婚約解消の理由はあなた

彩柚月

文字の大きさ
上 下
3 / 18

3

しおりを挟む

 内宮で伯爵位の娘というのは、大層目立つらしい。身の程知らずという目で見られていることは知っている。と、同時に、男性には格好の餌のようで、頻繁に声がかかる。爵位の低い、資産もない、婚約者もいない(と、思われている)女など、上手くいけば遊び相手にできる、具合のいい相手ということだろう。

 「可愛いね。熱心に働く君をいつも見ていたよ」
 「お褒めは有り難くいただきます。でも、私は守護対象ではありませんので、見守って頂くわけには参りませんわ。お仕事の邪魔をしてしまって申し訳ありません。」

 「休みはいつ?良いところへ連れて行ってあげるよ。」
 「お誘いは嬉しいのですが、休みは決まっておりませんのでお約束はできませんわ。」

 「いつも質素な君を飾りたいから受け取って欲しい。」
 「私などにつけられては、この装飾品が可哀想です。相応しいお方の元へ行きたがる声が聞こえますわ。」

 と、サラッと躱す術を身につけられたのは収穫だと思っている。


 「まったく。みんな騙されているよなあ。」
 「あら、ウィリアム殿下。ごきげんよう。」

 「ああやっていつも男を手玉に取ってるわけだ。お前、なんて言われてるか知ってる?そこそこ綺麗で頭も良い。だぜ。性格を知らないって幸せだよな。」
 「うるさいですわ。殿下も私などに構われないで民を構って差し上げでくださいな。」
 「お前の中では俺もあいつらと同じ括りなの?」

 わざとらしくがっかりしてみせるウィリアムに、冷たくあしらう、このやり取りを楽しんでいることを悟られないように、表情かおと声を引き締める。
 「当然ですわ。さあさあ、お行きください。」


 たまには夜会に出席する。もちろんシャーロットの付き添いの立場なので、楽しんではいないけれど。

 シャーロットとウィリアムがファーストダンスを披露している。2人は良くお似合いだ。年齢差もちょうど良いし、いつか結ばれるのかもしれない。

 彼らと私の間に年齢差はないのだが、何故か2人は弟と妹のように思えて、微笑ましく思っていた。

 ふいに声をかけられた。
 「レディ、よろしければ一曲お相手願えますか?」
 ダンスのお誘いだ。確かこの方は、若い女性に人気の有力株だったはず。

 理由なくダンスのお誘いを断るのは失礼にあたるけるども、私の最初の相手は決まっている。口約束だけで正式に婚約しているわけではないから、最初に誰の手を取ろうが構わないのだけれど、これは密かな私のルール。

 「光栄ですが、麗しい花達が後ろでお待ちのようですわ。どうか、こんな雑草に惑わされないで。」

 そう言って立ち去ると、レイルに会えた。ダンスをしながら、軽く雑談をして、最後に、
 「体が空いたら会いに行くよ。」
 「ええ、私も手紙を書くわ。」
 と、別れた。

 秘めている恋みたいで心が満たされる。

 と、そこへウィリアムとシャーロットがやってきた。
 「今の誰だよ。」
 開口一番でこう言うウィリアム。こういうやり取りが楽しいと思っているのは事実だが、時と場合は選んで欲しいと思う。
 「殿下に気にしていただくようなことではありませんわ。シャーロット様、お疲れ様でした。他の方と踊られてはいけませんよ。ウィリアム殿下、誘われる前にシャーロット様を席にお連れください。お飲み物を席にお待ちしますわ。」
 「ええ、お願いね。」
 「あ、俺が取ってくるよ。お前が送ってやってくれ。」

 まあ。なんてお優しい。シャーロット様を大事にしているのね。と微笑ましい気持ちで、
 「わかりました。ではお願い致しますね。」

 と、王族の席へ送り届けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

〖完結〗私の事を愛さなくても結構ですが、私の子を冷遇するのは許しません!

藍川みいな
恋愛
「セシディには出て行ってもらう。」 ジオード様はいきなり愛人を連れて来て、いきなり出て行けとおっしゃいました。 それだけではなく、息子のアレクシスを連れて行く事は許さないと… ジオード様はアレクシスが生まれてから一度だって可愛がってくれた事はありませんし、ジオード様が連れて来た愛人が、アレクシスを愛してくれるとは思えません… アレクシスを守る為に、使用人になる事にします! 使用人になったセシディを、愛人は毎日いじめ、ジオードは目の前でアレクシスを叱りつける。 そんな状況から救ってくれたのは、姉のシンディでした。 迎えに来てくれた姉と共に、アレクシスを連れて行く… 「シモーヌは追い出すから、セシディとアレクシスを連れていかないでくれ!!」 はあ!? 旦那様は今更、何を仰っているのでしょう? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。

藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。 「……旦那様、何をしているのですか?」 その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。 そして妹は、 「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と… 旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。 信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

処理中です...