輝く人

彩柚月

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11 お迎え

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 驚いた翁と妻は主上に、女の子を引き留めてくれと頼み、主上は兵を派遣して、また自らも輝夜を迎えに来る者達を退けようと駆けつける。

 月がよく見える、晴れた夜だった。

 急に風が出てきたと思ったら、あっという間に嵐のような暴風になり、ヒラヒラ衣を纏った女達が降りてきた。

 ——矢をかけよ
 ——近づかせるな

 と、主上が叫ぶも、その声は風に掻き消されて届かない。矢を撃つも、風に囚われて一本たりとも届かない。

 迎えにきた先頭の女は、今は母となったテンペスタの女の子。

 「迎えにきましたよ。あの日、私が戻れなかったことで、大変な苦労をかけました。さあ、雷の神が作ってくれた、この羽衣を着て、この水をお飲みなさい。」

 輝夜となったマゴニアの女の子は、
 「ああ、生きていてくれたのですね。良かった。私の罪が許されたのは、あなたが戻ってきたからなのですね。」
 と、喜びの涙を流して、言われた通りに、衣を着て水を飲もうとしたところ、

 主上が、
 ——行かないでくれ!
 と、泣き叫んでいるのが見えた。

 そこで、輝夜は、
 「少しだけ、待っていてください。」
 と、言い、母となった女の子は了承する。
 「私も下で暮らしました。ヒトとの別れも要るでしょう。時間は少しだけですよ。」
 
 輝夜は、翁と妻に言う。
 「よくぞ、私を見つけてくれました。ここまで育ててくれたせめてもの恩に、私の着ていた絹と金は全てあなた方の物です。」

 主上に向かって言う。
 「あなたとの3年間の文通は、とても心安らかになるものでした。あなたを見捨てて行くことだけが、心残りです。私は、ここでのことを全て忘れてしまいますが、それでも、もしも、心を決めることができたなら、これを使って私を探してください。」
 
 そう言うと、水を少しと、渡された羽衣を箱に入れて、主上に投げ渡した。

 「あら。羽衣をあげてしまったの?」
 「約束通り、私を抱えて昇ってよ。」
 「いいわ。2人で帰りましょう。」

 マゴニアの女の子は女達と共に空に昇って行った。

 
 
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