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新学期
第89話 決意
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週明け。剣術指南会は無事終了し、マリーからシャーロットについての情報をいろいろと教えてもらうことが出来た。それでやっとわかったのだが、マリーの"ラクア殿下達と仲良くしておいて"という指示は、シャーロットの嫉妬を引き出し、ボロを出させるためだったようだ。
しかし結果として、シャーロットはボロを出すどころか、想像以上に謙虚な人物であることがわかった。そして、マリーの主観的判断によれば、嘘やごまかしはしていないとみて間違いないらしい。
また、シャーロットの話によれば、私とラクアをお茶会に招待したのは彼女ではなく、ソルード侯爵だったようだ。これはソルード侯爵から聞いていた話と矛盾する。
これらから総合するに、シャーロット自身は白であり、シャーロットが私とラクアに会いたがっていたことをソルード侯爵に利用されたものと考えられる。
全く、年端もいかない娘を己の利益、ましてや犯罪に利用しようとは、ソルード侯爵はとんでもない人間だ。
これらの話はラクアにも伝えたところ、ラクア自身が調査した結果も加味して、いよいよソルード侯爵逮捕へ向け本格的に動くようだった。そんなわけで、お茶会での事件はひとまず一件落着だろう。
しかし、未だに解決すべき問題は多い。
1番は、実行犯が持っていた魔法銃から見つかった、モロク教団の紋章である。
調べて分かったのだが、モロク教団が元々拠点としていた小国トートは、現在の共和国の位置にあったらしい。これと魔法銃と一緒に押収した呪法具が共和国から持ってこられたものである可能性が高いことが偶然であるとは考えづらい。となれば、モロク教団の魔法銃がソルード侯爵の手に渡ったのは偶然ではなく、教団から支給されたものであると考えるべきだろう。
これより、お茶会の一件はモロク教団の意思により起こったものと言える。
であれば、モロク教団の目的は何か?
1つ可能性としてあるのは、以前エドガス様との話合いでも出た通り、ラクアか私の暗殺である。しかし、それだけが目的にしては違和感も多い。
まず第一に、暗殺が目的ならあんなに白昼堂々と、ましてや自分の屋敷で実行させるかという問題である。
そして次に、何故あんなに様々な武器を持たせたのかということである。暗殺が目的なら呪法具があれば良いし、実行犯の持つ武器が1つ2つならたまたま拾った可能性なども考えられるが、3つも持っていたら黒幕の存在を疑われることは想像に難くないはずだ。
であれば、考えられることとして、"わざと黒幕の存在をちらつかせた"可能性が浮上する。
エドガス様によれば、呪法具の入手ルートは途中まで、共和国の検問を通ったらしいところまでしか分からなかった。だが、そこまでは案外すんなり調査できたと言う。
では、そこまではすんなり調査できたのは偶然なのか?
紋章を今までエドガス様が気が付かないくらい慎重に隠していた組織が、入手ルートを秘匿しなかったとは考えづらい。
つまり、これらを総合すると、"モロク教団は自らの存在は隠しつつも黒幕の存在自体はチラつかせ、その黒幕が共和国であると思わせようとした"と考えられる。
共和国が黒幕であり、その目的がラクア王子殿下の暗殺であったと王国が判断すれば、その行き着く先は……
国家間の戦争だ。
共和国と王国がぶつかれば、勝つのはまず間違いなく王国だ。王国は産業・技術面に比べ軍事は一歩遅れているが、それでも国の規模自体が共和国より圧倒的に大きいため、必然的に軍事力も強い。その上、いざとなれば帝国も王国に手を貸すはずだ。
それはモロク教団も分かっているだろう。であれば、目的は共和国の滅亡か、あるいは他の何かか。
いずれにせよ、やることは明確だ。
1つは、敵は共和国ではなくモロク教団の残党であると調査に協力している面々に周知すること。
そしてもう1つは、モロク教団の尻尾を掴み引きずり出すこと。
まずは、このことをラクアとロバン騎士団長に伝えるのが先決だろう。なんなら、彼らにあとのことは全て任せても良いくらいだ。私はちょっと魔力が多いだけの、しがない一般市民に過ぎないのだから。
……しかし、私は1つ確信に近い疑念を抱えている。
それは、モロク教団が、「Amour Tale」のゲーム画面で言及があった、"ジークを殺した裏組織"そのものではないか、ということだ。
もしゲーム通りにいけば、ジーク殺しは1ヶ月以内に起こる。そんなタイミングで、"宗教団体の過激派の残党"が出てきたのだ。これが偶然であるとは到底思えない。
それに、ジークと同じ魔術学院の生徒であるラクアが狙われたのはほぼ確実だ。王族だからというのはもちろん大きいだろうが、他の魔術学院の生徒だって国にとって重要な人物の子供ばかりだ。狙われたっておかしくない。
であれば、私個人としても、モロク教団を放置する訳にはいかない。
ジークはこの世界に来て3人目に話した人物で、この世界で初めてできた友達だ。
それに、魔術学院ではクラスメイトになり、魔術大会でも、それ以降もずっと一緒に過ごしてきた大事な仲間だ。そんな彼を死なせる訳にはいかない。
……これは私のわがままだ。正義でもなんでもない。
だって、この世界を巨視的に見れば、たかが1人の生き死になど微々たる違いに過ぎないのだから。ただ、ゲームのシナリオを私の都合で曲げようとしているだけだ。
だとしても、この意志を曲げるつもりは無い。この世界に来たときに、自分の思うように生きようと決めたのだ。
だから、私はジークを全力で助ける。
……たとえそれが、"ヒロイン"にとっての悲劇であろうとも。
しかし結果として、シャーロットはボロを出すどころか、想像以上に謙虚な人物であることがわかった。そして、マリーの主観的判断によれば、嘘やごまかしはしていないとみて間違いないらしい。
また、シャーロットの話によれば、私とラクアをお茶会に招待したのは彼女ではなく、ソルード侯爵だったようだ。これはソルード侯爵から聞いていた話と矛盾する。
これらから総合するに、シャーロット自身は白であり、シャーロットが私とラクアに会いたがっていたことをソルード侯爵に利用されたものと考えられる。
全く、年端もいかない娘を己の利益、ましてや犯罪に利用しようとは、ソルード侯爵はとんでもない人間だ。
これらの話はラクアにも伝えたところ、ラクア自身が調査した結果も加味して、いよいよソルード侯爵逮捕へ向け本格的に動くようだった。そんなわけで、お茶会での事件はひとまず一件落着だろう。
しかし、未だに解決すべき問題は多い。
1番は、実行犯が持っていた魔法銃から見つかった、モロク教団の紋章である。
調べて分かったのだが、モロク教団が元々拠点としていた小国トートは、現在の共和国の位置にあったらしい。これと魔法銃と一緒に押収した呪法具が共和国から持ってこられたものである可能性が高いことが偶然であるとは考えづらい。となれば、モロク教団の魔法銃がソルード侯爵の手に渡ったのは偶然ではなく、教団から支給されたものであると考えるべきだろう。
これより、お茶会の一件はモロク教団の意思により起こったものと言える。
であれば、モロク教団の目的は何か?
1つ可能性としてあるのは、以前エドガス様との話合いでも出た通り、ラクアか私の暗殺である。しかし、それだけが目的にしては違和感も多い。
まず第一に、暗殺が目的ならあんなに白昼堂々と、ましてや自分の屋敷で実行させるかという問題である。
そして次に、何故あんなに様々な武器を持たせたのかということである。暗殺が目的なら呪法具があれば良いし、実行犯の持つ武器が1つ2つならたまたま拾った可能性なども考えられるが、3つも持っていたら黒幕の存在を疑われることは想像に難くないはずだ。
であれば、考えられることとして、"わざと黒幕の存在をちらつかせた"可能性が浮上する。
エドガス様によれば、呪法具の入手ルートは途中まで、共和国の検問を通ったらしいところまでしか分からなかった。だが、そこまでは案外すんなり調査できたと言う。
では、そこまではすんなり調査できたのは偶然なのか?
紋章を今までエドガス様が気が付かないくらい慎重に隠していた組織が、入手ルートを秘匿しなかったとは考えづらい。
つまり、これらを総合すると、"モロク教団は自らの存在は隠しつつも黒幕の存在自体はチラつかせ、その黒幕が共和国であると思わせようとした"と考えられる。
共和国が黒幕であり、その目的がラクア王子殿下の暗殺であったと王国が判断すれば、その行き着く先は……
国家間の戦争だ。
共和国と王国がぶつかれば、勝つのはまず間違いなく王国だ。王国は産業・技術面に比べ軍事は一歩遅れているが、それでも国の規模自体が共和国より圧倒的に大きいため、必然的に軍事力も強い。その上、いざとなれば帝国も王国に手を貸すはずだ。
それはモロク教団も分かっているだろう。であれば、目的は共和国の滅亡か、あるいは他の何かか。
いずれにせよ、やることは明確だ。
1つは、敵は共和国ではなくモロク教団の残党であると調査に協力している面々に周知すること。
そしてもう1つは、モロク教団の尻尾を掴み引きずり出すこと。
まずは、このことをラクアとロバン騎士団長に伝えるのが先決だろう。なんなら、彼らにあとのことは全て任せても良いくらいだ。私はちょっと魔力が多いだけの、しがない一般市民に過ぎないのだから。
……しかし、私は1つ確信に近い疑念を抱えている。
それは、モロク教団が、「Amour Tale」のゲーム画面で言及があった、"ジークを殺した裏組織"そのものではないか、ということだ。
もしゲーム通りにいけば、ジーク殺しは1ヶ月以内に起こる。そんなタイミングで、"宗教団体の過激派の残党"が出てきたのだ。これが偶然であるとは到底思えない。
それに、ジークと同じ魔術学院の生徒であるラクアが狙われたのはほぼ確実だ。王族だからというのはもちろん大きいだろうが、他の魔術学院の生徒だって国にとって重要な人物の子供ばかりだ。狙われたっておかしくない。
であれば、私個人としても、モロク教団を放置する訳にはいかない。
ジークはこの世界に来て3人目に話した人物で、この世界で初めてできた友達だ。
それに、魔術学院ではクラスメイトになり、魔術大会でも、それ以降もずっと一緒に過ごしてきた大事な仲間だ。そんな彼を死なせる訳にはいかない。
……これは私のわがままだ。正義でもなんでもない。
だって、この世界を巨視的に見れば、たかが1人の生き死になど微々たる違いに過ぎないのだから。ただ、ゲームのシナリオを私の都合で曲げようとしているだけだ。
だとしても、この意志を曲げるつもりは無い。この世界に来たときに、自分の思うように生きようと決めたのだ。
だから、私はジークを全力で助ける。
……たとえそれが、"ヒロイン"にとっての悲劇であろうとも。
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