それに、ジークと同じ魔術学院の生徒であるラクアが狙われたのはほぼ確実だ。王族だからというのはもちろん大きいだろうが、他の魔術学院の生徒だって国にとって重要な人物の子供ばかりだ。狙われたっておかしくない。
であれば、私個人としても、モロク教団を放置する訳にはいかない。
ジークはこの世界に来て3人目に話した人物で、この世界で初めてできた友達だ。
それに、魔術学院ではクラスメイトになり、魔術大会でも、それ以降もずっと一緒に過ごしてきた大事な仲間だ。そんな彼を死なせる訳にはいかない。
……これは私のわがままだ。正義でもなんでもない。
だって、この世界を巨視的に見れば、たかが1人の生き死になど微々たる違いに過ぎないのだから。ただ、ゲームのシナリオを私の都合で曲げようとしているだけだ。
だとしても、この意志を曲げるつもりは無い。この世界に来たときに、自分の思うように生きようと決めたのだ。
だから、私はジークを全力で助ける。
……たとえそれが、"ヒロイン"にとっての悲劇であろうとも。
52
お気に入りに追加
692
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜
ネリムZ
ファンタジー
唐突にギルドマスターから宣言される言葉。
「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」
理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。
様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。
そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。
モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。
行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。
俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。
そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。
新たな目標、新たな仲間と環境。
信念を持って行動する、一人の男の物語。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!

僕と精霊 〜魔法と科学と宝石の輝き〜
一般人
ファンタジー
人類が魔法と科学の力を発見して数万年。それぞれの力を持つ者同士の思想の衝突で起きた長き時に渡る戦争、『発展戦争』。そんな戦争の休戦から早100年。魔法軍の国に住む高校生ジャン・バーンは精霊カーバンクルのパンプと出会いと共に両国の歪みに巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる