78 / 115
新学期
第78話 体験入部①
しおりを挟む
「お邪魔します」
次の日の放課後、私は約束通り剣術部の部室へとやってきた。
「お、カナさん!」
「やあ、よく来たね。」
そう言って迎えてくれたのはアランと部長だ。
「さて、じゃあ早速うちの部の活動内容について説明しようか。」
「はい。」
そこから私は部長から主に部活の1日の流れやルールについて色々と説明を受けた。
どうやら基本的には最初に全体練習をして後に1対1で戦うというのが一連の流れらしく、剣術の授業とおおよそ同じだ。
ただ決定的に違うのは、授業のほのぼのとした雰囲気とは対照的に、部員達は全体的に疲弊しているか殺伐とした雰囲気かの2択ということだ。ちなみにアランとベークマン、上級生の何人かだけは生き生きとしている。
はあ…私のなけなしの体力ではどうなることか…
「ああ、心配しないで。体験入部だし、いきなり部員達と同じようなことはさせないから。」
部長が私の心を読んだかのように言う。
「それは…助かります。」
「ハハ、まあ君の良さは体力的な部分以外のところにあるからね。鍛えておいて損はないけど、何も全く同じことをする必要はないよ。」
「はい。」
暗にお前体力無いなと言われている気がしなくもないが、ここは素直に受け取っておこう。
「さて、じゃあ次は«キャンセル»について説明しようか。」
「わかりました。」
そこから、早速部長が試合の時にやって見せた、魔法陣を消す方法について教わった。
「まず、«キャンセル»は特別そういう魔法や呪法があるわけじゃないよ。」
「え……ではどうやって?」
「あれはね、相手が出した魔法陣と同じ模様の魔法陣を出して打ち消しているんだ。」
魔法陣を打ち消す…?
「つまり、«キャンセル»というのは魔法陣を打ち消す "技術" であると…?」
「そういうことだ。さすが、理解が早いね。」
要は、部長は私が繰り出した魔法陣に書かれている紋様を覚え、理解し、真似して同じ魔法陣を展開することによって打ち消していたということか…
理屈こそシンプルだが、それを戦闘中に行うには魔法陣に関する膨大な知識と瞬時の判断能力が必要だ。並大抵の人間がなせる技では無い。
「なるほど…しかし、私にできるでしょうか?」
「きっとできるよ。そもそも、僕が君に«キャンセル»を教えようと思ったのは、君にその素質があったからさ。」
「素質…ですか?」
「君は魔術大会でラクア殿下の魔法をすぐに真似して使っていただろう?あれを見て、君は魔法陣の紋様を丸覚えしているんではなく、全て理屈を理解した上で使っているじゃないかと思ったんだよ。だから、君にも«キャンセル»が使えるんじゃないかと考えたんだ。」
「…そういう事でしたか」
確かに、魔法陣を真似して打ち消すのも、真似して同じ魔法を使うのも、他人の作った魔法陣と同じものを構築するという点においては同じことだ。
もっとも、私がラクアの魔法を真似できたのは、属性が同じであることと、規模が違うとはいえ似たような魔法は使っていたため構造を理解しやすかったという部分が大きいのだが…
「どうだい?試しにやってみるかい?」
「はい、お願いします。」
「じゃあ…アラン!ちょっとこっちへ来てくれ!」
「はい!」
部長がアランを呼ぶと、意気揚々と彼がやってきた。
あれだけハードな練習をさせられていたというのに、息一つ上がっていない。
「え、でなんで呼ばれたんですか?」
「なんでもいいから魔法陣を出して欲しいんだ」
「わかりました!」
そういうと、アランは私たちの前に小さな魔法陣を繰り出す。
「さて、これがどんな魔法かわかるかい?」
部長は私に尋ねる。
「これは確か、魔法陣の範囲内に円形の炎を出す魔法ですね。」
イメージとしてはガスコンロの火のような感じだ。
「そうだね。アラン、実際に魔法を出してみてくれ。」
「はい!」
ボッ!
アランは返事をしてから、魔法陣のに魔力を込め、その上に円形の炎を出した。
「じゃあ、この魔法陣を«キャンセル»してみようか。」
「はい。」
魔法陣に描かれている紋様それぞれの意味は、授業でやったためおおよそ把握しているし、アランが使っているのを見たこともある。
もちろん、水属性の人間が火属性魔法を使うことは出来ない。しかし、魔法が出ないというだけで、同じ魔法陣を展開すること自体は可能だ。
私は言われた通り、アランのそれにピッタリ重ねるように魔法陣を展開する。
キィィィン…
ボッ…ボッ…
「お、火が消えたぞ!…たまにちょっと出てくるけど。」
アランが言う。
「ふむ…多少間違いがあるようだけど、おおよそできているね。やはり君には素質があるよ。」
「ありがとうございます。…しかし、完全に消すためにはどうすれば?」
「同じ魔法を出すにも、人ごとに多少の間違いや癖というものがあるからね。それはその都度合わせていくしかない。今回の場合…アラン、ここが間違っていないかい?」
部長は私とアランの魔法陣の紋様がズレている箇所を指さす。
「…あ、ほんとだ!」
アランはそう言うと、その箇所の紋様を修正する。
キィィィン!
