乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる

アミ100

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新学期

第78話 体験入部①

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「お邪魔します」

次の日の放課後、私は約束通り剣術部の部室へとやってきた。

「お、カナさん!」
「やあ、よく来たね。」

そう言って迎えてくれたのはアランと部長だ。

「さて、じゃあ早速うちの部の活動内容について説明しようか。」
「はい。」

そこから私は部長から主に部活の1日の流れやルールについて色々と説明を受けた。

どうやら基本的には最初に全体練習をして後に1対1で戦うというのが一連の流れらしく、剣術の授業とおおよそ同じだ。

ただ決定的に違うのは、授業のほのぼのとした雰囲気とは対照的に、部員達は全体的に疲弊しているか殺伐とした雰囲気かの2択ということだ。ちなみにアランとベークマン、上級生の何人かだけは生き生きとしている。

はあ…私のなけなしの体力ではどうなることか…

「ああ、心配しないで。体験入部だし、いきなり部員達と同じようなことはさせないから。」

部長が私の心を読んだかのように言う。

「それは…助かります。」
「ハハ、まあ君の良さは体力的な部分以外のところにあるからね。鍛えておいて損はないけど、何も全く同じことをする必要はないよ。」
「はい。」

暗にお前体力無いなと言われている気がしなくもないが、ここは素直に受け取っておこう。

「さて、じゃあ次は«キャンセル»について説明しようか。」
「わかりました。」

そこから、早速部長が試合の時にやって見せた、魔法陣を消す方法について教わった。

「まず、«キャンセル»は特別そういう魔法や呪法があるわけじゃないよ。」
「え……ではどうやって?」
「あれはね、相手が出した魔法陣と同じ模様の魔法陣を出して打ち消しているんだ。」

魔法陣を打ち消す…?

「つまり、«キャンセル»というのは魔法陣を打ち消す "技術" であると…?」
「そういうことだ。さすが、理解が早いね。」

要は、部長は私が繰り出した魔法陣に書かれている紋様を覚え、理解し、真似して同じ魔法陣を展開することによって打ち消していたということか…

理屈こそシンプルだが、それを戦闘中に行うには魔法陣に関する膨大な知識と瞬時の判断能力が必要だ。並大抵の人間がなせる技では無い。

「なるほど…しかし、私にできるでしょうか?」
「きっとできるよ。そもそも、僕が君に«キャンセル»を教えようと思ったのは、君にその素質があったからさ。」
「素質…ですか?」
「君は魔術大会でラクア殿下の魔法をすぐに真似して使っていただろう?あれを見て、君は魔法陣の紋様を丸覚えしているんではなく、全て理屈を理解した上で使っているじゃないかと思ったんだよ。だから、君にも«キャンセル»が使えるんじゃないかと考えたんだ。」
「…そういう事でしたか」

確かに、魔法陣を真似して打ち消すのも、真似して同じ魔法を使うのも、他人の作った魔法陣と同じものを構築するという点においては同じことだ。

もっとも、私がラクアの魔法を真似できたのは、属性が同じであることと、規模が違うとはいえ似たような魔法は使っていたため構造を理解しやすかったという部分が大きいのだが…

「どうだい?試しにやってみるかい?」
「はい、お願いします。」
「じゃあ…アラン!ちょっとこっちへ来てくれ!」
「はい!」

部長がアランを呼ぶと、意気揚々と彼がやってきた。

あれだけハードな練習をさせられていたというのに、息一つ上がっていない。

「え、でなんで呼ばれたんですか?」
「なんでもいいから魔法陣を出して欲しいんだ」
「わかりました!」

そういうと、アランは私たちの前に小さな魔法陣を繰り出す。

「さて、これがどんな魔法かわかるかい?」

部長は私に尋ねる。

「これは確か、魔法陣の範囲内に円形の炎を出す魔法ですね。」

イメージとしてはガスコンロの火のような感じだ。

「そうだね。アラン、実際に魔法を出してみてくれ。」
「はい!」

ボッ!

アランは返事をしてから、魔法陣のに魔力を込め、その上に円形の炎を出した。

「じゃあ、この魔法陣を«キャンセル»してみようか。」
「はい。」

魔法陣に描かれている紋様それぞれの意味は、授業でやったためおおよそ把握しているし、アランが使っているのを見たこともある。

もちろん、水属性の人間が火属性魔法を使うことは出来ない。しかし、魔法が出ないというだけで、同じ魔法陣を展開すること自体は可能だ。

私は言われた通り、アランのそれにピッタリ重ねるように魔法陣を展開する。

キィィィン…

ボッ…ボッ…

「お、火が消えたぞ!…たまにちょっと出てくるけど。」

アランが言う。

「ふむ…多少間違いがあるようだけど、おおよそできているね。やはり君には素質があるよ。」
「ありがとうございます。…しかし、完全に消すためにはどうすれば?」
「同じ魔法を出すにも、人ごとに多少の間違いや癖というものがあるからね。それはその都度合わせていくしかない。今回の場合…アラン、ここが間違っていないかい?」

部長は私とアランの魔法陣の紋様がズレている箇所を指さす。

「…あ、ほんとだ!」

アランはそう言うと、その箇所の紋様を修正する。

キィィィン!

「…!」

すると、アランの出した炎が魔法陣と共に綺麗さっぱり消えた。

「こんな風に«キャンセル»の術者が正しい魔法陣を作っても、元の魔法陣が間違っていたら上手くいかないんだ。そこが«キャンセル»の1番難しいところかもしれない。」
「なるほど…」

理論上の正しさだけでなく、相手に応じた臨機応変さも必要、と。

「…あれ、もしかして俺、魔法陣間違えるから呼ばれたんですか?」
「うん。」
「あ…そうですか…」

アランが落ち込む。

「まあなんにせよ基礎はできているから、あとは練習あるのみだね。」
「はい、ありがとうございました。」
「さて、それじゃああとは体験入部らしく、部員に混ざって練習といこうか。」
「…はい。」

私の体力が持つことを祈ろう。
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