乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる

アミ100

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新学期

第81話 バレンタイン②

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「よしっ!これでどうかしら?」
「うん、いいんじゃないかな」

放課後、私とマリーは女子寮にある共同キッチンで、いよいよ明日となったバレンタインへ向けたチョコレート作りを行っていた。

チョコレートと言っても、私が作っているのはブラウニー、マリーはチョコレート味のマフィンだが。

オーブンから取り出したトレーには、大きな正方形のブラウニーが1つと、大量のマフィンが並んでいる。

これらはどちらもいわゆる義理チョコ用で、ブラウニーの方は冷ましてから適当な大きさに切り分けるつもりだ。

「さて、じゃあマリーはこれで完成かな?私はまだ切る作業があるけど。」
「え、ええ、そうね」

マリーが目を逸らし、歯切れ悪く返事をする。その目線の先には、私が持ってきたブラウニーやマフィンのレシピが載った本とは別の、マリーが持ってきてカバンにこっそり入れたままの "大好きな彼へのチョコレート作り♡" という表題のレシピ本がある。

マリーは私に隠しているつもりのようだが、生憎にもバレバレである。まあそれを差し引いても、マリーのいつにない挙動不審ぶりで誰だって気がつくだろうが。

「ああ、でももし自分用のお菓子でも作りたいなら、ついでに作っていくといいかもね。ここ数日ずっとキッチン混んでて、次いつ使えるか分からないし。」

私は若干大仰な口調で提案する。

「そ、そうね、そうするわ!」

マリーがやや動揺しながら返事をする。実に分かりやすい。

そう、マリーはアランにいわゆる本命チョコを渡そうとしているのである。

そのことに気がついたのは、先日私がバレンタインで何を作るかを聞かれた際、やたらと"義理チョコ"というワードに反応していたことと、"仲間が……"というようなことを言っていたからだ。

"仲間が……"というのは、要は"私(=マリー)と同じく本命チョコを作る仲間がいない"という意味だったのだろう。

それにしても、最近アランとマリーがより仲良くなっているのは知っていたが、正直マリーの方からアランへと本命チョコを渡すほど進展しているとは思っていなかった。

なんにせよ、大抵こういうのは外野が茶々を入れるとろくなことにならないので、邪魔しないようにだけ気をつけつつ、あとは本人達に委ねるのが吉だろう。

というわけで、私はブラウニーを冷やして切り分けたあと、"何か手伝うことがあれば呼んで"とだけ言い残して部屋に戻った。

明日が楽しみだ。

――――――――――

「わああ!ありがとう!!」
「喜んでもらえてよかったよ」 

翌日の放課後。私とマリーは前日に作ったブラウニーとマフィンをクラスメイトに配っていた。

私のブラウニーは基本的にはタッパーのような大きめの箱に入れたものを1人1つずつ取ってもらい、ジークとアランにはそれと別に個装して多めに渡しておいた。

「あ、あの…アランさん?ちょっといいかしら??」
「え?ああ、どうしたのマリーさん?」

すると、マリーとアランの2人が教室の外へ移動する。

「ねえ、あれって……」

いつの間に私の隣に来たジークが、私に小声で問いかける。

「うん、そうだろうね」
「…追いかけてみる?」
「そうだね、見つからないように」

私とジークはこっそりと2人の後を追った。

――――――

しばらく行くと、アランとマリーは校舎裏の庭までやってきた。ここの芝生は綺麗に整備されているが、花などの見栄えのいい植物が植えられている訳ではないため、人は滅多に来ない。

私とジークは私の"幻影"で既に隠れているが、アランの野生の勘で見つかりかねないので、念の為茂みの裏に隠れる。

「ご、ごめんなさいね、こんなところまで来てもらってしまって。」
「ああいや、いいんだよマリーさん。それで話って??」
「あの、えっと……こ、これ!あげるわ!上手くできているか分からないけれど…」

マリーは昨日私がブラウニーを作り終えた後に作ったチョコレートが入っていると思われる、赤い箱をアランに差し出す。

「ん?これなんだ??」

アランはキョトンとした顔をする。

「あ、開けてみて……」

マリーが消え入るような声で答える。

ガサガサッ

アランが箱をやや無造作に開けると、そこには大きなハート型のチョコレートが入っていた。チョコの表面にはチョコペンで綺麗な模様と"アランさんへ"という文字がかかれている。

ベタと言えばベタだが、こういうのは分かりやすい方がいいし、15歳の少女らしいと言える。

「これって…!」

アランが目を見開く。

ゴクッ

マリーが緊張してか、大きく唾を飲む。

「これ、マリーさんが作ったのか?凄いなマリーさん!!」

……ん?

アランは随分と喜んでいて、それはいいのだが、少々こちらが想定していた反応とは異なる。

現にマリーも少し驚いた顔をしている。

「あの…えっと……」

マリーが様子を伺うようにアランに声をかける。

「これ、前に教えた型の作り方とチョコペンの使い方やってみたんだよな?それで出来を確認して欲しかったんだろ、えっとバー…バー…バレータイーンのついでに!」
「……へ?」

マリーが素っ頓狂な声を出す。私も声こそ出さないがほとんど同じ反応だ。

トントンッ

すると、ジークが無言で私の肩を叩いてから、何やら口をパクパクさせて何かを訴えようとしている。

そこで、私は制服のポケットに入っていたペンとメモ帳をジークに渡すと、何やら文を書き始めた。

"アラン、バレンタインはただ女の子が男の子にチョコレート渡す日って思ってるかも…"

…なるほど。

私はその文を見ながらペンとメモ帳を返してもらう。そして私も同じように筆談する。

"つまり、チョコレートを渡すことに恋愛的な好意を伝える意味があることを知らないってこと?"

"うん、そう…あー!ちゃんと説明しておけば良かった!!"

要するに、アランは元々バレンタインのことを知らず、ジークに聞いてバレンタインの存在を知った。だがジークの説明にやや抜けがあったため、バレンタインチョコのことを告白のツールではなく、ハロウィンのトリックオアトリートでもらうお菓子のようなものだと勘違いしてしまった、ということだろう。

どうりでバレンタインのことを"バーバーバレータイーン"なんて言い方をしているわけだ。

「……」

アランとマリーの2人の方に視線を戻すと、マリーが無言のまま固まっていた。

「あれ、なにかまずいこと言ったか…?」

アランがなんとなく違和感を感じたのか、マリーに問いかける。

「…いいえ、そんなことないわ!そうなの、どうかしら、ちゃんとできてる?」
「もちろん!すげえ上手いよ!あ、ただこれはこうするともっと……」

アランはそのまま改善点を的確に指摘し始める。

なんというか…

"マリーはこれでいいんだろうか"

私はやや複雑な気分になりながら、メモ帳に思ったことをそのまま書き留める。

"はは…でも、楽しそうだからいいんじゃない?"

ジークのその文を見てから茂みの向こうの2人に再び視線を移すと、楽しそうにアランと話すマリーの姿があった。

"…そうだね"
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