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いつもの学院生活…?
第42話 魔法研究部②
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一通り説明を終えると、2人は何やら考え込んだ後、まずサラ先輩が口を開いた。
「魔力の付与は聞いたことがあるし、その論文も軽く読んだことがあります。でも確か"できない"って結論になっていた気がしたのですが…」
「はい、結論としては確かにそう書いてありましたし、その事実は今も変わりません。」
「………?じゃあどうやって…?」
「その論文の結論は、厳密に言えば"魔力付与は一般的な技術として確立することはできない"というものでした。ですが、魔力付与が成功した被験者自体はいくらかいたんですよ。それで書いてあることを参考にしてやってみら、たまたま私とアラン…赤髪の生徒は上手くいったという訳です。」
「ほ~なるほど!あれ、でもなんでその論文書いた人は"成功した人もいた!"って書かなかったんだろ?そう書いた方が凄そうに見えない?」
今度はノアさんが聞いてくる。
「その論文を書いた研究者は王国の軍事技術の開発を目的として研究している人だから、再現性が低いまま沢山いる騎士にやらせて2,3人ができたところで、その利用価値はあまり無いと判断したんだと思う。それに、魔力付与自体はその論文が書かれる何十年も前から研究で観測されてるから、"成功した"っていう書き方をすると先行研究のパクリになりかねないからね。」
前世でもこの世界でも、科学もしくは魔法の研究における "再現性" と "先行研究" の有無は非常に重要であり、無視する訳にはいかない要素だ。
まず"再現性が高い"というのは、ざっくり言えば "手順をしっかり踏めば自分でも他人でも何度も同じことができる" ということと同じである。
例えば、ニュートンの万有引力の話で"リンゴが木から落ちた" というフレーズをよく聞くが(実際言ったかは不明)、実際に物を手から離し、落としてみるだけで誰でも木から落ちるリンゴと同じ現象を再現できる。そのためこれは再現性が高いといえる。
一方で、再現性が低かった研究として例に挙げられるのは……波風がたちそうなので明言はしないが、提唱者が"あります" といくら主張しても、他の研究者が同じ手法で同じものが作れなければ、それは再現性が低いと言える。ニュートンが観測した木のリンゴがいくら地面に落ちようが、他の木のリンゴが天に登っていくようでは意味が無いのだ。
とはいえ論文に書かれているもので再現性の低いものなんていくらでもあるし、人ごとに再現性のばらつきがあってもアランや私が魔力付与を使ったように個人ベースで使えることはあるので、再現性が低いからといって必ずしも全否定される訳では無い。
次に "先行研究の有無" だ。むしろこっちの方が気をつけないとまずい。先行研究とは、読んで字のごとく既に世間に公表されている研究結果のことだ。自分が研究を始める際は、これがあるかどうか徹底的に調べなくてはならない。なぜなら、もし自分の研究と同じような先行研究が見つかったら、自分の研究成果は実質パクりとなり全て無駄になりかねないからである。
実際、前世の理科部の先輩がやった研究が全国レベルで表彰されたことがあったのだが、後から同じような研究が発覚するとその賞は剥奪されてしまった。だが剥奪されただけで済んだのはまだいい方で、例えば企業間でこんなことが起こると訴訟される可能性すらある。
"科学者" や "研究者" というと俗世から離れてやりたい実験を好き勝手やっているイメージがあるかも知れないが、実態は案外世知辛いのである。
こういうことを踏まえると、私が魔術大会で披露した魔法の数々はお世辞にも"科学的" "研究的"とは言えない。ただ元々あるものを自分が使えるように還元しているだけなので、おばあちゃんの知恵袋とかそっちの方が近いかもしれない。
ダラダラ説明してしまったが、まあそういうことだ。
「なるほど、確かにそう言われるとそうかもしれません。凄いですねカナさんは、まるでずっと前から研究してたみたいです!」
「ハハ……」
まあ大学ではまだ研究室には入っていなかったので高校の部活で研究の真似事をしていた以外はやっていなかったのだが、当たらずとも遠からずな発言に少しギクッとする。
「それじゃあ、次は"幻影"と水の剣について教えて!」
「うん。えっと……」
―――――――――
正直"幻影"と〘水惑刀〙の話は言って伝わるか心配だったのだが、かなりの部分を理解して貰えた。さすが魔法研究部といったところか。
「色々聞かせてくれてありがとうございます!すみません、質問攻めにしちゃって」
「いえ、私も色々話せて楽しかったです。ところで、私は今後何をすればいいでしょう?」
「ああそうだった、お話聞くのに夢中で説明するのをすっかり忘れてました!とはいってもこの部活、基本は個人で実験したり研究したりしているので、もしやりたいことが決まっていれば自由にどんどんやってもらって大丈夫ですよ。そうでなければ、まずは簡単な実験を色々やって慣れてもらう感じでしょうか」
「なるほど…」
一応現時点でいくらかやりたいことは考えてある。1つ目は魔石や畜陣石、ミスリルやオリハルコンといった前世になかった材料の性質の確認、2つ目は前世の科学を使った新たな技術の開発、そして3つ目はあの中年男が使っていた力の正体の解明である。
「...…やりたいことはあるんですが、とりあえず実験器具の使い方とか色々確認したいので簡単なものからやりたいです」
「わかりました、じゃあ準備しますね!」
