上 下
23 / 31

23

しおりを挟む

 「タイムリミットは明日ってことだね。」
 私の声は震えていた。
 「一緒に考えよう」
 蓮が寄り添ってくれる。
 
 どうしよう。決められるかな。でも決めるしかない。決められなくて、何となくで残ったら、きっと、ずっと後悔する。と、一生懸命考えていると、

 「そこまで時間はないかも。」
 と、瑠奏が言った。

 泣きそうになりながら瑠奏を見ると、どうも手を広げて大きさを体で測っているようだ。

 「今、この時間だけでも、少しずつ小さくなってる。人魂は夜に現れる。実際、私達が来てすぐにはなかったし、それは間違いないと思う。正確に測れないから目分量だけど、もしも、この縮小が、見えない時間も進んでいるんだとしたら、明日の夜には現れないかもしれない。」

 「え?てことは何?今ここで決めなくちゃいけないの?帰るか残るかを?」
 「うん。」

 足がガクガク震えている。
 むしろ全身が震えている。

 どうしよう。どうしたらいい?
 帰る?残る?もう、ゆっくり考える時間はない。この機を逃したら帰れない。

 「私達は何も言わない。これは陽葵が自分で決めないと。その決断を私達は尊重する。」
 今まで見たことのない強い目線で瑠奏が私を見る。蓮くんを見ると、蓮くんも頷いた。

 どうしたら良いのかわからない。どうするのが良いのかわからない。でも、どうしたいかなら、

 「……ごめん。私、帰る。ね。」

 そう、呟いた。

 そして、一気に捲し立てる。
 「ごめん。蓮くんと一緒に居るって言ったのに、帰れなくなるって思ったら怖くて仕方ないの。私の家族が、あっちの瑠奏が泣いてるのを思ったら、私の大切な人はこの亀裂の向こうに居るんだって、実感が湧いてきたの。ごめん。帰る。」
 「瑠奏も、ごめん。こんな風に、協力させて、無責任に混乱させてごめん。会えて、すっごい嬉しかった。心強かったのは瑠奏が、親友の瑠奏が来てくれたから、いつも助けてくれてありがとうって思ってる。」
 
 瑠奏は笑って答えてくれた。
 「ううん。私も会えて良かった。私ね、最後に陽葵に嘘をついちゃったんだ。部活だからって、別れたの。あれが最後にならなくて良かった。こっちの陽葵と、あなたは同じ思考なんでしょ?じゃあ、陽葵の本当の気持ちを知ることができたのはあなたのおかげ。元気でね。こっちの陽葵の分も、長生きしてね。」

 笑いながら泣いている瑠奏が、瑠奏らしいと心から思った。


 そして、私は、亀裂に手を伸ばした。

 その手に、蓮くんが手を重ねてきた。

 「え?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

囚われた姫

彩柚月
児童書・童話
 私は自由。いろんな場所へ行って、いろんな物を見る。  この広い世界で、ひと所に留まるなんて勿体無い。  いつか、全ての場所へ行き尽くすまで、私は飛び回る。  

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

処理中です...