38 / 115
魔術大会
第38話 大会6日目:午後②
しおりを挟む
再び2人で屋台の通りを練り歩く。周りを見渡してはたまに先程買ったブレスレットに目線を移す。
「良かったね!」
「え?あ、うん。」
その様子をジークに見られていた。少し恥ずかしい。しかしジークはまた随分と嬉しそうである。
「あ、そういえば」
「ん?なに?」
「ジークのお父様にお会いしたいんだけど」
"何か"が起こる前の今の段階で騎士団長が何か知っているかは分からないが、あのゲーム画面に関する唯一の手がかりになので1度会っておきたい。
「……へ?……あ、うん大丈夫だと思うよ!……ちなみになんで会いたいの?」
随分と歯切れが悪い返事だが、何か言ってはいけないことでも言ってしまっただろうか。
「騎士団の仕事に興味があって、ちょっとでもお話聞けたらいいなと」
目的をそのまま言う訳にもいかないので、あらかじめ考えておいた理由を伝える。
「え、あ、そういう事ね!」
「厳しいなら無理にとは言わないけど……」
「ううん、そんなことないよ!でもお父さん忙しいから、今すぐにとはいかないかも……」
「ああ、それは大丈夫。もし出来たら年内でお願いしたいけど」
私が考えた嘘の理由だと、事件や事故については聞きやすいが、その代わり緊急性を持たせることが出来ない。"今すぐ職場体験に行かないと大変なことになるんです!"とか言ったら不自然さ満載だ。厳密にはもう今の時期に"何か"があってもおかしくは無いのだが、そもそも私の杞憂に終わる可能性もあるのに極端に急かすことは出来ない。
「あ、それくらいなら大丈夫だと思う!お父さんに聞いておくね!」
「ありがとう、助かるよ。」
これでとりあえず騎士団長とコンタクトは取れそうだ。あと出来そうなことは特にない。
――――――
しかし、改めて周囲を見渡すととても沢山の人がここに集まっている。私は何となくここの人たちの魔力がどんなものかと魔力視で見てみる。魔力視を使うと人の魔力量が大まかにだがわかるのだ。
するといろんな色の魔力が可視化される。カラフルで綺麗だなどと考えていると、1人明らかに異質な人を見つけた。恐らく魔術学院の関係者ではなさそうな、ボサボサの黒髪で黒いローブを羽織った中年男なのだが、魔力が一切見えないのだ。
この世界の人間は全員必ず魔力を持っている。魔法が使えない人も稀にいるが、そういう人でも魔法を使えるほどの魔力が無いというだけで、少なからず魔力は持っているのだ。
しかし、件の男は魔力が微塵も見えない、0の状態なのだ。いったいどういう…
と考えているうちにその男が行ってしまいそうだった。
「ごめんジーク、ちょっとここで待ってて」
「え、どこ行くの!!」
魔力が無いのはもしや…と気になってその男を追いかける。
しばらく着いていくと、人気のない校舎裏についた。ここまで見失わずに来たつもりだが、あの男の姿はない。一体どこへ…
「後をつけるのはあんまりいいこととは言えねぇな、嬢ちゃん?」
「っ…!!」
突然後ろから声がした。瞬時に声の方へ向き直る。するとボサボサ頭に、無精髭を生やしたあの男が立っていた。いつの間に背後にまわったのだろうか。
魔力視は使ったままだったが魔力の痕跡はないし、この男は魔力が無いはずだ。魔法で潜伏していたわけではない。気の抜けるような話し方をしているが、話の端々に殺気の様なものを感じる。極度に緊張する。こいつ、只者では無い。
「美人に睨みつけられるのは悪かねぇが、ちょいと酷すぎやしねぇかい?」
「………」
半ば反射的に、男の頭上に魔法陣を展開する。
「へへっ、とことんあっしは嫌われてるねぇ。だが、やめておいた方がいい。」
パチンッ!
男が指を鳴らすと、魔法陣が消えた。……どうなっている?訳が分からない。
「しかしまあ、詰めが甘いとはいえあっしを見失わず付いてくるたあ大したもんでさあ。やっぱあんたを外しておいて正解だった」
外す……?何から?
「おっと、話すぎやしたね。じゃああっしはこの辺で失礼しやすぜ」
そういうと男は私の目の前から音もなく消えた。
「良かったね!」
「え?あ、うん。」
その様子をジークに見られていた。少し恥ずかしい。しかしジークはまた随分と嬉しそうである。
「あ、そういえば」
「ん?なに?」
「ジークのお父様にお会いしたいんだけど」
"何か"が起こる前の今の段階で騎士団長が何か知っているかは分からないが、あのゲーム画面に関する唯一の手がかりになので1度会っておきたい。
「……へ?……あ、うん大丈夫だと思うよ!……ちなみになんで会いたいの?」
随分と歯切れが悪い返事だが、何か言ってはいけないことでも言ってしまっただろうか。
「騎士団の仕事に興味があって、ちょっとでもお話聞けたらいいなと」
目的をそのまま言う訳にもいかないので、あらかじめ考えておいた理由を伝える。
「え、あ、そういう事ね!」
「厳しいなら無理にとは言わないけど……」
「ううん、そんなことないよ!でもお父さん忙しいから、今すぐにとはいかないかも……」
「ああ、それは大丈夫。もし出来たら年内でお願いしたいけど」
私が考えた嘘の理由だと、事件や事故については聞きやすいが、その代わり緊急性を持たせることが出来ない。"今すぐ職場体験に行かないと大変なことになるんです!"とか言ったら不自然さ満載だ。厳密にはもう今の時期に"何か"があってもおかしくは無いのだが、そもそも私の杞憂に終わる可能性もあるのに極端に急かすことは出来ない。
「あ、それくらいなら大丈夫だと思う!お父さんに聞いておくね!」
「ありがとう、助かるよ。」
これでとりあえず騎士団長とコンタクトは取れそうだ。あと出来そうなことは特にない。
――――――
しかし、改めて周囲を見渡すととても沢山の人がここに集まっている。私は何となくここの人たちの魔力がどんなものかと魔力視で見てみる。魔力視を使うと人の魔力量が大まかにだがわかるのだ。
するといろんな色の魔力が可視化される。カラフルで綺麗だなどと考えていると、1人明らかに異質な人を見つけた。恐らく魔術学院の関係者ではなさそうな、ボサボサの黒髪で黒いローブを羽織った中年男なのだが、魔力が一切見えないのだ。
この世界の人間は全員必ず魔力を持っている。魔法が使えない人も稀にいるが、そういう人でも魔法を使えるほどの魔力が無いというだけで、少なからず魔力は持っているのだ。
しかし、件の男は魔力が微塵も見えない、0の状態なのだ。いったいどういう…
と考えているうちにその男が行ってしまいそうだった。
「ごめんジーク、ちょっとここで待ってて」
「え、どこ行くの!!」
魔力が無いのはもしや…と気になってその男を追いかける。
しばらく着いていくと、人気のない校舎裏についた。ここまで見失わずに来たつもりだが、あの男の姿はない。一体どこへ…
「後をつけるのはあんまりいいこととは言えねぇな、嬢ちゃん?」
「っ…!!」
突然後ろから声がした。瞬時に声の方へ向き直る。するとボサボサ頭に、無精髭を生やしたあの男が立っていた。いつの間に背後にまわったのだろうか。
魔力視は使ったままだったが魔力の痕跡はないし、この男は魔力が無いはずだ。魔法で潜伏していたわけではない。気の抜けるような話し方をしているが、話の端々に殺気の様なものを感じる。極度に緊張する。こいつ、只者では無い。
「美人に睨みつけられるのは悪かねぇが、ちょいと酷すぎやしねぇかい?」
「………」
半ば反射的に、男の頭上に魔法陣を展開する。
「へへっ、とことんあっしは嫌われてるねぇ。だが、やめておいた方がいい。」
パチンッ!
男が指を鳴らすと、魔法陣が消えた。……どうなっている?訳が分からない。
「しかしまあ、詰めが甘いとはいえあっしを見失わず付いてくるたあ大したもんでさあ。やっぱあんたを外しておいて正解だった」
外す……?何から?
「おっと、話すぎやしたね。じゃああっしはこの辺で失礼しやすぜ」
そういうと男は私の目の前から音もなく消えた。
168
お気に入りに追加
691
あなたにおすすめの小説

