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中編(後)
しおりを挟む「何故ここに居る?」
王子だ。腕に可愛らしい女性をぶら下げている。挨拶もしないでいきなり上からの物言いに苛としながらも、こちらも挨拶抜きでこたえる。
「もちろん公務でございますわ。今は時間が空きましたので息抜きに散歩を。もちろん許可は得ておりますわ。」
「誰にだ。ああ、あの小娘だろうな。あの女、あの仰々しい離宮を建ててから、あそこに閉じこもっている癖に偉そうなことをする。」
「いいえ。わたくしの滞在および庭園の散策の許可は陛下にいただいております。それから、あの方はクレイドの王女様でございます。失礼な物言いはどうかと思われますが。」
「失礼?失礼なのはあちらだろう。クレイドの王女がわざわざこの国へ来たからには、王太子の私のところへ嫁ぎにきたに違いない。なのに一度も会いにこない。まあ今更、謁見の申請があっても却下するがな。」
「…そうでございますか。」
「そもそも。解消だと言ったのにそっちからの破棄となるなど。お前があれほどの慰謝料を請求するから我が王室には金がなくなってしまったのだ。そのせいで王女を娶らなくてはならなくなった。金を持ってきたからとあの女は好き勝手に財政を動かしている。こうなったのはお前のせいだと罪悪感はないのか?」
「ありませんわね。だいたい、わたくし達の婚約は政略的なものだというのに、一方的に婚約の解消を押し付けたのは殿下です。それならば、この10年に対して清算をするのは当然のことでございましょう。どちらにしろ、そのことについてのお話は、陛下とわたくしの父との間で、やはり政略的に解決なさったのでしょうから、わたくしは一切関知しておりません。」
「相変わらず可愛げのない。まあ、婚約を破棄されたお前など、仕事をするしか道はないだろうからな。そうだ。お前は王妃教育を受けていたではないか。私の仕事もやらせてやろう。」
「殿下に仕事がお有りなのですか?」
些か驚いて思わず言ってしまった。
「当たり前だろう!私は王太子だぞ!それに加えて、あの女には手に負えないからと毎日相当数の仕事を回してくる。」
何故か勝ち誇ったような顔で仕事をしていることを自慢してくる。王子が仕事をするのは当たり前でしょうに。少しでも仕事を回して貰えることに感謝するべきだわ。と心の中で呟きながら、あえて何も指摘しない。でも、これだけは。
「殿下。婚約は、破棄されたのではなく、こちらから破棄したのですわ。」
「どちらにせよ、破棄で傷つくのは女性の方だろう。気を遣って解消を申し出たのに、無碍にしたのはそちらだからな。」
この方は…もしかしたら、可哀想な人なのかもしれないと思った。もう少し、殿下の状況を鑑みて、寄り添うべきだったのかもしれない。
確か前にも、同じように思ったことがあったことを思い出した。
ーー私は楽しんではいけないのか!
そう叫んだ殿下に、初めて憐憫の情を感じたのだ。この方に慰めが必要だと思ったのもその時だった。だからわたくしは…
いいえ。もう過ぎたこと。
お互い様。確かにお互い様だったのかもしれないわ。わたくしは国の犠牲になるつもりだったけれど、この方は、生まれた時から犠牲者だったのかもしれない。
しかしもう、何を思っても全ては遅い。だいたい、この男だって、わたくしとの仲を良好に保とうとする意識が足りなかったのだから、やはりお互い様だったのだろう。
もう、この男が何を言っても、事態は変わらない。
殿下。あなたは既にお飾りなのですよ。
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