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細かい話
しおりを挟む「さて。では話すとしよう。」
次の日。私の離宮の応接室のひとつで、お兄様を中心にアクア卿と私が向かい合うように机を挟んで対面する。
「どうなのだ。あの王子は。」
「励んではおられるようですが…芽吹く様子はありませんわね。そもそも何もわかっていないようですわ。もしくは知らないのか…それもそれで陛下も酷なことをと思わなくもありませんが、今はまだ私の籍はクレイドにあります。アクエイドの国の中に口を出すわけにもいきませんから何とも…。ただ、王子にあえて他の畑を与えるかどうかは、悩んでおりますの。もしも…ーーーなら、女性の犠牲が増えてしまうことになりますし。」
「わかっていなさそうですね。何せ自己紹介が王太子でしたから。」
あら。ディック様も辛辣だわ。
「ふむ。とはいえ、まだ継承式まで一ヶ月あるからな。それまでに芽吹くようならディックの役回りが変わってくる。」
「ということは、あくまでも、本流を重視するということでよろしいのね?」
「まあ…あの王子では不安もあるが…。それでも血は濃い方が良いし、次代は環境と教育でなんとでもなろう。個人の性質はどうにもならんものとはいえ、その上に乗るもの全てが血で決まるわけではないからな。」
血で決まるわけではない。
その意見には納得する。
生まれ持った性質のようなものは確かにあるものだと思う。気弱だったり運動神経だったり記憶力なんかもその範疇かもしれない。そういうものは、親から引き継いだ遺伝子レベルで決まっているのだろう。もしかしたら根本的な性格も生まれ持ったものに引きずられる傾向にあるかもしれない。
しかし、人間である以上、苦手なものは欠点はあって当然だ。それを努力や工夫や知識などで、克服したり自らカバーしたり、助言を受け入れるなど、善き人間になろうとし続けることはできる。正しい方向に導いていくのが大人の仕事ともいえる。それを環境と呼ぶのだろう。
「「ええ。その通りだと思います。」」
「しかし、リミットは決めるべきでしょう。」
アクア卿。
「そうだな。はじめから期限は決まっている。一年だ。その日は継承式当日。その日までに芽吹いたら公爵令嬢と。成らなければリズと。ディックはどちらかと婚約だ。」
胸にチクっと何かが刺さったような感覚に襲われて、私はアクア卿の方を見つめる。
視線が合わさった。
その様子を見遣りながらお兄様が申し訳なさそうに言う。
「まあ…報告では、王子はマリア嬢?だったか?に夢中らしいから、新しい畑は要らないだろう。」
アクア卿…ディック様。
ディック様は私の現在進行形の初恋の相手なのだ。もしかしたら伴侶になれるかもしれないという期待がよぎる。
これは政略だ。ここに私情を挟んではいけない。わかってはいるけれども切ない。
「そう…ですわね。」
「継承式の会場やアクエスト国内の警備などの手配は任せたぞ。権移譲の立ち会いのため神聖国から大神官が来られる。式の2日前にこっちの大神殿に入るそうだ。あの方は煩わしさを嫌う。式での宣言はしてもらうが民衆への披露目はなしだ。くれぐれも情報が漏れないように配慮してほしい。」
「わかりました。そのようにいたします。お兄様。」
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