僕がどこにいても、君をいちばん愛してる

彩柚月

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 連れて行かれたのは、お寺から5分ほど歩いたところにある、古い民家だと思いこんでいた建物だった。看板も何も無い。

 「ここ、民宿だったんだ。」
 「うん。まあ、こんな見てくれだから、知らない人も多いし、そういう目的で使われることが多いのも否定しないけど。」
 「そういう目的?」
 「男と女の、ね。」
 
 「あ、そういう……。え、そんなところに入るの!?」
 「我慢して。それっぽくない部屋だし、今はどうしようもないから。」
 
 コンコンと扉をノックすると、扉が開いて、疲れたオヤジみたいなオジさんが「2階の通り側な。」と蓮に言っていた。

 それから私を見て、
 「一応、言っておくが、不純異性交友は推奨してないから、そういうことはするなよ。」
 「しないよ!そんなんじゃないから!でも、ここに来たことは言わないで。後でちゃんと説明するからさ。」

 「ふうん。ま、良いけどな。」

 私が口を挟む暇もなく、話が進んでいく。チラッと見渡した玄関に、何かを乗せるような、木で組み合わせた台があった。よくボールとか乗せてそうなその形なのに何も乗せてないなんてどこか不自然だなあと思っていると、話が終わったらしく、オジサンは奥へ消えて行った。意味がわからないと思いながら、れんについて、部屋に入った。

 
 蓮の言った通り、部屋は普通のくたびれた和室だった。いや、むしろ、広くて趣がある、と言えなくもない……かも?

 「さて。座って話そう。」
 と、蓮は、隅に積んであった座布団をひいて、まず自分が座った。

 私もひいてくれた座布団に座って、小さいテーブルを挟んだ蓮の向かい側に座る。

 「ごめん。僕、時間があんまりないんだ。だからサクサク話そう。」
 「うん。」
 そう言われて蓮を見た。蓮は困惑しているような顔をしている。そして
 「……なんか、おかしな気分になってきた。」
 と、言った。

 「おかしな気分って、やらしい。」
 「違うって。本当に陽葵そっくりだと思って。」
 「そっくりって何なの。私は陽葵だもの。変なこと言わないで。」
 「うん。そうなんだろうね。僕も仮説はあるんだけど、いまいち考えが纏まらなくて。」
 「何よ。はっきりしないわね。」
 「そういう陽葵だって、あ、呼び捨てはまずいかな。陽葵ちゃんって呼んで良いかな?」
 「え、うん。」
 「じゃあそうするね。陽葵ちゃんだって、大混乱して、現状がおかしいってことからも現実逃避してないか?でも、やっぱり、頭の何処かでおかしいことにも気付いてるから、僕についてきたんじゃない?」
 「おかしい?」
 「陽葵は死んでるはずなんだ。」
 「生きてるわ。」
 「そのことだけど、」
 LIN ……LIN ……LIN……

  LINの音がした。蓮は私に断ってからスマホを取って通話をする。
 「はい。……うん、うん。わかった。暗いし迎えに行くからひとりで外に出ないで。……いいから。そんなん気にすんな。……大丈夫。すぐ行くから。」
 
 蓮は通話を終えて私を見る。
 「今の、瑠奏からだよ。今から陽葵の通夜に行くんだ。」
 「え?」
 「なるべか早く戻ってくるから、ここに居て。外に出ないでね。あ、お風呂とか入っておいて。食べ物は……どうにかするから。」

 私の頭は大混乱していた。

 「少しだけ独りにしちゃうけど、僕も考えを纏めたいし、陽葵ちゃんも落ち着いて、状況を整理してみて。いい?必ず戻ってくるから、大人しくここで待ってて。」

 そう言って、蓮は出て行った。


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