「…!」
すると、アランの出した炎が魔法陣と共に綺麗さっぱり消えた。
「こんな風に«キャンセル»の術者が正しい魔法陣を作っても、元の魔法陣が間違っていたら上手くいかないんだ。そこが«キャンセル»の1番難しいところかもしれない。」
「なるほど…」
理論上の正しさだけでなく、相手に応じた臨機応変さも必要、と。
「…あれ、もしかして俺、魔法陣間違えるから呼ばれたんですか?」
「うん。」
「あ…そうですか…」
アランが落ち込む。
「まあなんにせよ基礎はできているから、あとは練習あるのみだね。」
「はい、ありがとうございました。」
「さて、それじゃああとは体験入部らしく、部員に混ざって練習といこうか。」
「…はい。」
私の体力が持つことを祈ろう。
次の日の放課後、私は約束通り剣術部の部室へとやってきた。
「お、カナさん!」
「やあ、よく来たね。」
そう言って迎えてくれたのはアランと部長だ。
「さて、じゃあ早速うちの部の活動内容について説明しようか。」
「はい。」
そこから私は部長から主に部活の1日の流れやルールについて色々と説明を受けた。
どうやら基本的には最初に全体練習をして後に1対1で戦うというのが一連の流れらしく、剣術の授業とおおよそ同じだ。
ただ決定的に違うのは、授業のほのぼのとした雰囲気とは対照的に、部員達は全体的に疲弊しているか殺伐とした雰囲気かの2択ということだ。ちなみにアランとベークマン、上級生の何人かだけは生き生きとしている。
はあ…私のなけなしの体力ではどうなることか…
「ああ、心配しないで。体験入部だし、いきなり部員達と同じようなことはさせないから。」
部長が私の心を読んだかのように言う。
「それは…助かります。」
「ハハ、まあ君の良さは体力的な部分以外のところにあるからね。鍛えておいて損はないけど、何も全く同じことをする必要はないよ。」
「はい。」
暗にお前体力無いなと言われている気がしなくもないが、ここは素直に受け取っておこう。
「さて、じゃあ次は«キャンセル»について説明しようか。」
「わかりました。」
そこから、早速部長が試合の時にやって見せた、魔法陣を消す方法について教わった。
「まず、«キャンセル»は特別そういう魔法や呪法があるわけじゃないよ。」
「え……ではどうやって?」
「あれはね、相手が出した魔法陣と同じ模様の魔法陣を出して打ち消しているんだ。」
魔法陣を打ち消す…?
「つまり、«キャンセル»というのは魔法陣を打ち消す "技術" であると…?」
「そういうことだ。さすが、理解が早いね。」
要は、部長は私が繰り出した魔法陣に書かれている紋様を覚え、理解し、真似して同じ魔法陣を展開することによって打ち消していたということか…
理屈こそシンプルだが、それを戦闘中に行うには魔法陣に関する膨大な知識と瞬時の判断能力が必要だ。並大抵の人間がなせる技では無い。
「なるほど…しかし、私にできるでしょうか?」
「きっとできるよ。そもそも、僕が君に«キャンセル»を教えようと思ったのは、君にその素質があったからさ。」
「素質…ですか?」
「君は魔術大会でラクア殿下の魔法をすぐに真似して使っていただろう?あれを見て、君は魔法陣の紋様を丸覚えしているんではなく、全て理屈を理解した上で使っているじゃないかと思ったんだよ。だから、君にも«キャンセル»が使えるんじゃないかと考えたんだ。」
「…そういう事でしたか」
確かに、魔法陣を真似して打ち消すのも、真似して同じ魔法を使うのも、他人の作った魔法陣と同じものを構築するという点においては同じことだ。
もっとも、私がラクアの魔法を真似できたのは、属性が同じであることと、規模が違うとはいえ似たような魔法は使っていたため構造を理解しやすかったという部分が大きいのだが…
「どうだい?試しにやってみるかい?」
「はい、お願いします。」
「じゃあ…アラン!ちょっとこっちへ来てくれ!」
「はい!」
部長がアランを呼ぶと、意気揚々と彼がやってきた。
あれだけハードな練習をさせられていたというのに、息一つ上がっていない。
「え、でなんで呼ばれたんですか?」
「なんでもいいから魔法陣を出して欲しいんだ」
「わかりました!」
そういうと、アランは私たちの前に小さな魔法陣を繰り出す。
「さて、これがどんな魔法かわかるかい?」
部長は私に尋ねる。
「これは確か、魔法陣の範囲内に円形の炎を出す魔法ですね。」
イメージとしてはガスコンロの火のような感じだ。
「そうだね。アラン、実際に魔法を出してみてくれ。」
「はい!」
ボッ!
