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しおりを挟む予想通り、王政側に支援物資をおくった時と同様、うちの領地には何の変化もなかった。
備蓄が随分減ってしまったので、それをどう補填するかを考えるのに忙しくて、その他のことはまるで考えなくなっていた。
風の噂で、シャーロット王女とウィリアム殿下が成婚されたそうだ。婚約の噂を聞かなかったのは、その期間を設けなかったのか、短かったのか。どちらにしても急いだのは、王政の絆を深めるためだろう。
そんなことをぼんやり考えながらも日々は過ぎていく。ふと、思い出して、いつかの珊瑚のペンダントを取り出してみた。
丸く加工された、ピンクの小さな珊瑚が3つ。ただそれだけのペンダント。
「可愛い。お土産屋さんで買ったのかしらね。」
持ち上げてプラプラ揺らして眺めてから、首に付けてみる。鏡に映る自分の首元がほんの少しだけ愛おしい。
「こんなものでも、唯一、他人からもらった装飾品なのよ。」
そう思うと、尚更、このペンダントが愛おしく感じる。
もしもあの時、ウィリアムが私に気安さを持たなかったなら、今頃、レイルと共に戦っていたのかもしれない。恨みと、憎しみと、ほんの少しの切なさ。
何に対しての、それらの感情なのかもわからないまま、
「あの人は今、どんな気持ちでいるのかしらね。」
と呟いてみる。
すぐに頭を振って考えを振り落とした。今更、何を考えても思っても、全ては過去のこと。レイルのこともウィリアムのことも。シャーロット様からも、もう2度と手紙が届くことはないのかもしれない。
心配することに意味はない。私はすべて捨ててきたのだから。もう、彼らのことを心配する権利などない。ただ、遠くから、起こった出来事を噂に聞いて、それを受け入れるだけしか許されていない。
季節が巡り、伯爵領での3度目の春が訪れる。
反乱勢力はますます大きくなっているようで、王政の力は削がれているようだ。
シャーロットへの手紙を書こうとして、躊躇してしまった。もしもこれが反乱勢力にみつかったら、王政と繋がっていると思われて、兄上の努力が無駄になるかもしれない。
「こんなことを考えていたら、レイルと同じね。」
と、やっぱり書くことにした。
「シャーロット様個人への手紙だもの、構わないわ。」
反乱勢力の存在を聞いた頃からそうしていたように、政治的な話は一切せず、シャーロットの心配は体のことのみに留め、季節の景色のことや、自分が元気であることを綴って、一方通行の手紙送る。
返事が届くことを諦めてから、もうずいぶん経つ。くるかも、と期待することすらなくなっていた。
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