皇女は隣国へ出張中

彩柚月

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雰囲気マジック 再び

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「せっかく好きになったことを後悔するなんて、随分寂しいことを言うんだね。それで、何を好きになったの?」

ディック様がよろけた私を支えると同時にほんの少し抱きしめてくれているような体勢でそんなことを言っている。

これ、前にもあったよね!?

「会えて嬉しいよ。話したいことがあったから。」

柔らかい微笑みを浮かべて私を見るディックに、乙女心は高鳴ってしまう。

私の気持ちを知りながら、私の気持ちを翻弄して、こうやって優しくすれば私が素直に言うことを聞くと知っていると思うと、なんて憎らしいと思うと同時に、仄暗い独占欲が首をもたげる。

ーーこの人を私だけのモノにしたい。

そんな醜い感情をグッと抑えて取り繕う。

「何でもありません。話とは何ですか?」

何だか意地悪をしたくて、わざと冷たくよそよそしく澄まして言うと、ディックは少しだけ困ったような笑顔を見せた。

(あ、この顔、大好き)

いや、そうじゃなくて。私は怒ってるんですからね!


「泡沫はさ。初めから固まってたみたいなんだ。」
「え?何の話…」

ふと、抱きしめられた。

「え…え?」

赤面すること私をそのままに、ディックは口を開く。

「ああ落ち着くな。リズをこうやって抱きしめたかったんだ。このまま話すね。」

恥ずかしい。けれども良かった。体勢のおかげで赤面を見られなくて済む。

皇帝は、既に私達が婚姻を結んでこの国のトップに据えるつもりであること。対外的には、ロザリア様が王妃になる目を残していると見せかけたのは、それはこの国の貴族達に乗っ取りを思わせることなく納得してもらう為。王子リチャードには既に避妊薬が処方されていること。だから、私達が婚姻することは決まっていること。

そして、そのことをディックは知らなかったこと。知らなかったから、王子リチャード
避妊薬を盛ろうと思ったこと。

それらをポツポツと話した。

「オリヴァーは話すタイミングをはかっていたと言ったけど、そのせいでリズが泣いた。許せなかったから一発殴っておいたよ。お兄さんを殴っちゃって、ごめんね。」

私は、それを聞きながら、こみ上げてくるものを止められなかった。わざと話してくれなかったんじゃなかった。知らなかったんだ。良かった。

体を離し、私を見つめたディックの、

「あーあ。結局、また、泣かせちゃったね。」

崩壊した。




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