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冬休み
第69話 ベークマンと王国の治安②
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私は急いで家に帰って買い物袋を置きママに一言断ってから、ベークマンについて行った。
「それで、偵察って言っても何するの?」
「わからん、お前が考えろ。」
「えぇ……」
もしや、自分じゃよく分からないから私に策を練らせようとしていたのか。
「……まあ、欲を言えば騒ぎや犯罪が起きた場所と時間、警備隊が対応するまでの時間を長期的に調査してリストアップでもした方が良いんだろうけど……さすがにそんなことする気にはならないから、街の人に聞き込みするくらいが妥当かな。」
「騒動を見つけ次第殴り込みに行くんじゃ駄目なのか。」
「殴り込みって……止めに入るのはダメってことは無いけど、その場しのぎにしかならないんじゃない?というかさすがに1日に何回も騒動は見たことないし……」
それに、騒動があってもベークマンを見たら皆すぐ逃げ出しそうだし。
「出くわすのは初めてじゃなかったのか?」
「うん、自分で対処したのは今回が初めてだけど、あの手の騒ぎに出くわしたのはここ1ヶ月だけでも3回目だよ。」
今までは見に行ってもその場の人がなんだかんだで抑えていたが、今回はそういう人がいなかったのだ。
「予想以上だな……」
「これでも城下町なだけ地方よりはマシなんだろうけどね。というか、ベークマンはあういうの見たことないの?」
「俺の家と領地はもっと少し郊外だからな、城下町にはあんま来ねえ。今は学院の寮暮らしだからたまに来るが。」
ベークマンは伯爵家で、城下町に比較的近いところに領地を構えている。だが馬車でもそれなりに時間はかかるので、移動するのが面倒で冬休み中もずっと寮にいるのだろう。
「それにうちの領地の連中は自警団や俺らにビビってまず暴れたりしねえからな。」
「あー……なるほど……」
ベークマン家は国内でも一二を争う武闘派一族として有名だ。自警団も恐らくそんな彼らに鍛えられ管理されているだろうから、チンピラが怖がるのもうなずける。ちなみに噂によると、このブラム・ベークマンよりも長男と父親の方が強いらしい。ちょっと何言ってるか分からない。
「ところで、さっき警備隊の話のときに"うちの顔"がどうのこうの言ってたけど、城下町の警備隊とベークマン家って何か繋がりがあるの?」
「ああ、うちがあいつらの武術指南たまにやってんだよ。つっても領地の自警団に叩き込んでる量に比べたらクソみてえなもんだけどな。」
「なるほど、それで少なからず関係してる以上、伯爵家の評判を下げかねないと。」
「そういうわけだ。」
ほとんど何もしてないのに本に"○○監修"って書かれて、いざその本が炎上したらまるで全部自分のせいにされる……みたいな感じか?
「……あと、今回の話とは関係ないんだけど、魔術大会のときの伝言って……」
そう、忘れかかっていたが、魔術大会の個人戦が始まる前に、ベークマンが個人戦を辞退する趣旨の伝言をしたのだが、その内容に私への宣戦布告とも取れる文言が含まれていたのだ。
「あれはもう気にすんな。お前より面白いやつ見つけたしな。」
「うん……?」
「そんなことより、これからどうすりゃいい?」
もう完全に私に丸投げだな……
「……じゃあ、さっき言ったように聞き込みしていこうか。」
そこから、私たちの聞き込みが始まった。話しかけたときは少し警戒したような顔をされたが、いざ聞いてみると警備隊や治安そのものへの不満が強いようで、皆熱心に話してくれた。
1度私がベークマンに誘拐されかかってると勘違いした人に警備隊を呼ばれそうになってあたふたしたが、それ以外は順調に進んだ。
「こんだけ聞きゃあいいだろ。」
「だね。とりあえず聞いた話をまとめると……」
聞き込みした住民からは様々な意見を聞けたが、特に多かった意見はこの4つ。
・先代国王から現国王に代替わりしたころから少しずつ暴行や盗みが増えている。
・チンピラは完全に警備隊をナメ腐っている。
・チンピラにナメられている警備隊はイラついている。
・路地裏や夜の街はもっと治安が悪い。
……2つ目と3つ目の関係性が酷い。チンピラナメる→警備隊イラつく→チンピラナメる→警備隊イラつく……以下無限ループである。
「国王云々はさすがにどうにもならないから……できるのはやっぱり警備隊の人手不足と人材不足、態度の悪さの改善と、路地裏や夜がどうなってるかの確認……かな?」
「態度の悪さは今度の武術指南で叩き直すとして……人手不足はあいつらをどうこうしたところでどうにもならねえな。」
「まあそれは警備隊を管理してる国に直接訴えるしかないかな……今度ラクア殿下に進言しておくよ。」
「ラクア……?誰だそれ。」
「え、第2王子で魔術学院の1年B組にいる人だよ。知らない?」
「そういや同学年に王子がいるとか何とか言ってたな……」
普通同学年に王族がいたらもう少し気にしないか……?まあいいか、今は関係ない話だし。
「……とにかく、残りは夜の城下町の様子がどうなってるかだね。」
「それならまだ日が落ちるまでは時間あっから、夜に再集合して見て回るぞ!」
「もう私も参加する前提なのね……まあわかったよ。じゃあ2時間後にここで。」
こうして私たちは1回解散した。
―― 2時間後 ――
「よお、逃げずに来たようだな。」
「あ、うん……」
