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王太子の事情
15 再会
しおりを挟む「そうか…どこかへ行くのか。」
「はい、お互いに。」
「なに?」
「わたくしはクレイドに。そして殿下はアクエストの何処かに。もう、お会いすることは2度とありませんわ。」
「…私は何を間違えたのだ?」
「何も。間違いだと言うのなら、それはこの国の在り方だったのだと、今は思います。」
「国の在り方…」
「最後です。長くなるかもしれませんが、私の話を聞いてくださりますか?」
「ああ。」
ロザリアは鉄格子の向こうで、顔にベールをかけている侍女らしい人物と2人で、そこにあった椅子に腰掛けた。そしてゆっくりと、よく通る声で話し始めた。
「この国は豊かです。でも、その豊かさは、土地が肥沃であるわけでも、何か産業があるわけでもなく、ただ、水が綺麗で、売るほど湧いてくる土地であったことが理由でしょう。その水を管理し、分配することが、この国の王室の大事な努めでありました。」
「王室…」
「王の血を引く者のうち、王室という枠組みの中に居る者を王家と定め、王から数えて3親等まで、つまり、下は曽孫上は曽祖父母まで。おじおば、甥姪まで。これを王族と呼ぶ。そのことを殿下は理解されておりませんでしたね。」
「…」
「わたくしは、ずっと、殿下を誤解しておりました。そのことだけではなく、殿下は何も知らなさすぎる。税金で暮らして、税金を使って学んでいるはずなのに、なんて無責任な王族なのかと。でも違いました。」
「どういうことだ?」
「大切にされるがあまり、何も教えられていなかった。ということです。殿下を純粋培養で育てるために、俗物に触れさせないよう、周りが気を使ったのでしょう。その理由は、王族の末端が殿下のみであったこと。」
どういうわけか、曽祖父から子供が生まれにくくなっていた。隣国に渡った曽祖父の弟の方はそうでもなかったようなので、曽祖父に問題があったか、単純に血が濃くなりすぎた弊害か。
後宮を作り、何人もの女性と試すことで、やっと数人の子が生まれ、父の代に至っては、王妃を含め十数人の女性と関係を持ったにも関わらず、生まれたのは私ひとり。
父上は王妃を心から愛していたが、後継の問題はどうしても解決しなくはならないため、仕方なく選ばれてやってきた女性達と関係を持ったそうだ。
後宮とはいえ、王宮に上がるので、それなりの身分が必要となる。その選抜は元老院が行い、伯爵家以上の女性をあてがわれた。しかも、王に召されるからには、処女でなくてはならない。
ともすれば、婚約が決まっていた年頃の女性から、恋も知らないような少女まで。王の子を産むためだけに集められたのだ。しかもこの国の王継は男子でなくてはならない。脈々と男系の血を継いできたのだ。途絶えさせるわけにはいかない。過去に女王が居なかったわけではないが、その時は男系の血を継いだ者を王配とした。
今となっては、王家の血を引いている者は居れども、間に女性が入ってしまったりで、男系の血を持っている者は私しか居ない。
「後継の問題は大切です。前王陛下は女性のお好きな方だったので苦にはならなかったようですが、現王陛下は王妃陛下を愛しておられたので苦痛であったようです。」
愕然とした。
いつか、父上が言った。
ーー置けるのは愛人であって、愛妾ではない。
「陛下がそんなことを仰ったのですか…。確かに、この国の後宮において、愛妾とは心を得た人のことで、愛人はお腹様ですからね。」
…つまり、父上は、私の母を愛していた訳ではないと?この考えを続ける前にロザリアが言葉を続ける。
「そして、そのために集められた女性達も、全員が望んで後宮に入ったわけではありません。彼女達も大変な苦悩を強いられております。あわよくば寵愛をと野心を持って入った女性はともかく、そうではない女性の方が多いのです。どちらにしても、王の手付きになれば、もはや王宮から出ることは叶いません。寵愛が得られなかったからと、お役目が終わったからと、他の男性の元へ行くことは許されないのです。」
何度も何度も頭を殴られたような感覚に陥る。後宮にいる父上の愛人達のことなど、考えたこともなかった。
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