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1.栞と渚

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「お前ってほんと不器用だよな、渚」

光彦はいつもと同じ口調で俺にそう言った。
光彦とは幼馴染で高校2年の今もずっと仲がいい。いつも頼りない自分を助けてくれる面倒見の良さには本当に頭が上がらない。

「それなりにやってるつもりだよ」

言われ慣れた言葉に、捨て台詞を残して教室を出た。

「おい、今日一緒に帰らないのかよ」

「あー、今日ちょっと寄るとこあるから先帰ってて」

俺はそう言うと、バレないぐらいの早歩きでその場を後にした。

「どーせしおりだろ…」

渚が見えなくなるまで、光彦はその言葉を呟いたりはしなかった。外は少し暑かった。
〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎
栞は違うクラスの女子だった。真面目でしっかり者。背は俺とさほど変わらず、少しドジだが人に流されたりせず、自分を持っている。そして俺と会った時、いつもこう言う。

「あれ、光彦君と一緒じゃないんだ。」

「あいつは、ほっといていいんだよ」

「でも、いっつも2人一緒にいるよね」

「そーか?まぁ面倒見てもらってるって感じかな」

「なにそれ笑」

こんな会話を飽きずにいつもしている。栞とはたまに放課後コソッと会って、ゆっくり歩きながら学校を出て、帰り道の途中にある自販機でジュースを買い、公園でジュースを飲みながら日が暮れるまでダラダラと他愛のない話をしていた。

「ねぇ、今度の日曜日カラオケ行かない?」

「えー、俺歌うの苦手なんだけどなぁ」

「いいじゃん、12時前に駅に集合ね」

「昼も食うの?」

「当たり前でしょ、じゃーね」

そう言うと、栞はすぐに帰ろうとした。口調は落ち着いていたが階段でこけかけた。今さらになって気づいたが、あの時の栞は本当に勇気を出して言ったのだと思う。

(意外とバカだよなー、あいつ)

何も知らない俺はというと、ただひたすらにオレンジ色の空を眺めて、心の中で喜びを噛み締めていた。





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