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16 次男様の自宅訪問

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 悪縁を断ち切るべく決意したものの、特に何もすることもない。久しぶりに読書に耽ったり、お母様とお茶を飲む以外、ベッドと寄り添い、ダラダラしていた数日間だった。その甲斐あってか、気管支の症状も良くなり、食事も美味しく頂ける。

 気分良く、悠々自適に過ごす平穏を壊す訪問者がひとり。ゲイル家の次男様が、お見舞いと称してやってきた。

 お父様が応対していたはずが、お呼びがかかったので仕方なく向かう。

 「ごきげんよう。ゲイル家次男様。」

 「ここに座りなさい。」
 お父様に促されて、横に座る。

 「ずいぶん、顔色が良いようで安心しました。お見舞いは預けておいたから後で受け取ってください。」
 「それは、ありがとうございます。」

 まずは当たり障りのない定型分のような挨拶を終わらせると、お父様が本題を切り込んできた。

 「オスカー君に暴力を受けたというのは事実なのか?」

 思わず次男様を見てしまった。隠していたわけではないが、特に報告するほどのこともないと思っていたことを、大事おおごとにされたようないやらしさを覚えてたからだ。

 「はあ……暴力と呼んで良いのかどうか。腕を掴まれて引っ張られただけです。多少強い力ではありましたが。」
 「理由なく力づくで引っ張るのは、押し倒すのと方向が違うだけで歴とした暴力ですよ。」
 次男様が、余計な……いえ、親切に訂正してくれる。
 
 「その際、怒鳴られていたというのは?」
 「いつもと同じで、勤めを嘘だと詰られたのです。」

 「それは聞いていたが、怒鳴るのか?普段から威圧的なのか?それは聞いていなかったぞ?」
 「はい。それは、言うほどのことではないと思っていたので……というか、伝わっているものだと思っていましたし、言われ方が問題になるとは思っていなかったというのが、本当のところでしょうか。」

 「怒鳴ったり、威圧的な態度で相手を萎縮させることは、精神的な暴力ですよ。」
 「その通りだ。どういうことかな。サイラー君。」

 「はい。それが、言い訳にもなってしまうのですが。」
 と、話すことには、家族の前でのオスカーは、大人しく素直で、かつ内向的なのだと言う。

 「内向的、ですか?」

 「そうなんだ。大人しくて気が弱い。私も最近まで、そう思っていた。おまけに、何をやらせても、出来ないほどでもないが優秀でもない。」

 兵士としてやっていけるのかと、家族全員が心配するほど大人しい性格なので、父親のゲイル伯爵も、オスカーはどこか安心できるところに婿に出して可愛がってもらうしかないとの親心で、リリアとの縁談を望んでいるそうだ。

 そんな時に、マリアさんの護衛の話があった。新体制への移行に理解のある家の者が望ましいという陛下の意向と、なるべくマリアさんの環境をおもんばかりたい周囲の配慮と、少しでも自信をつけさせてあげたいと願うゲイル伯爵の思惑が、見事に合致した結果、期間限定であることがわかっているマリアさんの護衛は、社会勉強にちょうど良いと、ねじ込んだのだと言う。

 だから、婚約で採用されたのかと納得する。

 「ふむ。私から見ても、オスカー君は、大人しい青年という印象だしな。」
 「その通りです。誰に聞いても、同じように答えるでしょう。当然、陛下以下、この采配を決めた者達も、同じような印象を持っていたはずです。リリア嬢以外は。」

 次男様は反応を伺うように私を見つめた。

 「リリア嬢との関係を聞いても、それなりに上手くやっていけそうです。と幸せそうに答えるので、すっかり信じてしまっていたのです。」

 「その上、私までもが王宮に、勤めていることをオスカーは知りません。」
 「それは何故ですか?」

 「理由が少しね。オスカーならば、マリア嬢に圧迫感を与えることはないだろうと、配属されたわけですから、実力ではないでしょう?もちろん、オスカーはそのことを知りませんが、私は実力で採用されています。」

 「もしも理由を知ってしまった時に、オスカー君の劣等感を心配したということかな。」
 「その通りです。」

 随分と、甘やかされているのね。それはむしろ不健全なのではないのかしら。


 
 
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