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新学期
第88話 シャーロット嬢 side マリー
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時は、シャーロットとカナたちが合流した時点へと遡る。
「えっと、私はシャーロット・ソルードと申します!カナ様のお友達様、よろしくお願いいたします!」
「はい、よろしくお願いします!あ、アランっていいます!」
「お初にお目にかかりますわ、シャーロット嬢。私はスオーロ男爵家の次女、マリーと申します。」
私はシャーロット嬢に対し、少し大袈裟に挨拶をする。こうしたのは、私の存在を印象づけるためだ。
私は昨日、カナからある頼み事をされた。
それは、"シャーロット嬢から話を聞いて、なにか隠し事がありそうか探って欲しい"というもの。
理由は言いたくなさそうだったから聞かなかったけれど、実は少しだけ心当たりがあった。
それは、前々からカナとラクア殿下が協力して何かを進めているようだということと、ソルード侯爵家でのお茶会で何かあったらしいということ。
"ラクア殿下と共にソルード侯爵家のお茶会に行った"という話は、カナ本人の口から聞いていた。
ソルード侯爵は知識人や武勇を立てた者、将来有望だと思われる者と交流を深めるために、定期的にお茶会と称したサロンを開いていることは、貴族間では割と有名だった。だから、魔術大会で活躍したカナが呼ばれたことへの疑問はなかった。
ただお茶会に行った後から、カナが何やら忙しそうにしており、ラクア殿下と度々コンタクトを取っていたから、お茶会で何かあったのだと分かった。
そしてここまでのことを総合してみるに、カナたちはお茶会であった"何か"の原因を探っていると推察できる。
であれば、私がシャーロット嬢に特に探りを入れるべきは、お茶会前後のこと。それと別に、シャーロット嬢自身の人となりも知りたいところね。
ちなみに、自分は何をすればいいかとカナに聞かれたけれど、私は"ラクア殿下達と仲良くしておいて"とだけ言っておいた。
今の私は結構気合いが入っている。だって、カナったら普段全然私たちを頼ってくれようとしないんだもの。そんな友人からの珍しい頼み事だし、しっかりやらなきゃ。
「それでは、お互いの挨拶も済んだようですので、剣術指南の方に入らせていただきます。男性陣はこちらへ、ご見学の女性陣はあちらのお席へどうぞ。」
騎士様の誘導で、男性陣とカナは訓練場の方へ移動し、残りの私たちは見学のために観覧スペースへと移動した。
「わあ……!」
ちょうどラクア殿下とアランさんの試合が始まったようで、シャーロット嬢が歓声をあげる。
「今日は、ラクア殿下にお誘いを受けたのですか?」
試合がひと段落してから、私はシャーロット嬢に声をかける。
「は、はい!……実は、度々ラクア様の元へお伺いさせていただいているのですが、その際に今日の剣術指南会を見学しないかとお誘いいただいて……!」
「まあ、そうだったのですね!……もしや、ラクア殿下はシャーロット嬢とご婚約なさるおつもりとか?」
シャーロット嬢がラクア殿下の婚約者候補に挙がっていることは、一部の貴族令嬢の間で噂になっているし、カナからも事前情報として聞かされている。そして、このことはラクア殿下自身も認めているらしい。
だけれど、それが本当に婚約するつもりなのか、ただ単にシャーロット嬢の素性を探るのに都合がいいからなのかは、カナも正確には知らされていなかった。
「……!はい、そのような話をいただいていて……」
シャーロット嬢は嬉しそうに微笑む。
「それはおめでたいですわ!王族の方との結婚だなんて、全ての女性の夢ですもの!」
「そ、そうですよね……」
シャーロット嬢は少し下を向く。
「……?どうされましたの、浮かない顔をなされて?」
「いえなんと言いますか、ラクア様が心変わりされないか心配で……ラクア様の周りには女性が沢山いらっしゃいますから……」
シャーロット嬢はカナの方へと視線を移す。
「その、カナ様とラクア様はどういったご関係なのでしょうか……」
きた。
「カナが言うには、魔術大会以降度々仕事を手伝ってるだけみたいですけれど、本心はどうなのかまでは聞いておりませんわ。」
「そう、なんですね……確かにお仕事をしているだけにしては仲が良い気がするんです。私の家で父がお茶会を開いたときも、おふたりは一緒にいらしていましたし……」