その言い回しだと、果たし状突きつけられたヤンキーが決闘の場にやってきたみたいに聞こえる。言い方もうちょっと無かったんだろうか。
「……それじゃあ、早速行こうか。」
「それで、偵察って言っても何するの?」
「わからん、お前が考えろ。」
「えぇ……」
もしや、自分じゃよく分からないから私に策を練らせようとしていたのか。
「……まあ、欲を言えば騒ぎや犯罪が起きた場所と時間、警備隊が対応するまでの時間を長期的に調査してリストアップでもした方が良いんだろうけど……さすがにそんなことする気にはならないから、街の人に聞き込みするくらいが妥当かな。」
「騒動を見つけ次第殴り込みに行くんじゃ駄目なのか。」
「殴り込みって……止めに入るのはダメってことは無いけど、その場しのぎにしかならないんじゃない?というかさすがに1日に何回も騒動は見たことないし……」
それに、騒動があってもベークマンを見たら皆すぐ逃げ出しそうだし。
「出くわすのは初めてじゃなかったのか?」
「うん、自分で対処したのは今回が初めてだけど、あの手の騒ぎに出くわしたのはここ1ヶ月だけでも3回目だよ。」
今までは見に行ってもその場の人がなんだかんだで抑えていたが、今回はそういう人がいなかったのだ。
「予想以上だな……」
「これでも城下町なだけ地方よりはマシなんだろうけどね。というか、ベークマンはあういうの見たことないの?」
「俺の家と領地はもっと少し郊外だからな、城下町にはあんま来ねえ。今は学院の寮暮らしだからたまに来るが。」
ベークマンは伯爵家で、城下町に比較的近いところに領地を構えている。だが馬車でもそれなりに時間はかかるので、移動するのが面倒で冬休み中もずっと寮にいるのだろう。
「それにうちの領地の連中は自警団や俺らにビビってまず暴れたりしねえからな。」
「あー……なるほど……」
ベークマン家は国内でも一二を争う武闘派一族として有名だ。自警団も恐らくそんな彼らに鍛えられ管理されているだろうから、チンピラが怖がるのもうなずける。ちなみに噂によると、このブラム・ベークマンよりも長男と父親の方が強いらしい。ちょっと何言ってるか分からない。
「ところで、さっき警備隊の話のときに"うちの顔"がどうのこうの言ってたけど、城下町の警備隊とベークマン家って何か繋がりがあるの?」
「ああ、うちがあいつらの武術指南たまにやってんだよ。つっても領地の自警団に叩き込んでる量に比べたらクソみてえなもんだけどな。」
「なるほど、それで少なからず関係してる以上、伯爵家の評判を下げかねないと。」
「そういうわけだ。」
ほとんど何もしてないのに本に"○○監修"って書かれて、いざその本が炎上したらまるで全部自分のせいにされる……みたいな感じか?
「……あと、今回の話とは関係ないんだけど、魔術大会のときの伝言って……」
そう、忘れかかっていたが、魔術大会の個人戦が始まる前に、ベークマンが個人戦を辞退する趣旨の伝言をしたのだが、その内容に私への宣戦布告とも取れる文言が含まれていたのだ。
「あれはもう気にすんな。お前より面白いやつ見つけたしな。」
「うん……?」
「そんなことより、これからどうすりゃいい?」
もう完全に私に丸投げだな……
「……じゃあ、さっき言ったように聞き込みしていこうか。」
そこから、私たちの聞き込みが始まった。話しかけたときは少し警戒したような顔をされたが、いざ聞いてみると警備隊や治安そのものへの不満が強いようで、皆熱心に話してくれた。
1度私がベークマンに誘拐されかかってると勘違いした人に警備隊を呼ばれそうになってあたふたしたが、それ以外は順調に進んだ。
「こんだけ聞きゃあいいだろ。」
「だね。とりあえず聞いた話をまとめると……」
聞き込みした住民からは様々な意見を聞けたが、特に多かった意見はこの4つ。
・先代国王から現国王に代替わりしたころから少しずつ暴行や盗みが増えている。
・チンピラは完全に警備隊をナメ腐っている。
・チンピラにナメられている警備隊はイラついている。
・路地裏や夜の街はもっと治安が悪い。
……2つ目と3つ目の関係性が酷い。チンピラナメる→警備隊イラつく→チンピラナメる→警備隊イラつく……以下無限ループである。
「国王云々はさすがにどうにもならないから……できるのはやっぱり警備隊の人手不足と人材不足、態度の悪さの改善と、路地裏や夜がどうなってるかの確認……かな?」
「態度の悪さは今度の武術指南で叩き直すとして……人手不足はあいつらをどうこうしたところでどうにもならねえな。」
「まあそれは警備隊を管理してる国に直接訴えるしかないかな……今度ラクア殿下に進言しておくよ。」
「ラクア……?誰だそれ。」
「え、第2王子で魔術学院の1年B組にいる人だよ。知らない?」
「そういや同学年に王子がいるとか何とか言ってたな……」
普通同学年に王族がいたらもう少し気にしないか……?まあいいか、今は関係ない話だし。
「……とにかく、残りは夜の城下町の様子がどうなってるかだね。」
「それならまだ日が落ちるまでは時間あっから、夜に再集合して見て回るぞ!」
「もう私も参加する前提なのね……まあわかったよ。じゃあ2時間後にここで。」
こうして私たちは1回解散した。
―― 2時間後 ――
「よお、逃げずに来たようだな。」
「あ、うん……」
その言い回しだと、果たし状突きつけられたヤンキーが決闘の場にやってきたみたいに聞こえる。言い方もうちょっと無かったんだろうか。
「……それじゃあ、早速行こうか。」
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