アランは返事をしてから、魔法陣のに魔力を込め、その上に円形の炎を出した。
「じゃあ、この魔法陣を«キャンセル»してみようか。」
「はい。」
魔法陣に描かれている紋様それぞれの意味は、授業でやったためおおよそ把握しているし、アランが使っているのを見たこともある。
もちろん、水属性の人間が火属性魔法を使うことは出来ない。しかし、魔法が出ないというだけで、同じ魔法陣を展開すること自体は可能だ。
私は言われた通り、アランのそれにピッタリ重ねるように魔法陣を展開する。
キィィィン…
ボッ…ボッ…
「お、火が消えたぞ!…たまにちょっと出てくるけど。」
アランが言う。
「ふむ…多少間違いがあるようだけど、おおよそできているね。やはり君には素質があるよ。」
「ありがとうございます。…しかし、完全に消すためにはどうすれば?」
「同じ魔法を出すにも、人ごとに多少の間違いや癖というものがあるからね。それはその都度合わせていくしかない。今回の場合…アラン、ここが間違っていないかい?」
部長は私とアランの魔法陣の紋様がズレている箇所を指さす。
「…あ、ほんとだ!」
アランはそう言うと、その箇所の紋様を修正する。
キィィィン!
「…!」
すると、アランの出した炎が魔法陣と共に綺麗さっぱり消えた。
「こんな風に«キャンセル»の術者が正しい魔法陣を作っても、元の魔法陣が間違っていたら上手くいかないんだ。そこが«キャンセル»の1番難しいところかもしれない。」
「なるほど…」
理論上の正しさだけでなく、相手に応じた臨機応変さも必要、と。
「…あれ、もしかして俺、魔法陣間違えるから呼ばれたんですか?」
「うん。」
「あ…そうですか…」
アランが落ち込む。
「まあなんにせよ基礎はできているから、あとは練習あるのみだね。」
「はい、ありがとうございました。」
「さて、それじゃああとは体験入部らしく、部員に混ざって練習といこうか。」
「…はい。」
私の体力が持つことを祈ろう。
63
お気に入りに追加
691
あなたにおすすめの小説

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜
ネリムZ
ファンタジー
唐突にギルドマスターから宣言される言葉。
「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」
理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。
様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。
そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。
モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。
行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。
俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。
そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。
新たな目標、新たな仲間と環境。
信念を持って行動する、一人の男の物語。

僕と精霊 〜魔法と科学と宝石の輝き〜
一般人
ファンタジー
人類が魔法と科学の力を発見して数万年。それぞれの力を持つ者同士の思想の衝突で起きた長き時に渡る戦争、『発展戦争』。そんな戦争の休戦から早100年。魔法軍の国に住む高校生ジャン・バーンは精霊カーバンクルのパンプと出会いと共に両国の歪みに巻き込まれていく。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

元勇者、魔王の娘を育てる~血の繋がらない父と娘が過ごす日々~
雪野湯
ファンタジー
勇者ジルドランは少年勇者に称号を奪われ、一介の戦士となり辺境へと飛ばされた。
新たな勤務地へ向かう途中、赤子を守り戦う女性と遭遇。
助けに入るのだが、女性は命を落としてしまう。
彼女の死の間際に、彼は赤子を託されて事情を知る。
『魔王は殺され、新たな魔王となった者が魔王の血筋を粛清している』と。
女性が守ろうとしていた赤子は魔王の血筋――魔王の娘。
この赤子に頼れるものはなく、守ってやれるのは元勇者のジルドランのみ。
だから彼は、赤子を守ると決めて娘として迎え入れた。
ジルドランは赤子を守るために、人間と魔族が共存する村があるという噂を頼ってそこへ向かう。
噂は本当であり両種族が共存する村はあったのだが――その村は村でありながら軍事力は一国家並みと異様。
その資金源も目的もわからない。
不審に思いつつも、頼る場所のない彼はこの村の一員となった。
その村で彼は子育てに苦労しながらも、それに楽しさを重ねて毎日を過ごす。
だが、ジルドランは人間。娘は魔族。
血が繋がっていないことは明白。
いずれ真実を娘に伝えなければならない、王族の血を引く魔王の娘であることを。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる