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46 胎内巡り
しおりを挟む——真っ暗だ。何も見えない。
扉を閉めたそこは、前も後ろも横も上も下もわからない。確かに足の下に地面を感じるのだけど、何も見えない。目を閉じている方が明るいくらいだ。音もしない。不思議な感覚がする。手を彷徨わせると横に壁がある。手を当てて、歩くことにした。
ただ、まっすぐ歩けば良いと、おじいちゃんは言った。言われた通りにするしかない。ただ歩く。歩いていると思うのだけれど。何も見えないので、進んでいるのかどうか自信がない。見えないことで平衡感覚を失ったためか、目眩を起こしてしまう。
瞬きを定期的にしているはずなのだけれど、間もなく目を閉じても開けても同じ暗さになった。目の奥に残っていた光の残像が消えてしまったのだろう。もう、目を開けているのか閉じているのかもわからない。
ふと気づくと壁と地面の感覚がなくなっていたことに気づいた。
怖くはない。でも、まっすぐがわからなくなったので、立ち止まってしまった。
——ここが浮遊の空間。
逆らわずに身を預けろと言われたが、預けるといっても、上も下もわからないので、止まった格好のまま居ることにした。立ったまま……だと思うのだけれど。見えない上に地面も壁もないせいか、体の感覚が不自由だ。
何もすることがない。というかできない。眠いような気もする。目を閉じなくても眠れる。不思議だ。時間の感覚がわからない。どのくらい経ったのだろう。いつまでこのままなのか。
最初はそんなことを考えていたような気もするが、そのうち何も考えなくなり、ただそこにいた。
気がつくと眠っていたようだ。
ほどなくしてまた眠る。
いや、これは眠りではなく瞑想か。感覚を遮断することで強制的に瞑想状態を作っているのか?
初めの頃は覚醒するたびに、そんなことを考えていたが、だんだん覚醒しても考えなくなった。ふと何かが思い浮かぶ。それは懐かしい両親のことだったり、今までの生活の一場面だったりおじいちゃんやベルの顔だったり。浮かんでは消えて瞑想に入る。
覚醒と瞑想を繰り返し、顔の見えない誰かと家族をしている場面が繰り返し出でくるようになった。その場面のシチュエーションや台詞を考えたりもした。覚醒時にそればかりを見るようになった頃、足に地面を感じた。
夢から覚めたような気分で、手で周囲を探ると壁もあった。無意識に足を動かす。やがて突き当たりらしい場所に到達する。
前を押すと、わずかに光が差し込み、それは扉だとわかって、外へ出た。
部屋の中に外の光は差し込んでいないと聞いていたが、今まで何も見えない空間にいたからか、眩い光を浴びたようで、目が眩んだ。
「思ったより早かったの。」
おじいちゃんが待っていてくれた。
「私、どのくらい中にいたの?」
そう聞くと
「2時間くらいかな。さ、目が眩むでしょ。とりあえず慣れるまで座って。目を閉じていて。開けちゃダメだよ。」
と言いながら、ベルが誘導してくれる。
「ベルも来てくれたの?」
「大神官様が読んでくれたからね。長くなりそうならここで待つ人間の交代要員が要るでしょ。」
なるほど。出てきてすぐの人は光に目が驚いて真っ直ぐ歩けないから介添え人が要るのね。
簡単な布で目を覆い、しばらく座っていると、だんだん瞼の裏に模様が出るようになってきた。もう良いかしらと目を開けてもまだ目隠しで周りは見えない。
「自分の心が見えたかね?」
とおじいちゃんの声が聞こえた。
思わず目隠しを忘れて立ち上がるとよろけたようで、慌ててベルが支えてくれる。お礼も言わずに、
「私、家族が欲しいわ。」
と、言った。
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