「まあ、そうなんですの?……でもそれって、ただ一緒に招待されたからではなくて?」
「それは分かりません……でもおふたりの場合どうだったかは分かりませんが、普段のお茶会では父が1人1人に招待状を配っているので……そうなると、ラクア様とカナ様はそれぞれが招待状を受け取ったことを知って、示し合わせて来られたのかと……」
おや?この辺りの話は少しカナから聞いていたものと違うようね……
「あら、2人のことはシャーロット嬢が招待なさった訳では無いのですね?」
「招待だなんてそんな!父ならともかく、私がなんて恐れ多いです……」
「まあ、殿方の気を引くためにしつこいくらいお茶会に誘うご令嬢だって沢山いますのに、シャーロット嬢はとても謙虚でいらっしゃいますね。」
私はもっと情報を引き出すために、少し意地悪なことを言う。
「謙虚、という訳では無いんです。ただ、しつこくなって嫌われてしまうのでは無いかと心配で……」
「……そうだったのですね。ふふ、シャーロット嬢は、本当にラクア殿下のことを慕っていらっしゃるのですね。」
「え……」
すると、シャーロット嬢が顔を真っ赤にし、私の顔を凝視する。
「だって、こんなにラクア殿下のことを思いやっていらっしゃるんですもの。」
「そ、そうでしょうか……」
「でも、私はもう少し積極的になっても良いと思いますよ?」
「……確かにラクア様のことはお、お慕いしていますけど、無理に割り込みたい訳じゃないんです。それに、私なんかより、カナ様のような立派な方の方がお似合いだなって……」
……
「あら、そう自分を卑下するものではありませんよ。自信を持って下さい!」
「あ、ありがとうございます……!」
その後、しばらく雑談しながら剣術指南会を見学した。
恐らくカナが私に取ってきて欲しい情報は、客観的な事実よりも、主観的に見てシャーロット嬢が怪しく思えるかどうか、というところのはず。
であれば、ある程度の成果は得られたと言える。後で、私の見解も加えた上で、なるべく会話内容を正確に伝えるとしましょう。
……ところでそれとは関係なしに、カナって好きな殿方はいないのかしら?
バレンタインのときは特にチョコを渡すつもりはなかったようだし、一見すると恋愛ごとには無関心にも思える。かといって、恋愛したくない訳でもない……気がする。
いずれにしても、彼が報われてくれれば良いのだけれど……
「えっと、私はシャーロット・ソルードと申します!カナ様のお友達様、よろしくお願いいたします!」
「はい、よろしくお願いします!あ、アランっていいます!」
「お初にお目にかかりますわ、シャーロット嬢。私はスオーロ男爵家の次女、マリーと申します。」
私はシャーロット嬢に対し、少し大袈裟に挨拶をする。こうしたのは、私の存在を印象づけるためだ。
私は昨日、カナからある頼み事をされた。
それは、"シャーロット嬢から話を聞いて、なにか隠し事がありそうか探って欲しい"というもの。
理由は言いたくなさそうだったから聞かなかったけれど、実は少しだけ心当たりがあった。
それは、前々からカナとラクア殿下が協力して何かを進めているようだということと、ソルード侯爵家でのお茶会で何かあったらしいということ。
"ラクア殿下と共にソルード侯爵家のお茶会に行った"という話は、カナ本人の口から聞いていた。
ソルード侯爵は知識人や武勇を立てた者、将来有望だと思われる者と交流を深めるために、定期的にお茶会と称したサロンを開いていることは、貴族間では割と有名だった。だから、魔術大会で活躍したカナが呼ばれたことへの疑問はなかった。
ただお茶会に行った後から、カナが何やら忙しそうにしており、ラクア殿下と度々コンタクトを取っていたから、お茶会で何かあったのだと分かった。
そしてここまでのことを総合してみるに、カナたちはお茶会であった"何か"の原因を探っていると推察できる。
であれば、私がシャーロット嬢に特に探りを入れるべきは、お茶会前後のこと。それと別に、シャーロット嬢自身の人となりも知りたいところね。
ちなみに、自分は何をすればいいかとカナに聞かれたけれど、私は"ラクア殿下達と仲良くしておいて"とだけ言っておいた。
今の私は結構気合いが入っている。だって、カナったら普段全然私たちを頼ってくれようとしないんだもの。そんな友人からの珍しい頼み事だし、しっかりやらなきゃ。
「それでは、お互いの挨拶も済んだようですので、剣術指南の方に入らせていただきます。男性陣はこちらへ、ご見学の女性陣はあちらのお席へどうぞ。」