――――――――――――
その後、色々な魔法薬や実験器具を使わせてもらった。前世と違うことも多く今は慣れないが、学院生活はまだまだ時間がある。徐々に覚えていくとしよう。
「魔力の付与は聞いたことがあるし、その論文も軽く読んだことがあります。でも確か"できない"って結論になっていた気がしたのですが…」
「はい、結論としては確かにそう書いてありましたし、その事実は今も変わりません。」
「………?じゃあどうやって…?」
「その論文の結論は、厳密に言えば"魔力付与は一般的な技術として確立することはできない"というものでした。ですが、魔力付与が成功した被験者自体はいくらかいたんですよ。それで書いてあることを参考にしてやってみら、たまたま私とアラン…赤髪の生徒は上手くいったという訳です。」
「ほ~なるほど!あれ、でもなんでその論文書いた人は"成功した人もいた!"って書かなかったんだろ?そう書いた方が凄そうに見えない?」
今度はノアさんが聞いてくる。
「その論文を書いた研究者は王国の軍事技術の開発を目的として研究している人だから、再現性が低いまま沢山いる騎士にやらせて2,3人ができたところで、その利用価値はあまり無いと判断したんだと思う。それに、魔力付与自体はその論文が書かれる何十年も前から研究で観測されてるから、"成功した"っていう書き方をすると先行研究のパクリになりかねないからね。」
前世でもこの世界でも、科学もしくは魔法の研究における "再現性" と "先行研究" の有無は非常に重要であり、無視する訳にはいかない要素だ。
まず"再現性が高い"というのは、ざっくり言えば "手順をしっかり踏めば自分でも他人でも何度も同じことができる" ということと同じである。
例えば、ニュートンの万有引力の話で"リンゴが木から落ちた" というフレーズをよく聞くが(実際言ったかは不明)、実際に物を手から離し、落としてみるだけで誰でも木から落ちるリンゴと同じ現象を再現できる。そのためこれは再現性が高いといえる。
一方で、再現性が低かった研究として例に挙げられるのは……波風がたちそうなので明言はしないが、提唱者が"あります" といくら主張しても、他の研究者が同じ手法で同じものが作れなければ、それは再現性が低いと言える。ニュートンが観測した木のリンゴがいくら地面に落ちようが、他の木のリンゴが天に登っていくようでは意味が無いのだ。
とはいえ論文に書かれているもので再現性の低いものなんていくらでもあるし、人ごとに再現性のばらつきがあってもアランや私が魔力付与を使ったように個人ベースで使えることはあるので、再現性が低いからといって必ずしも全否定される訳では無い。
次に "先行研究の有無" だ。むしろこっちの方が気をつけないとまずい。先行研究とは、読んで字のごとく既に世間に公表されている研究結果のことだ。自分が研究を始める際は、これがあるかどうか徹底的に調べなくてはならない。なぜなら、もし自分の研究と同じような先行研究が見つかったら、自分の研究成果は実質パクりとなり全て無駄になりかねないからである。
実際、前世の理科部の先輩がやった研究が全国レベルで表彰されたことがあったのだが、後から同じような研究が発覚するとその賞は剥奪されてしまった。だが剥奪されただけで済んだのはまだいい方で、例えば企業間でこんなことが起こると訴訟される可能性すらある。
"科学者" や "研究者" というと俗世から離れてやりたい実験を好き勝手やっているイメージがあるかも知れないが、実態は案外世知辛いのである。
こういうことを踏まえると、私が魔術大会で披露した魔法の数々はお世辞にも"科学的" "研究的"とは言えない。ただ元々あるものを自分が使えるように還元しているだけなので、おばあちゃんの知恵袋とかそっちの方が近いかもしれない。
ダラダラ説明してしまったが、まあそういうことだ。
「なるほど、確かにそう言われるとそうかもしれません。凄いですねカナさんは、まるでずっと前から研究してたみたいです!」
「ハハ……」
まあ大学ではまだ研究室には入っていなかったので高校の部活で研究の真似事をしていた以外はやっていなかったのだが、当たらずとも遠からずな発言に少しギクッとする。
「それじゃあ、次は"幻影"と水の剣について教えて!」
「うん。えっと……」
―――――――――
正直"幻影"と〘水惑刀〙の話は言って伝わるか心配だったのだが、かなりの部分を理解して貰えた。さすが魔法研究部といったところか。
「色々聞かせてくれてありがとうございます!すみません、質問攻めにしちゃって」
「いえ、私も色々話せて楽しかったです。ところで、私は今後何をすればいいでしょう?」
「ああそうだった、お話聞くのに夢中で説明するのをすっかり忘れてました!とはいってもこの部活、基本は個人で実験したり研究したりしているので、もしやりたいことが決まっていれば自由にどんどんやってもらって大丈夫ですよ。そうでなければ、まずは簡単な実験を色々やって慣れてもらう感じでしょうか」
「なるほど…」
一応現時点でいくらかやりたいことは考えてある。1つ目は魔石や畜陣石、ミスリルやオリハルコンといった前世になかった材料の性質の確認、2つ目は前世の科学を使った新たな技術の開発、そして3つ目はあの中年男が使っていた力の正体の解明である。
「...…やりたいことはあるんですが、とりあえず実験器具の使い方とか色々確認したいので簡単なものからやりたいです」
「わかりました、じゃあ準備しますね!」
――――――――――――
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