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新学期
第87話 剣術指南③
しおりを挟むそれからしばらく経ち、私を含めた残りの3人も試合も終え、私たちは各々フィードバックをもらっていた。
私に関して言えば、まあ細かなところは色々とあるのだが、1番の問題としては攻撃に意識がいってしまい、防御が手薄になりがちであることを指摘された。通りで魔術大会のときにやたらとみぞおちに攻撃を食らった訳だ。
「なあ、ラクア?」
一通りフィードバックを受け終え、そろそろこの会も終わりになる頃、アランがラクアに声をかけた。
「何だ。」
ラクアが応える。
「お前、その剣じゃない方がいいんじゃないか?」
「……どういう意味だ。」
アランの突然の発言にラクアが聞き返す。
「今より軽くて短い剣の方がいいと思うんだよ。もっと言うと、剣2本持った方がいいんじゃねえかって思ってる。」
「なぜそう思う。」
「いやなんつーか、今のままでもいいっちゃいいんだけど、どうにも剣がお前に追いついてない感じがするんだよな。」
「……」
「それってつまりどういうことだ?」
話を聞いていたロンが口を挟む。
「えーとうーんと……あそうだ!カナさんなら分かるんじゃ??」
「え、私?」
急に話を振られ驚く。
参ったな、授業以外では基本的に〘水惑刀〙ありきで練習してるから、あんまりそういったことは意識してなかったんだが……
「……おそらくアランが言いたいのは、"ラクアが想像してる剣の動き"と、"実際の剣の動き"との間に解離があるってことじゃないかな。」
「そう!多分そうだ!」
アランが相打ちを打つ。いや多分って。
「えーと……?」
ロンはまだピンときていないようだ。
「具体的には、ラクアの使ってる剣は比較的長くて重いから、どちらかと言うとスピードよりリーチとか威力重視で、繰り出せる手数も少ない。だけどラクアは思考スピードが速い分、頭の中で瞬時に次の手を考えられる。なのに剣の取り回しが悪いせいでそれを実行できてないから、"剣がラクアに追いついてない"ってこと……かな?」
アランの方を見ると、もげるのではと思うほど首をブンブン縦に振っている。どうやら正解のようだ。
「でもさ、今は1本を両手で持ってるけど、せっかく軽くて短い剣にしても、2本を片手ずつに持ったら重くて取り回し悪くなるんじゃ?」
ロンが再び質問する。
「んーそう言われるとどうなんだ?それに関しても勘だからな……」
「実際はこんな単純な足し算にはならないと思うけど、例えばそれぞれの手の手数が0.6倍になったとしても、両手の手数を合わせれば1.2倍になるから、全体で見れば手数が増える可能性は十分あるんじゃないかな。ラクア次第だけど、試してみる価値はあると思うよ。」
「ふむ……」
ラクアが一連の話を聞いて考える。
「……では、もしそうする場合は、具体的にどのような剣が適していると思う。」
どうやらアランの提案に前向きらしい。ラクアは融通が効かないように見えて、意外に人の意見を聞き入れることが多い。まあそれと、自分でも剣が合っていないことは薄々気がついていたのだろう。
「うーんそうだなあ……学院で支給されるのはどんなのがあったっけ?」
魔術学院では、入学時に全員に剣が支給される。支給時は、各々自分に合ったものを数種類の中から1つ選ぶことになる。
「私が今持ってるやつが1番短くて軽いやつだと思うよ。」
私はアランに自分の剣を手渡す。
「うーん……まあ軽いっちゃ軽いけど、思ったほど変わんねえな……つか、長え。」
アランは軽々と片手で剣を振って感触を確かめる。
ちなみにこの1番軽いやつでも、私は剣に振り回されている。最近はいくらかマシになってきたが。
「そもそも学院の授業で教えられてる剣術って、両手で剣を持つ前提だからね。片手で持つような軽いものは用意してないんだと思うよ。」
前世の西洋剣術だと、むしろ片手剣で盾を持つのが主流だと聞いたことがあった気がするが、こちらの世界は魔法や魔導具などの盾以外の防御手段が多いため、両手が主流である。逆に、両手で盾を持って攻撃は魔法のみという人もいるらしい。
「じゃあ、他所で揃えるしかねえな。ちょうどおすすめの武器屋があるんだけど……って、王族なら剣くらい探せばいっぱい持ってるか?」
「剣自体は確かにあるが、装飾品ばかりで実戦で使えるものは少ない。それに、武器屋には興味がある。」
「おおまじか!じゃあ一緒に行こうぜ!」
「ああ。」
そんなこんなで、剣術指南会は終了した。
……この間ずっと黙って話を聞いていたランドルトが、同期生と仲睦まじく(かは微妙なところだが)話しているラクアの様子を、まるで子どもの成長を見守る親のような慈愛に満ちた表情で見ていたことは、そっと心にしまって置くとしよう。
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