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 蓮に言われた通り、お風呂に入ることにした。トイレと一緒になっているユニットバスで、小さいけれど、湯船もある。タオルも着替えの浴衣みたいなのも置いてあった。下着の替えがないのは困ったけれど、仕方ない。

 お湯を溜めて浸かると、何だかホッとした。お湯の温かさで、気持ちが落ち着いてくる。

 なんだろう。どうして、私はここでお風呂に入っているんだろう。蓮はなんて言っていったっけ?陽葵は死んだ?え?じゃあ私は何?ていうか、どうして蓮が生きているの?蓮こそ死んだんじゃ?あれ?そうだ。蓮は言ってた。おかしい状況に私が混乱しているって。現実逃避しているとも言ってた。現実は、蓮は死んだはず。じゃあさっきの蓮は?夢を見ていた?どっちが夢?

 同じことを何度も何度もループする考えに、訳がわからない。どうしようもない不安が押し寄せてきた。

 お風呂から出て、流れ作業のように、テーブルを端に寄せて、隅に畳んであった布団を敷いて、横になった。

 「夢なら、寝で起きれば現実に戻っているはず。」

 そう。私は疲れている。疲れた時は寝るのがいちばん。思考を放棄した私は寝た。

 


 「…まりちゃん!陽葵ちゃん!」
 
 起こされた。目覚めると知らない天井。ムクッと起き上がると、蓮が居た。

 少し寝たからか、妙にスッキリして、思考がはっきりしてきた。

 やっと、現実が見えてきた。
 「おかえり。今何時?」
 「陽葵らしいな。」
 何となく安堵したような顔で笑う蓮を見て、落ち着いて、よく考えなくてはという蓮の言った言葉が理解できた。

 この状態はおかしい。

 「ねえ。どうして生きてるの?」
 
 「うん。改めてその話をしようか。」


 布団を片付けて、もう一度テーブルを出して、備え付けのお茶を淹れる。蓮はコンビニで色々買ってきてくれたようで、おにぎりとか惣菜を並べてくれた。そう言えばお腹が空いているような気がしないでもない。

 「親には友達のところに泊まるって言ってきたから、ゆっくり話せるよ。」
 「うん。わかった。」

 食べ物を摘んでいると、
 「じゃあ、思い返すところから。お寺で僕と会う直前、何をしてたの?」
 「えっと、確か……もぐもぐ。」
 「あ、ごめん。食べてる間に先に僕の方から話すよ。」
 「うん。そうして。」

 夕方、私と会って、別れた後、夜に陽葵が死んだと聞かされた。信じられなくて、悲しくて、最後に会ったお寺の遊び場に向かったら私が居たと、蓮は言った。

 「私も、そんな感じ、かなあ。ものすごく悲しくて、いっぱい泣いて。こんなことになるなら好きって言えば良かったって思った。」
 「え?」
 「なんでもない!」
 あの時、もう一度会えるなら、好きって伝えようと思ったはずなのに、こうして本人を目の前にすると、やっぱり恥ずかしい。

 「どういうことなのかなあ。これから、私、どうしたら良いんだろう。」
 「ものすごく、荒唐無稽な話なんだけど、僕の仮説を聞いてもらえるかな。」
 「今は何でも信じるよ。死んだ人が生きてたし、生きてる私が死んでるって聞かされたんだもん。」

 「そうだね。」
 笑ってから真面目な顔になって、
 「パラレル・シフトって知ってる?」
 と、言った。



 
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