上 下
3 / 31

3 気になるアイツ

しおりを挟む

 —キィ……パタン……カシャン…

 音で目覚めた陽葵ひまりは、眠い目を擦りながら、窓から隣の、玄関辺りを眼下に眺める。蓮が自転車に乗って家を出るところだった。

 サッカー部の朝練があるので、蓮の朝は早い。

 (早朝からようやるわ。)

 時計を見ると、もう一眠りできそうな時間。布団に潜り込んで目を瞑るが、何かに苛ついてもう眠れない。仕方がないので、のそのそと起きて制服に着替える。

 着替え終わった頃に、階下から母の呼ぶ声が聞こえた。
 「陽葵ー!朝ごはん食べちゃいなさい!」
 「はぁーい。」
間延びした返事をしてから、階段を降りていく。

 「あら、今日は(後10分~)がなかったわね。」
 と、母が笑いながら嫌味を言う。

 「私だってたまには起きるわよ。」
 「毎日起きて欲しいわ。蓮くんはもう行ったのよ。」
 「蓮は朝練があるから早いだけじゃん。」
 「陽葵は朝練があっても起きられなくて行けないじゃない。」
 「むぅ……。」
 「蓮くんは部活やってて成績もいいのにねえ。」

 この母親からの信頼のなさ。積み上げてきた信頼のなさだとはわかっているが、なんか面白くない。

 「なんか面白くない。」
 「面白くないことを言っているもの。」

 ぷぅっとむくれると、父が、
 「陽葵は元気が取り柄だもんな。むくれてると可愛くないぞー」
 「元気だけしか取り柄がないみたいじゃん。」
 「はは、バレたか。」
 「むぅー」

 


 学校へ着いてからも、瑠奏るかな
 「今日早いんだねー」
 と、言われる。
 
 「もー朝からそればっかりら言われるよ。私が早いと槍でも降りそうな言い方されるのは心外すぎる。」
 「あはは、そのくらいお寝坊キャラが定着しちゃってるってことだね。」
 「瑠奏までそんなこと言う。良いもん明日からもう絶対早く起きない。」
 「いやいや。そんなこと言わずに。ちょっと早く起きてくれたら、一緒に登校できるじゃん。」
 「瑠奏が私に合わせようとは思ってくれないワケ?」
 「遅刻寸前で毎日走るとか無理!」
 
 そんな軽口を言いながら、いつもの教室の風景に溶け込んでいく私達。

 チラッと見ると、蓮は既に朝練を終えたのか、制服でクラスメイトと談笑している。

 ふと、蓮がこちらを向いて目が合った気がして、慌てて視線を逸らす。

 気になりだすと、もうダメだ。今までどうやって過ごしていたんだろう。気付けば蓮を見ている自分が居る。そして気付いた。蓮もちょいちょい私を見てる気がする。だって、よく目が合うんだもの。
 
 「自意識過剰かな?」
 「ううん。蓮くんは、よく陽葵のこと見てると思う。」
 「え?そうなの?知ってたの?」
 「うん。ほら、小6の運動会の後かな。綱引きの綱を片付けた時にさ。」
 「ああ、手が擦りむけたヤツ。」
 「そうそう。」

 綱引きの縄というのは、見た目よりも随分重い。50キロほどあると聞いた。クルクル片付けるヤツがなかったうちの小学校は、剥き出しで体育倉庫に片付けるため、体育委員所属の生徒が何人もで、協力して運んでいた。

 その時、陽葵も体育委員で、縄を運んでいたのだが、なんの拍子か、縄が引っ張られ、手を離し損ねた私の手のひらは盛大にズルむけた。おまけに引っ張られた勢いに任せてバランスを崩し、縄は一応、グルグル円形に巻いてあったので、縄の中心には地面が広がっており、そこに顔から突っ込んだ上に、支えを失った縄が私の体の上に被さってきた。

よく考えたら大事故である。体中あちこちに擦り傷を作り、保健室に行ったところまでは覚えているが、次に目が覚めたら病院に居た。怪我による発熱もあって、大怪我だったらしい。

 「痛かったんだよねえ。あれ。コケたすぐはそうでもなかったんだけど、2.3日してからが、すっごいヒリヒリするの。」
 
 「大変だったねえ。」
 「うん。お見舞い来てくれた瑠奏には感謝だよ。ひとりだと気が逸れなくて痛さが増すの。」
 「手、グルグル巻きだったしね。」
 「そうだよ。寝返りでガーゼ剥がれちゃうからって、私の周り、クッションみたいなので囲まれて身動きも取れないし。」

 嫌な思い出が蘇る。背中が痒くてもかけなくて、地獄のような入院生活だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

囚われた姫

彩柚月
児童書・童話
 私は自由。いろんな場所へ行って、いろんな物を見る。  この広い世界で、ひと所に留まるなんて勿体無い。  いつか、全ての場所へ行き尽くすまで、私は飛び回る。  

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

ぬいぐるみと家族の思い出

きんばら いつき
児童書・童話
まんまるなぬいぐるみから見た、ある家族の思い出です。 少しほっこりするお話がメインです。

処理中です...