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魔術大会

第39話 閉会式

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「じゃあ皆さん、午前は自由行動ですが午後から閉会式なので、それまでには戻ってきてくださいね」

日付も変わり、今日は魔術大会7日目、つまり大会最終日だ。長かったような短かったようなこの大イベントも終わりを迎える。

本来なら一仕事終えてスッキリするところなのだが、私はむしろ気がかりなことが増えてしまった。

まず雑音と共に見えたゲーム画面の内容。これはジークの父親である騎士団長とのコンタクトで何か進展があることを祈る。

そして昨日見た不審な中年男。あれは絶対ただの不審者ではない。

そもそも彼からは魔力が感じ取れなかったのだが、こうなる可能性は大きく3つ。

魔力を何らかの理由・手段で隠しているか、そもそも人間では無いか、魔法の代わりに呪法を使う呪法師か、だ。

呪法というのは魔素の代わりに呪素というものをエネルギー源にするもので、名前は似ているし発動のメカニズムも近いが、その用途は全く違う。

呪法でやることと言うと、疫病の病原菌を作ったり、特定人物を呪いにかけて殺したり、死者をゾンビにしたりなどだ。一般的なファンタジー作品の闇魔法に近い。

ちなみにリアムール王国は呪法の使用を法律で禁止しているが、一部の犯罪者にその力は確実に受け継がれている。

そして呪素や呪力は魔力視では見えないので、奴が呪法師である可能性が浮上するという訳だ。

そういう訳で、可能性のうちのいずれの場合にしても、ただのそこら辺のおじさんでないことは明確だ。

そもそも、あとをつける私の気配を気取ったり、私の魔法を消したり、"あんたを外しておいて正解だった"などと意味深長なことを言ったりしている時点で怪しさ満点だ。そしてこれは勘でしかないが、奴もジークの身に起こる"何か"に関わりがあるのではないかと思う。

私はあのとき制服を着ていたので、この学院の生徒であることはわかるはずだ。そしてそれ以前に、"あんたを外しておいて正解だった"というセリフから、私のことを何らかの手段で知り、何らかの選定にかけた結果外したということになる。状況からして、奴は魔術大会で戦っている様子を見て判断を下したと考えるのが妥当だろう。

もう少し考えられることもありそうだが、あんまり決めつけて話を進めるには情報が足りないので、とりあえずあの後すぐにあった出来事と今の考察をジークに関してだけ伏せてクラス担任の先生に報告した。するとどうやら学院の方で調査してくれるらしい。

まあ、私が動いたところでどうにもなりそうにないし、昨日屋台巡り中に置き去りにしてしまったジークの機嫌を余計に損ねそうなので、ここはプロに任せておこう。

――――――――――

「えーこの度は魔術大会の閉会式へお招き頂き…」

午前中はダラダラ過ごし、午後になって今は閉会式の最中だ。いろんなところのお偉いさんがスピーチをしている。魔術大会の代表ともなると将来有望な生徒も多いので、視察やスカウト目的で来る人も多いのだ。ちなみに祝辞を言う人以外は学校関係者しかおらず、試合のときとは打って変わって粛々とした雰囲気だ。

――――

「続きまして、表彰を行ないます。まずは1年生の部。」

 表彰では各入賞者にメダルが授与され、それに加えて総合成績1位、つまり総合優勝のクラスにはトロフィーが送られる。

「団体戦、3位B組、2位H組、そして1位A組の代表者、前へ」

B組ランドルト、H組ベークマン、A組からはアランが前に出る。私は何となくベークマンに見つからないようにジークの影に隠れる。

「おめでとうございます」

それぞれの首にメダルがかけられる。代表者以外も後で貰えるそうだ。

「続いて個人戦、3位B組ラクア・リアムール、2位A組カナ・ベルナール、1位A組ジーク・ロバン、前へ」

団体戦もそうだが、3位決定戦では両方B組のランドルト達とラクアが勝ったらしい。

「おめでとうございます」

私たちにもメダルがかけられる。私の首元には銀メダルが光っている。

「そして最後に総合成績が210点で3位のH組、230点で2位のB組、330点で1位のA組の代表者、前へ」

結果だけ見れば、A組は結構ぶっちぎりで1位だった。私個人としてはかなり満身創痍だったが。

代表はジークがやるだろうと思いボーッと立っていると、ジークが耳打ちしてきた。

「カナ!前でなよ!」

「え、でも獲得点数的にはジークの方が多い……」

「いいから!」

そういって背中を押してくるので、そのまま私は前に出る。

「おめでとうございます」

今度は金メダルとトロフィーが渡される。

「それでは総合優勝のA組代表者カナ・ベルナールさん、一言お願いします」

え、一言?特に事前に知らされてはいなかったので少しまごつく。

「……この度は、1年生の部で総合優勝できたことを非常に嬉しく思います。この成功体験を糧に、更なる高みへと行けるように、これからも日々精進していきたいと思います。」

パチパチパチパチ……

会場全体から拍手が起こる。まあ、変なことは言っていないだろう。
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