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜
ネリムZ
ファンタジー
唐突にギルドマスターから宣言される言葉。
「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」
理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。
様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。
そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。
モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。
行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。
俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。
そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。
新たな目標、新たな仲間と環境。
信念を持って行動する、一人の男の物語。

僕と精霊 〜魔法と科学と宝石の輝き〜
一般人
ファンタジー
人類が魔法と科学の力を発見して数万年。それぞれの力を持つ者同士の思想の衝突で起きた長き時に渡る戦争、『発展戦争』。そんな戦争の休戦から早100年。魔法軍の国に住む高校生ジャン・バーンは精霊カーバンクルのパンプと出会いと共に両国の歪みに巻き込まれていく。

元勇者、魔王の娘を育てる~血の繋がらない父と娘が過ごす日々~
雪野湯
ファンタジー
勇者ジルドランは少年勇者に称号を奪われ、一介の戦士となり辺境へと飛ばされた。
新たな勤務地へ向かう途中、赤子を守り戦う女性と遭遇。
助けに入るのだが、女性は命を落としてしまう。
彼女の死の間際に、彼は赤子を託されて事情を知る。
『魔王は殺され、新たな魔王となった者が魔王の血筋を粛清している』と。
女性が守ろうとしていた赤子は魔王の血筋――魔王の娘。
この赤子に頼れるものはなく、守ってやれるのは元勇者のジルドランのみ。
だから彼は、赤子を守ると決めて娘として迎え入れた。
ジルドランは赤子を守るために、人間と魔族が共存する村があるという噂を頼ってそこへ向かう。
噂は本当であり両種族が共存する村はあったのだが――その村は村でありながら軍事力は一国家並みと異様。
その資金源も目的もわからない。
不審に思いつつも、頼る場所のない彼はこの村の一員となった。
その村で彼は子育てに苦労しながらも、それに楽しさを重ねて毎日を過ごす。
だが、ジルドランは人間。娘は魔族。
血が繋がっていないことは明白。
いずれ真実を娘に伝えなければならない、王族の血を引く魔王の娘であることを。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

150年後の敵国に転生した大将軍
mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。
ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。
彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。
それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。
『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。
他サイトでも公開しています。


集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる