乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる

アミ100

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新学期

第79話 体験入部②

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「「「1!!2!!1!!2!!」」」

あれからしばらく経ち、私は他の部員達に混じって剣の素振りをしていた。

動きは一応遅れずついていけているし、体力面に関しても、途中から参加したのでまあなんとか……といったところだ。

「全体、やめ!!」

すると部長の号令が入り、部員の動きが一斉に止まった。私もそれに合わせ素振りを止める。

「それでは、今から実戦演習に入る。いつも通り準備するように。」
「はい!!」

部員達は元気に返事をすると、迷うことなく試合の準備に入る。

私は何をすれば良いかと考えていると、部長がこちらに近づいてきた。

「さて、全体に指示した通りこれから実戦演習を行うから、君はそこのグループに入れてもらうといい。」

部長が訓練場の端の方に固まっている集団を指して言う。

「あそこは君と同じ入学後から剣術を習い始めた1年生が主だよ。君にとっては物足りないかもしれないけど、今日は初日だから部活動の流れを掴む意味でも丁度いいだろう。」
「はい、それでお願いします。」
「さて、演習の流れは彼らが教えてくれると思うけど、その前に俺に聞いておきたいことはあるかい?」
「えっと……」

私は少し考え込み、あることを思い出した。

「ああそうだ、演習の様子を記録しても良いでしょうか?」
「うん、構わないよ。ノートかなにか持ってきたのかい?」
「あ、いえノートではなく……えっと、取ってきますね」
「……?」

私は少し不思議そうな表情を浮かべる部長を尻目に、自分のバッグからあるものを持ってくる。

「これを試してみようかと思いまして。」
「これは……」
「カメラです。」
「かめら……聞いたことがないね。」

部長が首を傾げながら言う。

「あ、それ!」

すると、こちらを見ていたアランが近寄ってきた。

「前に魔法研究部で作ってた一瞬で絵が描ける機械!」
「そう。試作品ができたから、試してみようと思って。」

このカメラはアランの言う通り、ノアさんと一緒に魔法研究部で作成したものである。

サイズは前世の一眼レフと同じ位のサイズ感で、レンズとシャッターボタン、写真の取り出し口がある。

そもそもカメラというのは、ものにもよるが、大体は外の光をレンズによってカメラ内に入れ、その光をフィルムに当てて記録するというのがざっくりした仕組みである。

前世では、最初のカメラはフィルムの色が変化するのに必要な光がとても多く撮影に8時間かかったそうだ。この間動いてはいけないため、とてもじゃないが人間を撮るのは無理だ。というか多分絵を描いた方が早い。そのため制作当初は果たして人物を撮影するのに実用レベルになるのかと危惧したものだが、ここは異世界。蓄音機のとき同様この世界固有の材料が見つかった。

レンズは通常ガラスを使って制作するのだが、この世界には集光ガラスという、周りの光を集め光るガラスが存在した。これは主に夜月の光を集めて光らせて、ランプ代わりに使われているようだ。これをこのカメラのレンズに採用したため、集光にかかる時間、つまりはシャッター速度を大幅に短縮できた。

フィルムに関しては顧問の先生の助言から丁度良さそうなものを選んだ。中には日の光を当てると一瞬で白くなるようなものもあったのだが、そこまでくると暗室で取り出しても僅かな隙間の光で全て真っ白になってしまい写真の体をなさないため、取り扱い方を確立できるまでは使わないことにした。

そんなこんなで、このカメラのシャッター速度は約0.3秒である。1/1000秒などにも設定できるデジタルカメラと比べるとかなり遅いが、大まかな記録や記念写真にはそれほど支障はない。

というのも、そもそもカメラを作ったのは、ベークマンと夜の王都を見回りしたときに思いついた、防犯カメラの作製のためである。

当初はすぐにでもビデオカメラを作って設置して警備隊が遠隔で見られるようにして……なんて考えていたが、私のなけなしの知識とエドガス様の話を聞く限り、そうトントン拍子に話を進めるのは厳しそうだった。

それと、そもそもこの世界にはカメラという存在がないため、いきなり防犯カメラをつけたところでただ不気味な物体が壁についているだけになるし、そもそも防犯カメラの設置を許して貰えない可能性が高い。

そのため、とりあえず普通のカメラを作製し、実用化出来次第、商人に売り込んで商品化・販売してもらおうと考えている。

今日はとりあえず、商人に売り込むための資料写真の撮影と、動いている人間をどれくらい撮れるかの確認用に持ってきた。

「……ほう、なるほどね。」

私は何も説明していないのに、何かを納得した様子の部長がつぶやく。

「使用しても問題ないでしょうか?」
「ああ、大丈夫だよ。たまに木剣が飛んでくることがあるから、壊さないようにだけ気をつけてね。」
「はい、ありがとうございます。」

こうして私はカメラ片手に、実戦演習に参加した。

―――――――――

バシッ!!

「のわっ!?」
「勝者、カナ・ベルナール!」

「なっ…また勝った…!」
「部員でもないのに強すぎる……アランともいい勝負じゃないか??」

私と部員の試合を見ていた他の部員たちがつぶやく。

さて、これで3戦3勝か。なかなか順調だ。

しかしアランといい勝負などという声が聞こえてくるが、この前アランと対戦したときは最初の頃よりは善戦したものの、相変わらず一本も取れずに終わった。

なんにせよ、前よりは剣だけでも戦えるようになってきているのは確かだ。

カシャッ!

そしてカメラの調子も悪くない。シャッター速度がデジカメなどと比べるとかなり遅いため、速く振られた剣と剣を振るう腕はもはやただの残像だが、それ以外は顔が認識できる程度には撮れている。

これで風景や止まっている人物の撮影だけでなく動いている人物も……

バギッ!!ガッ!!

「おい、向こうでアランとベークマンの試合やってるぞ!!」

私と同じグループの部員が叫ぶと、それを聞いた他の部員たちがアランとベークマンの方へぞろぞろと移動する。

私もそれについて行き、せっかくだからと2人が試合している方にカメラを構える。

カシャッ!!

ジーー

このカメラは写真を撮るとすぐ現像されるようになっている。

出てきた写真には、比較的小さなモヤモヤと、大きなモヤモヤが写っていた。

アランとベークマンの動きが先程撮った部員達に比べ速すぎて、体全体が残像と化したのだ。

……やはり、動いている人物に関してはもっと改善の余地がありそうだ。
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