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3 気になるアイツ
しおりを挟む—キィ……パタン……カシャン…
音で目覚めた陽葵は、眠い目を擦りながら、窓から隣の、玄関辺りを眼下に眺める。蓮が自転車に乗って家を出るところだった。
サッカー部の朝練があるので、蓮の朝は早い。
(早朝からようやるわ。)
時計を見ると、もう一眠りできそうな時間。布団に潜り込んで目を瞑るが、何かに苛ついてもう眠れない。仕方がないので、のそのそと起きて制服に着替える。
着替え終わった頃に、階下から母の呼ぶ声が聞こえた。
「陽葵ー!朝ごはん食べちゃいなさい!」
「はぁーい。」
間延びした返事をしてから、階段を降りていく。
「あら、今日は(後10分~)がなかったわね。」
と、母が笑いながら嫌味を言う。
「私だってたまには起きるわよ。」
「毎日起きて欲しいわ。蓮くんはもう行ったのよ。」
「蓮は朝練があるから早いだけじゃん。」
「陽葵は朝練があっても起きられなくて行けないじゃない。」
「むぅ……。」
「蓮くんは部活やってて成績もいいのにねえ。」
この母親からの信頼のなさ。積み上げてきた信頼のなさだとはわかっているが、なんか面白くない。
「なんか面白くない。」
「面白くないことを言っているもの。」
ぷぅっとむくれると、父が、
「陽葵は元気が取り柄だもんな。むくれてると可愛くないぞー」
「元気だけしか取り柄がないみたいじゃん。」
「はは、バレたか。」
「むぅー」
学校へ着いてからも、瑠奏に
「今日早いんだねー」
と、言われる。
「もー朝からそればっかりら言われるよ。私が早いと槍でも降りそうな言い方されるのは心外すぎる。」
「あはは、そのくらいお寝坊キャラが定着しちゃってるってことだね。」
「瑠奏までそんなこと言う。良いもん明日からもう絶対早く起きない。」
「いやいや。そんなこと言わずに。ちょっと早く起きてくれたら、一緒に登校できるじゃん。」
「瑠奏が私に合わせようとは思ってくれないワケ?」
「遅刻寸前で毎日走るとか無理!」
そんな軽口を言いながら、いつもの教室の風景に溶け込んでいく私達。
チラッと見ると、蓮は既に朝練を終えたのか、制服でクラスメイトと談笑している。
ふと、蓮がこちらを向いて目が合った気がして、慌てて視線を逸らす。
気になりだすと、もうダメだ。今までどうやって過ごしていたんだろう。気付けば蓮を見ている自分が居る。そして気付いた。蓮もちょいちょい私を見てる気がする。だって、よく目が合うんだもの。
「自意識過剰かな?」
「ううん。蓮くんは、よく陽葵のこと見てると思う。」
「え?そうなの?知ってたの?」
「うん。ほら、小6の運動会の後かな。綱引きの綱を片付けた時にさ。」
「ああ、手が擦りむけたヤツ。」
「そうそう。」
綱引きの縄というのは、見た目よりも随分重い。50キロほどあると聞いた。クルクル片付けるヤツがなかったうちの小学校は、剥き出しで体育倉庫に片付けるため、体育委員所属の生徒が何人もで、協力して運んでいた。
その時、陽葵も体育委員で、縄を運んでいたのだが、なんの拍子か、縄が引っ張られ、手を離し損ねた私の手のひらは盛大にズルむけた。おまけに引っ張られた勢いに任せてバランスを崩し、縄は一応、グルグル円形に巻いてあったので、縄の中心には地面が広がっており、そこに顔から突っ込んだ上に、支えを失った縄が私の体の上に被さってきた。
よく考えたら大事故である。体中あちこちに擦り傷を作り、保健室に行ったところまでは覚えているが、次に目が覚めたら病院に居た。怪我による発熱もあって、大怪我だったらしい。
「痛かったんだよねえ。あれ。コケたすぐはそうでもなかったんだけど、2.3日してからが、すっごいヒリヒリするの。」
「大変だったねえ。」
「うん。お見舞い来てくれた瑠奏には感謝だよ。ひとりだと気が逸れなくて痛さが増すの。」
「手、グルグル巻きだったしね。」
「そうだよ。寝返りでガーゼ剥がれちゃうからって、私の周り、クッションみたいなので囲まれて身動きも取れないし。」
嫌な思い出が蘇る。背中が痒くてもかけなくて、地獄のような入院生活だった。
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