乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる

アミ100

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新学期

第84話 不穏な存在②

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「これならどうじゃ?」

「ふむ……そう来ましたか。ならこうしましょう。」

「ぐ……なかなかやるのう」

翌日。私はエドガス様に同行し、教会へとお邪魔していた。

そして目の前では、エドガス様と大司教様がしのぎを削っていたチェスをしていた

私はルールを何となくしか理解していないので、正直ちょっと飽き始めているところだ。

知り合いなら付いてきても問題ないって、こういうことだったんだな……

「チェックメイトです。」

「なに、いつの間に!」

「私の勝ちのようですね。」

「ぐぬう……」

どうやら勝負あったらしい。

「さてと、では今日はこの辺りにして、ティータイムにでもしましょうか。」

大司教様がそう言うと、奥に控えていた侍女らしき人物がサッと移動する。恐らく紅茶を取りに行ったのだろう。

「むう……」

エドガス様は、さっきの勝敗に納得がいっていないらしい。

「では、ベルナールさんのお話を聞きましょうか。」

大司教様はエドガス様を見て少し苦笑いしてから、私の方に向き直る。

「ええと……今訳あって、ある紋章の出処を探っているのですが、大司教様ならご存知ないかと……」

「紋章、ですか?」

「はい。その写しはエドガス様が……エドガス様?」

「……はっ!いやはや、すまぬすまぬ。」

どうやらまだチェスの結果を気にしていたらしい。

「これがその写しじゃよ。」

エドガス様は気を取り直し、大司教様に例の牛の紋章の写しを見せる。

「これは……!これを一体どこで?」

「あまり詳しいことはお主にも言えぬのじゃが、暴動を起こした犯人の持ち物に描かれていたものじゃ。反応からして、何かは知っているようじゃのう?」

「ええ……これは"モロク教"の紋章です。」

「モロク……どこかで聞いたことがある気もするが、どこだったかのう。お嬢さんは聞いたことあるかのう?」

エドガス様が私に話を振る。

「いえ……私は聞き覚えありません。」

私はこの世界の歴史に関してはからっきしなので、知っていることの方が圧倒的に少ない。だがいずれにせよ、エドガス様が知らないということは、あまり一般的に知られていることでは無いのだろう。

「モロク教は、唯一神モロクを信仰対象としており、かつて北方のトートという小国が国教にしていた宗教です。唯一神モロクは牛の頭を持つ半人半獣のような姿とされていますから、この紋章はそれをモチーフにしたものでしょう。」

「トートか、そっちは聞き覚えがあるわい。しかし、トートはだいぶ前に滅びたのでは無かったか?」

「はい。モロク教の過激派と王族派とで内戦が起こり国力が弱っている所を、過激派と王族派もろともアンベシル帝国が討ち滅ぼしました。」

「そうじゃったな、そんなこともあったのう。」

「私は全く知りませんでした……」

「これはベルナールさんが産まれる前の話ですから、知らないのも無理はありませんよ。」

ということは、少なくとも15年以上前の話ということか。

「しかし、それなら何故今になってこんなものが出てきたのかのう。」

エドガス様は例の紋章の写しを手に取り、首を傾げる。

「……可能性は大きく2つあります。」

大司教様が話を進める。

「1つは昔作られたものがたまたま犯人の手に渡った可能性。もう1つは、モロク教の残党が未だ活動を続けており、犯人はその残党であるか、残党から武器を受け取った可能性です。」

「確かに、考えられるのはそのあたりでしょうね。」
「いずれにせよ物騒じゃのう。」

「私は暴動の詳細について知らないのでこれ以上の判断は難しいのですが、おふたりはいかがお考えでしょうか。」

「どちらの場合だとしても、今まで集めた情報と特別矛盾はありません。しかし、最悪の場合も想定して、モロク教の残党の存在を警戒するべきだと思います。」

今までの調査で、ソルード侯爵が裏で糸を引いている可能性が高いことと、呪法具を共和国から輸入した可能性があることはわかっている。しかし、ソルード侯爵が個人的な都合でわざわざ呪法具を他国から仕入れたとは考えづらい。だが、モロク教の残党がソルード侯爵と結託していた、もしくはソルード侯爵自身が残党の1人であるならば話は別だ。

「わしもお嬢さんに賛成じゃな。この紋章、隠すのに使われていた手法はかなり古いものじゃが、紋章の刻印と隠匿自体は比較的最近行われたもののようじゃ。その証拠に、ほんの僅かじゃが魔力の残滓ざんしがあったわい。もしモロク教の崩壊前に施されたものなら、そんなものとっくに消えておろう。」

「そうですか……」

大司教様は考え込む。

「そうなると、私も動く必要があるようですね。モロク教が残党とはいえ現存していることは、我々としても見過ごせませんから。」

「過激派が問題なのはわかりますが、モロク教の存在自体が問題なのですか?」

「ええ、モロク教は、信徒を生贄として神に捧げる儀式があることが特徴です。そのこと自体は全否定するものではありませんが、過激派がより多くの恩恵を受けようと信徒だけでなく無関係な人々までもを虐殺したり、信心深い信徒が自ら命を絶つといった問題がかねてより問題となっていました。そんな中トート滅亡の一件がありましたので、アンベシル帝国とリアムール王国が協力し、大陸全土へモロク教の信仰の禁止令を出しました。」

信仰の内容で他の宗教団体と対立したわけではなく、人の命そのものへの被害が甚大で問題になったということか。

「しかし、帝国と王国による呼びかけで他国が動くものなのですか?勝手に国のルールを変えられて、反発が起こったりは……」

「帝国は武力面で、王国は技術・産業面でそれぞれ大陸一の強国です。よほどのことがない限り、他国が異を唱えることはないでしょう。それに、どの国もトートの二の舞にはなりたくなかったでしょうからね。」

「なるほど、理解しました。ありがとうございます。」

「いずれにせよ、貴殿が動いてくれるのなら心強いのう。ちょうどわしらだけでは調べられることに限界を感じていたところじゃ。」

「その暴動の調査には、おふたりの他に協力者はいらっしゃるのですか?」

「ラクア・リアムール殿下と、ロバン伯爵にはご協力いただいています。」

「なるほど、それは心強いですね。であれば、そのお二方とは別口での調査を進めておきましょう。もちろん、なにか進展があればお知らせ致します。」

「ありがとうございます。助かります。」

私は深くお辞儀をする。大司教様に情報提供してもらうだけでなく、調査の協力までしてもらえるとは。今日は大収穫だ。

「さて、じゃあ今日はとりあえずこんなもんかのう。」

「そうですね。」

私は僅かに残っていた紅茶を口に流し込み、エドガス様に続き立ち上がる。

「何か分かったら……いえ、それ以外でも、いつでもお越しください。……ところでベルナールさん、あなた随分と無理をなさっているようですが、大事ありませんか?」

大司教様が私を視る。

「え……ああ、これですか。初めは中々酷かったですが、慣れてきたらむしろ調子が良いくらいですから、問題ありません。」

「……そうですか。それなら良かったです。」

大司教様はニコリと笑う。

「……?まあ良いか。では、またのう。」
「今日はありがとうございました。」

「はい、またお会いしましょう。」

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