騎士様の誘導で、男性陣とカナは訓練場の方へ移動し、残りの私たちは見学のために観覧スペースへと移動した。
「わあ……!」
ちょうどラクア殿下とアランさんの試合が始まったようで、シャーロット嬢が歓声をあげる。
「今日は、ラクア殿下にお誘いを受けたのですか?」
試合がひと段落してから、私はシャーロット嬢に声をかける。
「は、はい!……実は、度々ラクア様の元へお伺いさせていただいているのですが、その際に今日の剣術指南会を見学しないかとお誘いいただいて……!」
「まあ、そうだったのですね!……もしや、ラクア殿下はシャーロット嬢とご婚約なさるおつもりとか?」
シャーロット嬢がラクア殿下の婚約者候補に挙がっていることは、一部の貴族令嬢の間で噂になっているし、カナからも事前情報として聞かされている。そして、このことはラクア殿下自身も認めているらしい。
だけれど、それが本当に婚約するつもりなのか、ただ単にシャーロット嬢の素性を探るのに都合がいいからなのかは、カナも正確には知らされていなかった。
「……!はい、そのような話をいただいていて……」
シャーロット嬢は嬉しそうに微笑む。
「それはおめでたいですわ!王族の方との結婚だなんて、全ての女性の夢ですもの!」
「そ、そうですよね……」
シャーロット嬢は少し下を向く。
「……?どうされましたの、浮かない顔をなされて?」
「いえなんと言いますか、ラクア様が心変わりされないか心配で……ラクア様の周りには女性が沢山いらっしゃいますから……」
シャーロット嬢はカナの方へと視線を移す。
「その、カナ様とラクア様はどういったご関係なのでしょうか……」
きた。
「カナが言うには、魔術大会以降度々仕事を手伝ってるだけみたいですけれど、本心はどうなのかまでは聞いておりませんわ。」
「そう、なんですね……確かにお仕事をしているだけにしては仲が良い気がするんです。私の家で父がお茶会を開いたときも、おふたりは一緒にいらしていましたし……」
「まあ、そうなんですの?……でもそれって、ただ一緒に招待されたからではなくて?」
「それは分かりません……でもおふたりの場合どうだったかは分かりませんが、普段のお茶会では父が1人1人に招待状を配っているので……そうなると、ラクア様とカナ様はそれぞれが招待状を受け取ったことを知って、示し合わせて来られたのかと……」
おや?この辺りの話は少しカナから聞いていたものと違うようね……
「あら、2人のことはシャーロット嬢が招待なさった訳では無いのですね?」
「招待だなんてそんな!父ならともかく、私がなんて恐れ多いです……」
「まあ、殿方の気を引くためにしつこいくらいお茶会に誘うご令嬢だって沢山いますのに、シャーロット嬢はとても謙虚でいらっしゃいますね。」
私はもっと情報を引き出すために、少し意地悪なことを言う。
「謙虚、という訳では無いんです。ただ、しつこくなって嫌われてしまうのでは無いかと心配で……」
「……そうだったのですね。ふふ、シャーロット嬢は、本当にラクア殿下のことを慕っていらっしゃるのですね。」
「え……」
すると、シャーロット嬢が顔を真っ赤にし、私の顔を凝視する。
「だって、こんなにラクア殿下のことを思いやっていらっしゃるんですもの。」
「そ、そうでしょうか……」
「でも、私はもう少し積極的になっても良いと思いますよ?」
「……確かにラクア様のことはお、お慕いしていますけど、無理に割り込みたい訳じゃないんです。それに、私なんかより、カナ様のような立派な方の方がお似合いだなって……」
……
「あら、そう自分を卑下するものではありませんよ。自信を持って下さい!」
「あ、ありがとうございます……!」
その後、しばらく雑談しながら剣術指南会を見学した。
恐らくカナが私に取ってきて欲しい情報は、客観的な事実よりも、主観的に見てシャーロット嬢が怪しく思えるかどうか、というところのはず。
であれば、ある程度の成果は得られたと言える。後で、私の見解も加えた上で、なるべく会話内容を正確に伝えるとしましょう。
……ところでそれとは関係なしに、カナって好きな殿方はいないのかしら?
バレンタインのときは特にチョコを渡すつもりはなかったようだし、一見すると恋愛ごとには無関心にも思える。かといって、恋愛したくない訳でもない……気がする。
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